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経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

「トップの決断は一つひとつの積み重ねから」--三村明夫(日本商工会議所会頭)

三村明夫氏

仕事に全力投球する中でこそ力が養われる

 組織のリーダーに必要な条件というのは、人によって考えが違うので普遍的なものはないと思いますが、やっぱり自分の意見をみんなに理解してもらう能力というのは非常に大事だと思うんですよね。個性を明確にするのは必要だけれど、自分の言葉で分かりやすく喋れるということが大事だと思います。

 自分が新日鉄(現新日鉄住金)の社長になったとき、どんな社長になりたいか考えました。就任前にはさまざまな人物に会って、トップに必要なことに関して話を聞いて回りました。

 その1人にタイのサイアム・セメントの社長がいて「三村さん、日本の社長さんはやさしいことを難しく言い過ぎる」と言われました。そんなこともあり、自分の言葉で物事を分かりやすく話せる社長になりたいと思いました。簡単なことを難しく言っても、人に感動を与えることはできませんから。だから、どんな演説でも私は事前に頭の中にメモをつくって場に臨みます。そういう訓練を繰り返すことで、だんだんできてくるわけです。

 トップになると、従業員の前で話す機会は非常に多い。ややもすると、上層部は現場の危機意識が分からないし、現場の人は上の危機意識が分からない。だから、現場と上の距離をできるだけ縮める努力をすることもトップにとっては必要です。

 私の場合もそうだけれど、特定の人物に出会ったり、大きな出来事があったりしたから、雷に打たれたように今日の自分になったということではありません。そういう出来事があれば幸せですが、雷に打たれるということは、潜在的に本人がそれを受け入れる要素が既に出来上がっているんだと思います。

 トップが決断する姿勢について言えば、大事なのは日ごろの仕事を全力投球で解決する中で、決断力を養っていくことだと思います。具体的な仕事を一つひとつ仕上げるプロセスの中で、組織の向かうべき姿が浮かび上がるわけで、そこを無視してトップダウンで方向を決めることはできません。

75%の合理化を通じて決意したこと

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三村明夫(みむら・あきお)
1940年生まれ。群馬県出身。東京大学経済学部経済学科卒業後、63年富士製鉄(後の新日本製鉄)入社。2003年社長、08年同会長、12年新日鉄住金取締役を経て13年より同名誉会長。日本鉄鋼連盟会長や日本経団連副会長などを歴任し、13年11月より日本商工会議所第19代会頭の座に就く。

 自分の心の中に非常に大きく残っている出来事として、高炉の大規模な閉鎖にかかわった経験があります。

 1985年のプラザ合意の後に円が対ドルで240円から150円まで急騰し、輸出による儲けが大きく減ってしまいました。国内の需要が大幅に減り、ユーザーである自動車、造船各社から相次ぐ値下げ要求が来ました。

 その時、新日鉄では特別の委員会をつくり、会社の将来をどうするかを話し合い、私はその事務局を務めました。取締役十数人が集まって、半年ほど議論した結果、当時13あった高炉を8に減らす計画を策定しました。

 本計画で休止対象は、八幡、堺、釜石、広畑、室蘭の製鉄所でした。高炉を休止するということは、従業員やその家族を含めた多くの市民が減るということで、地域にとっては大変な衝撃です。

 ですから、労働組合や地域の関連会社が手を取り合って自分たちの高炉は休止すべきではないという議論を展開して、凄まじい反対運動が起きました。例えば釜石の場合は、周辺の自治体からも合わせて12万人もの署名が集まりました。しかし、結果的には、約6万8千人いた従業員を約1万7千人まで減らすことになったのです。実に75%もの合理化です。

 これについての感想はいろいろありますが、やはり、もうこういうことは絶対に繰り返してはいけないと。事業環境の変化は仕方ないとしても、これほど大規模な合理化をせざるを得なくなったのは、やはり経営の問題だと認識しました。

 今は「聖域なき合理化」とよく言われますけど、本来、合理化には聖域があるべきなんです。何しろ75%の合理化ですから、それだけやるなら他の部門でも合理化は絶対行わなければならない。そして、再び収益が上がり始めたら、本来合理化すべきでなかった部分は元に戻すことが必要です。会社の合理化というのは、単に規模を縮小すれば成り立つのではありません。

 それは本当に異常な時期でしたが、こうした体験を持てたことは、自分にとって非常に貴重だったと思います。社長になると大概のことは実行できてしまうので、二度とやらないという決意を固める上で、良い意味での原体験となりました。(談)

 (文=本誌編集長・吉田浩 写真=森モーリー鷹博)

 
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