好調に転じた新興国の株式と通貨
今年に入り、新興国株式や通貨が好調だ。特に、高インフレ、経常赤字が懸念され、昨年、株価や為替相場が大きく下落した国の反発が大きい。とりわけ、インドネシア、インド、トルコは好調だ。昨年の安値から5月19日まで、インドネシアの株価(MSCI株価指数)は35%上昇、インドは31%上昇、トルコは20%上昇。同じく、インドルピーの対ドル相場は17%上昇、インドネシアルピアは7%上昇、トルコリラは3%上昇した。
これらの通貨が弱かった主な原因は、高インフレと経常赤字だ。こうした状況下では、政府や中央銀行が目先の景気動向を重視するため、金融引き締めを躊躇する傾向がある。通貨が弱いと輸入物価が上がるので、インフレになりやすい。物価が上がると、その国の製品の国際競争力が落ちるため、経常収支が悪化する。経常赤字が膨らめば、通貨は弱くなる。つまり、悪循環だ。加えて、昨年5月、バーナンキFRB議長(当時)が、米国の量的金融緩和第3弾(QE3)縮小の方針を表明したため、世界の投機資金が新興国から米国に逆流し始めた。
その結果、インドネシア、インド、トルコ、南アフリカ、ブラジルの通貨が大きく下落し、フラジャイル5(脆弱な5カ国)と呼ばれた。2010年以降、ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペインがPIIGSと呼ばれ、これらの国債が大きく売り込まれ、経済危機に瀕したことは記憶に新しい。これがプレッシャーとなって、それぞれの中央銀行は大きく金利を引き上げる方針に転じた。政策金利は、インドは7・25%(13年)から8・0%(14年)、インドネシアは4・0%から5・75%、トルコは4・5%から10・0%に引き上げられた。これが、通貨反転の大きな理由だ。
さらに、政治の変化も大きい。インドでは、下院の総選挙において最大野党であるインド人民党が単独過半数を確保した。その結果、経済改革に積極的なナレンドラ・モディ首相が誕生する。10年間にわたって政権を担当したマンモハン・シン首相は所得再分配を重視する政策をとり、インドの高成長を実現した。しかし、高インフレと経常赤字の解決はできなかった。グジャラート州首相としての実績を持つモディへの期待は高く、選挙結果を好感して株価は急上昇した。
インドネシアでは、今年7月の大統領選挙において、ジョコ・ウィドド・ジャカルタ特別州知事の当選が確実視されている。ユドヨノ大統領は、2期10年を務め、憲法上、3選はできない。しかも、与党の汚職事件が相次ぎ、支持率は低迷している。与党は候補者が擁立できない状態であり、政権交代後、ウィドドは強い政治基盤を持つこととなろう。
新興国の中核になったトルコ
政治という点で、最も注目されるのがトルコだ。イスタンブールは、20年夏季オリンピック招致を東京と争ったが、活動期間中に暴動が頻発し、結果として東京に敗れたのは記憶に新しい。トルコにとって、政治、社会の安定は、特に重要だ。
トルコは、長く帝国支配が続いたため、民主主義の育成が遅れた。1960年、71年、80年と3度にわたるクーデターが発生するなど、政治の不安定が続いた。74年には、キプロスに侵攻し、現在もトルコ系住民が多いキプロスの北半分を実効支配する。政治が不安定だと、経済開発は進まない。数度の危機を経て、00〜01年に、トルコは最大級の通貨危機に襲われた。インフレ率はピークの80年に110%に達した。年間の対ドル通貨下落率は、最大で61%(94年)になった。
事態を変えたのが、02年に首相になった公正発展党の党首エルドアンだった。05年に、エルドアンは100万分の1のデノミを実施した。つまり、100万リラが1リラになったのだ。これが成功し、ハイパーインフレは沈静化した。その後、トルコ経済は急速に回復し、新興国の中核となった。
トルコの最大の強みは、地理的な条件だ。トルコは、欧州、アジア、中東、ロシア、アフリカの要に位置する。このため、トヨタ自動車、ダイキン工業、ホンダなど、日本を代表する企業が多く進出している。
トルコ人は勤勉であり、対日感情はとてもいい。現地の日本企業は、異口同音にトルコ人の労働の質の高さを指摘する。これに加えて、通貨安、経済開放政策の成功によって、自動車産業が、トルコの主力産業に育ちつつある。安倍晋三首相は、トルコを訪問し、原子力発電建設の支援を表明するなど、日本との外交関係も順調だ。そして、ようやく欧州経済がユーロ危機から脱却しつつあり、トルコの輸出に好影響を与えよう。
一時、人気が低迷したエルドアンだが、今年3月の地方選挙で、与党公正発展党が勝利し、その政治基盤は安定しつつある。株価、通貨とも、公正発展党の勝利を好感して上昇した。今年8月に大統領選挙が予定されているが、エルドアン首相の立候補が有力視されている。エルドアン大統領誕生となれば、市場が大いに好感することが考えられる。
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