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「〝強欲〟に対する日本人と アメリカ人の感覚の違いを 描きたかった」--真山仁

 リーマンショックの渦中、アメリカを象徴する巨大企業をめぐって勃発した買収合戦。強欲をエンジンに暴走、破綻に向かうアメリカ経済に翻弄される人々と、その坩堝で戦いを繰り広げる日本最強の企業買収者(ハゲタカ)、鷲津政彦の活躍を描く『グリード』が10月29日に刊行された。著者の真山仁氏に、作品の見どころを聞いた。

真山仁氏は語る 経済行為に道徳を持ち込まないアメリカ

-- 主人公の鷲津のキャラクターはどのように作り上げたのですか。

(まやま・じん) 1962年大阪府生まれ。87年、同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004年、企業買収の熾烈な世界を描いた『ハゲタカ』でデビュー。続編の『バイアウト(『ハゲタカII』に改題)』『レッドゾーン』とシリーズ化される。他にも『マグマ』(角川文庫)『プライド』(新潮社)『コラプティオ』(文藝春秋)などの著作がある。

(まやま・じん)
1962年大阪府生まれ。87年、同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004年、企業買収の熾烈な世界を描いた『ハゲタカ』でデビュー。続編の『バイアウト(『ハゲタカII』に改題)』『レッドゾーン』とシリーズ化される。他にも『マグマ』(角川文庫)『プライド』(新潮社)『コラプティオ』(文藝春秋)などの著作がある。

真山 鷲津はデビュー作の『ハゲタカ』から描き続けていますが、「悪くて強い」、そしてアンチヒーロー的な要素を兼ね備えた人物を登場させたいという思いから生まれたキャラクターです。『ハゲタカ』は、1990年代のバブル崩壊後の日本が舞台なので、シリアスに書き過ぎると読んでいられないほど息苦しくなってしまう。そこで、面白く読んでいただくために、強烈なキャラクターをたくさん出して痛快な物語にしようと考えました。鷲津はニコニコしながら、気が付いたら黙って相手を刺しているような人物。彼に限らず、物語に出てくるのは普通より少し強い人々で、できたらみんな悪い人にしたかった。いわば、現代の歌舞伎みたいにしようとしたんです。そうすれば、ドロドロした物語がうまく回っていくのではないかと。

-- 『グリード』を書くにあたって、キッカケとなった出来事は。

真山 リーマンショックが起きた時、メディアから取材も受けましたし、編集者やファンの方からも次回作のテーマはリーマンですね、と言われていました。ただ、ありきたり過ぎるので私は初めそのつもりはありませんでした。とは言え、欧州の債務危機も元はといえばサブプライム問題が原因ですし、いまだに中国経済や日本経済にも影響を及ぼしているのを見ると、この先『ハゲタカ』シリーズを書くにしても避けて通れないテーマだという気がしました。

-- 執筆のための取材はどのように進めたのですか。

真山 あれだけ大きな話になると、数年たって昔話にならないと、誰も本当のことは喋ってくれません。2011年の秋に、ニューヨークに出掛けて金融業界関係者や金融記者などに会って話を聞きました。私にとってはファクトよりムードのほうが大事で、実際に何があったかよりも、彼らの言い訳や今どう考えているかを知りたかったのです。

 マイケル・ダグラス主演の映画『ウォール街』にも出てくる「グリード・イズ・グッド(強欲は善)」という考え方を改めて、反省したかなとも思ったのですが、そうではありませんでした。日本では道徳的に強欲は駄目だと考えられていますし、キリスト教でも7つの大罪の1つです。しかし彼らはグリードは「グッド」どころか「アメリカン・ドリーム」だと言う。リーマン後に金融機関のCEOたちは追放されてしまいましたが、彼らにしたらそれで禊が済んだということですね。その後は、列の後ろに控えていた新興のヘッジファンドやノンバンクなんかがまた前面に出てきた。日本人にはこの感覚は絶対に分からないだろうなと思うんです。

-- その違いを『グリード』では伝えたかったのですか。

真山 アメリ真山仁カ人と日本人の違いが分かる一番いい例が道徳に対する考え方です。アメリカでは成功すると道徳を口にするようになる。でも、日本人は失敗した人が道徳を口にして、成功した人を強欲とか銭ゲバなどと言って、批判します。アメリカ人にしてみればまず勝つことが大事で、金持ちになったらいくらでも施しをするという考え方なのです。経済行為に道徳を持ち込まないからアメリカは強い。常に新陳代謝をしなければ生きていけないアメリカと、大河のような流れの中で世代交代だけを繰り返す日本との差が、リーマンショックみたいな大きな出来事があるとハッキリ現れる。小説を通じて伝えたかったのは、こうした違いを認識して、正しくアメリカを理解しませんかということなのです。

禁じ手に走った超大国の苦悩を語る真山仁氏

-- 一方で、小説では伝統企業を守ろうとするアメリカ人の情緒的部分も描いていますね。

真山 アメリカという国は、フロンティア・スピリッツに象徴されるように、仲間を非常に大事にする側面があります。投資銀行は実はアメリカではものすごく嫌われていて、地道に物を作るという価値観も大事にしています。でも、そればかりでは世界では勝てないと割り切れるところが日本との違いです。日本人は物を作って磨くのは貴いけれど、金儲けは汚らわしいと思っている。

-- 多様な価値観がアメリカの強さのベースとも言えますが、いつまでも勝ち続けられるものでしょうか。

真山 超大国であり世界の警察でもあるアメリカの役割は常に勝ち続けることですが、実際には難しくなっています。90年代にアメリカが世界のトップに立った原動力はITと金融でしたが、次に何で勝つかが見えていません。昔はそれが政治力であり軍事力でしたが、政治力は衰え、戦争する適当な相手もいなくなってしまったのですごく迷っているように見えます。そしてサブプライムローンのような禁じ手を使ってしまった。失業者に住宅ローンを組ませるなんて普通は考えられません。そういうところに手を着けるというのは、アメリカが絶望的に苦しくなっていることを表しています。

-- 最後に『グリード』の読者にメッセージを。

真山 大きな話をすれば、小説というのは人がどう生きて死ぬのかを考えるものだと思っているんです。『グリード』の冒頭には、「お金は人を幸せにするか」という日本人が一番苦手な問い掛けが出てきます。欲望をどこで止めると人は幸せになれるのか、どの一線を超えると勝っても幸せになれないのか、味わいながら読んでいただければと思います。あまり難しく考える必要はありませんが、日本人が抱く「ほどほどのお金がいいよね」という感覚の理由が、本作を読んでいただければ分かるのではないでしょうか。

 
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