経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

クリミア問題で米露は冷戦に逆戻りしたのか

津山恵子のニューヨークレポート

足並みが揃わない西側諸国それぞれの事情

オバマ大統領は、ウクライナ情勢でロシアへ追加制裁をする用意があると声明を発表した(写真:時事=EAP)

 ジェームズ・ボンドが登場する映画「007」シリーズの過去の作品を見ると、旧ソ連の地図が真っ赤に塗られて出てくることがある。「冷戦」時代に製作されたため、「悪の帝国」として、ソ連が赤く塗られていたわけで、英国人俳優ダニエル・クレイグが演じる最近のシリーズでは、全く無縁の世界だ。

 しかし、ウクライナ紛争・クリミア問題で、1991年のソ連崩壊以来、忘れていた「冷戦」という言葉がにわかに聞かれるようになった。果たして、今のロシアと米国・西側諸国は、再び冷戦状態に突入するのだろうか。

 冷戦は、一般的には第2次世界大戦後、徐々に築き上げられた体制である。ソ連率いる東側諸国と、米国率いる西側諸国が、イデオロギーと軍事的影響力の対立を顕在化させた。しかし、直接戦争という最悪の結果には陥らなかった。

 現在が「冷戦2・0」状態にあるのかと問われるようになった事の発端は、クリミア問題である。ウクライナの領土であったクリミアで、親ロシア派自警団が住民投票を実施し、ロシア編入を可決した。ロシアはこれを黒海や内陸部からの軍事力で支持し、プーチン大統領自らクリミア編入を発表した。これに対し、米国や日本をはじめとする西側諸国は、編入を認めないという態度を取っている。

 まず、米国の態度から見ると、「冷戦2・0」というのはあてはまらない。かつてのようにイデオロギーの対立を強く見せているのではなく、編入が国際法に違反することを強く主張している。また、ジョン・ケリー国務長官は、クリミアでの住民投票が実施される前から、投票後でもロシアと話し合う計画であることを明らかにしている。つまり、あくまでも話し合いでの解決を前提としている。

 むしろ関係が複雑なのは、欧州の西側諸国だ。東西融和が進み、鉄のカーテンがなくなった今、ロシアのエネルギーへの依存度は、過去になく高まっている。

 欧州全体でロシアの石油・天然ガスへの依存度は約3分の1と極めて高い。オランダで34%、ドイツで30%、イタリアで28%で、米国最大の同盟国である英国ですら13%をロシアに頼っている。これでは、ロシアに対して有効な経済制裁を打とうとしても、なかなか足並みが揃わないのも納得できる。

事態を見守る米国市民背景には厭戦感

 すぐには「冷戦」状態に戻らないのは、米国市民の頭の中も同様だ。

 例えば、冷戦時代に、今回のクリミアのようなロシアの領土拡張問題があれば、米国内の保守派はロシアの攻撃に対して一致団結し、「戦争モード」に突入しただろう。リベラル派が多いニューヨークでさえ、ロシア関連の企業ビルや外交施設、国連本部前で大きなデモが必ずあるはずだ。しかし、クリミアの住民投票前後ですら、デモなどは見られなかった。

 ロシアが多少覇権主義の動きを見せたとしても、すぐに二律背反といった冷戦構造にはならない。ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストが既に1カ月あまり、連日1面トップをウクライナかクリミアで埋めていても、米国民は静かに見守っている。

 米国ではさらに、厭戦感が大きく影響している。その世論を背景に、13年にシリアで化学兵器が使用された際、「武力介入」という言葉は散々言及されたものの、実行には至らなかった。米国の外交政策は当面、この厭戦感を強く意識しながら漂流していくだろう。

 したがって、米国をはじめとした西側諸国としては、「冷戦2・0」には突入しにくい。「冷戦」という言葉を使いたいメディアや学識者の言葉は、よく解釈すれば「警句」として機能していくのだろう。

 また、「西側の経済制裁はどれほど有効なのか」という疑問もよく聞かれる。これに対し、旧ソ連の最高指導者ニキータ・フルシチョフ氏の孫娘でニューヨークのニュースクール大学国際関係学教授のニーナ・フルシチョワさんが、ナショナルジオグラフィックにこう答えている。

 「ルーブルの急落、ビザの取得ができないことや、飛行機に乗れない状況ほどひどいことはありません。過去25年の間で、ロシア人は自国が比較的開かれた国であるという事実に慣れてしまいました。私はロシア人が現状に満足しているということを決して過小評価してはならないと言いたい」

 ロシア人の心理も「冷戦」に逆戻りできないことをよく物語っている。

 

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