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過去最高益を叩き出したトヨタの死角

豊田章男氏

2013年度決算で過去最高益を達成したトヨタ自動車。ただし、今後は販売台数1千万台の維持という世界の自動車メーカーが経験したことがない領域に踏み込まなければならず、行く末については不安も見え隠れする。

豊田章男

販売台数1千万台の維持が至上命題となった豊田章男社長(Photo:時事)

世界トップレベルの収益力

 トヨタ自動車が5月8日発表した2014年3月期連結決算は、本業のもうけを示す営業利益が前期比73・5%増の2兆2921億円と、自身が持つ日本企業としての最高益を6年ぶりに更新した。円安効果に加え、リーマンショック後に進めたコスト削減が下支えした。15年3月期の営業利益も過去最高を更新する見通しで、「稼ぐ力」がついていることをあらためて示した。

 好決算の最大の要因は、為替が1ドル=100円と前年度に比べ17円円安に振れたことだ。単純計算すれば、これまで2万ドルで販売していたクルマが、日本円に換算すれば、たった1年で166万円から200万円に跳ね上がったこととなり、34万円が利益として上乗せされることとなる。トヨタの為替効果はこうした積み重ねで、営業利益ベースで約9千億円にも上った。

 加えて、リーマンショック後に進めたコスト削減効果が大きく貢献している。需要変動に応じて自在に伸縮できる生産ラインを開発したり、部品製造に使う金型の軽量化など自動車生産を細かく見直し、コスト低減を積み重ねたりした結果で、「1ドル=85円、総販売台数750万台でも1兆円の利益を出せる」(トヨタ幹部)企業体質を作り上げた。

 この筋肉質な体質がなければ、過去最高の利益は達成できていなかったわけで、仮に、リーマンショック前の企業体質のままであれば、「14年3月期の連結営業利益は1・2兆円程度だった」(証券アナリスト)とみられる。決算会見で、豊田章男社長が「稼ぐ力は強くなっている」と自信を示したのもこのため。収益力の高さを示す売上高営業利益率も8・9%と、独フォルクスワーゲンやルノー・日産自動車連合、米ゼネラルモーターズ(GM)をしのぐ、世界大手ではトップレベルの収益力を達成した。

 トヨタは、「取引先に迷惑をかけたくない」として、リーマンショックのような大きな需要減に陥っても、営業赤字にならないことに強い意欲を示しており、コスト削減努力はさらに進める見通しだ。

 また、「経営資源を振り向けられる今こそ、思い切った変革や将来の成長に向けた種まきを進めていく」(豊田社長)として、持続的成長に向けた取り組みも進めている。

 昨年4月から自動車事業を「先進国」「新興国」など4つの組織に分け、意思決定の迅速化を図ったり、1千万台の販売を管理する上で、車種の開発を大くくりにする取り組みも始めた。また、17年にも取り組みが本格化する、開発段階から部品やユニットを共通化したり、基本部品を複数車種で活用したりする自動車開発手法「トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー(TNGA)」の導入も進めている。今期は、研究開発費が過去最高の9600億円となるほか、設備投資に1兆円を超える資金を振り向けるなど、稼いだ利益を投資に回す。

 

火蓋を切るVWとの全面対決

 一方で、課題は前期に達成した1千万台の維持だ。600万台の規模を維持するのと、1千万台を維持するのでは、様相は全く異なる。「1千万台ともなれば、苦戦しているからと捨ててもいい市場はもはやなくなる。全世界でまんべんなく売らないと維持できないレベル」(証券アナリスト)だからだ。

 今後は、縮小する日本市場の販売を補う必要がある。ドイツ勢の本丸である欧州や出遅れ感がある中国、南米などでの販売拡大は大きな課題だ。

 また、避けられないのが、独フォルクスワーゲン(VW)との全面対決だ。これまで、お膝元の欧州をベースに、中国で大きく利益を稼ぐ構造で規模を拡大してきたVWに対し、トヨタは日本を地盤に、北米を得意としてきた。いわば、巨大市場をすみ分けてきた2社だが、1千万台を維持するとなれば、全世界でしのぎを削ることになる。現在、VWは北米で苦戦続きだが、これを克服すべく車種を増やすなどしている。

 一方のトヨタも、中国での販売台数を25年に200万台(前期は91万7千台)まで広げたい考えで、VWの牙城を崩すべく、得意のハイブリッド車(HV)の現地生産拡大などで対抗する。

 ただ、マーケティング力に優れ、伝統を振りかざしてブランド力を誇示する欧州勢は、全世界の自動車ユーザーの「憧れのブランド」で、トヨタはこうしたソフト面では後れを取る。「燃費」「品質」というハード面ではアドバンテージを持つが、徐々に差は縮まっているのが実情だ。

 現在、豊田章男社長が、「ワクワクドキドキするクルマ」「もっといいクルマをつくろうよ」と社内外に発信するのはこのためで、トヨタは「クラウン」などで進めてきたデザイン改革を推し進め、「理屈ではなく、欲しいと思わせる車づくりをしていく」(豊田社長)方針。トヨタが一番不得意だった「個性」を強化することで、世界のライバルメーカーとの競争に打ち勝たなければならない。

 現状では、まだまだ道半ば。デザインに対する好みも、千差万別。これならば売れるというデザインの「方程式」はもはやない。トヨタは安泰をいつまで続けられるか、不安要素は多い。

(文=ジャーナリスト/柴田健二)

 
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