2009年9月に、超軽量メガネ「Air frame」の販売を開始し、以来、快進撃を続けているジェイアイエヌ。同社は、視力矯正用と限定されていたメガネの概念を一変、さまざまな症状やTPOに応じた機能性を付与することで、縮小傾向にあったメガネ市場の活性化にも寄与している。
中でも昨年9月に発売されたパソコン用メガネ「JINS PC」は、眼球への有害性が指摘されるブルーライトを最大で50%カットできることが評判となり、現在まで累計300万本を超える大ヒット商品にまで成長した。ジェイアイエヌの今後の展望を田中仁社長に聞いた。
今期は〝足固め〟の年にしたいと語る田中仁氏
── 前期決算(2013年8月期)は好調でした。

田中仁(ジェイアイエヌ社長)
田中 「JINS PC」の牽引が大きいですね。メーンキャラクターに人気絶頂の「嵐」の櫻井翔さんを起用できたことも大きい。それと私自身がテレビに出演させていただく機会も結構な宣伝効果にもなりました。上半期は、それら種々の要因で「JINS」の知名度が上がったことが好調を牽引しました。
── 前期は既存店の売り上げが対前年をクリアしているのも頼もしいですね。
田中 これは「前期に関しては」という注釈が必要です。今期に入り前年の〝ブーム〟の反動から既存店売り上げが伸び悩んでいます。しかし、それまでは50カ月連続で対前年をクリアしてきましたから、この結果は織り込み済みです。
── 今期は既存店対策として何か考えていますか。
田中 今期は足固めの期にしたいと考えています。次の成長に向けた組織力を付けていきたい。具体的に言えば、何でもそうですが力というのはピンチを迎えた時に付くものです。
当社が、大きくブレークスルーしたのは、09年9月に、それまでの低価格一辺倒だった体質を変革、付加価値のある商品開発に挑戦した結果、業績が急激に伸びたのです。しかし、成長することは同時に人員の増加を意味します。そういう時期に入社した人は業績の良い時しか知らない。すなわち、挑戦を怠りがちな環境で育っていますから、ルーティン業務に甘んじてしまう傾向にあります。われわれはベンチャーですから厳しくなった時こそ、一人ひとりに新たな挑戦を促すことが重要なのです。
── 具体的には。
田中 1つの試みとして、部署間のマネジャーを異動させてみました。マネジャーも各々で考え方は違うし、求める組織も違ってきます。そうなると社員も必然的に変わらざるを得ない。組織というのは、そもそも頭が変わらないと変革は無理なんです。魚だって悪くなる時は頭からです(笑)。短期的には組織内にネガティブ現象が生じる場合もあるかもしれませんが、しかし、ここを乗り切れなければ次の成長はないんです。ビジネスはチャレンジです。チャレンジ精神を失った人間や組織に成長はないと自身の経験則からも断言できます。
── チャレンジという意味では、米国進出を表明しましたね。既に進出している中国から東南アジア圏へ展開するとばかり思っていました。
田中 例えばシンガポールに進出するのも、米国に進出するのも資金のリソースはそれほど変わりない。そうであるなら大きな池を狙わない手はないのではないですか。世界のマーケットの中心は、今や中国と米国です。この両国を抑えれば間違いなく世界一です。確かにインドを筆頭に東南アジアの人口は伸びています。しかし、マーケット規模は米国とは比べものになりません。
── 米国進出は当初から頭の中に描いていた戦略なのですか。
田中 もちろんです。既に現地での人員採用も実施しています。UCLAやUSCといった現地の優秀な学生を採用し、現在、日本で研修行っています。その一方で、米国だけでなく将来的な世界進出を見込んで、シンガポール、マレーシア、タイ、ベトナムの最高学府卒の学生も採用しています。うれしいのは、ビジネスモデルの可能性を感じて弊社で働きたいと言ってくれていることです。今後はヨーロッパでも採用活動を実施したい。世界中から優秀な人材を集め、東京本社をダイバーシティ化させながら、将来の現地での出店に備えていきたい。
── 米国のメガネ市場はどうなのですか。
田中 現在、日本市場は約4千億円ですが、米国のメガネとレンズフレームの市場規模は約1・9兆円です。日本の約5倍と比べものにならないくらいに大きい。しかも、日本のように老齢化が進んでいないので、若年層を含め購買力は高いんです。既存の日本向け商品に加え、新たに欧米向けの商品を開発して対応していきたい。価格も重要になりますが、ほぼ日本と同一で考えています。
田中仁氏の思惑 勝算十分な米国市場
── 米国のメガネの平均単価はどのくらいなんですか。
── 1号店はサンフランシスコを予定しています。
田中 サンフランシスコは、ITのメッカ、シリコンバレーが近い。弊社の持っている「JINS PC」とは親和性が高いし、サンフランシスコという自由な雰囲気は弊社の企業文化にも合います。さらには人種も多様です。これからグローバル企業を目指す上で、あらゆる人種に「JINS」を認知していただくことも狙いです。来年のクリスマス前にはオープンしたいと考えています。
── 「JINS」ブランドを浸透させる方法は。
田中 現状で「JINS」は、まだ日本のブランドです。グローバルで通用するブランドであるかと問われたならば、価格競争力こそありますが、メッセージ性が、まだまだ弱いと考えています。ヨーロッパで成功している「無印良品」さんの成功理由を考えた時、思うのは、企業のDNAや企業姿勢をきちんと消費者にコミュニケートできているのだと思います。われわれのDNAは何で、どんなことをメッセージとして発信していくべきかという〝ブランドビジョン〟をあらためてブラッシュアップしなければならない時期にきていると思います。米国に進出し成功を収めるには、そこまで準備を整えることが必要です。
── 一方、現在18店舗を展開する中国の状況は。
田中 年内には20店舗を超えます。さらに来年の春まで10店舗が既に決まっています。中国は5年で100店舗を目標としました。これまで決して楽な道程ではありませんでしたが、現在では既存店の足元も堅調に推移しています。最初は相手にもしてくれなかった中国の有力デベロッパーからも出店要請が届くようにもなりました。そういう意味では、中国は完全な成長軌道に乗ったと考えています。現地のスタッフは「1千店舗も夢じゃない」と言っています。要は何事も宣言してしまえば実現していくものなんです(笑)。
人材育成にも強い自信を持つ田中仁氏
── 国内500店舗体制へ向け出店をさらに加速しています。成長に人材は追い付いているのですか。
田中 国内は今期65店舗を予定していますが、社員教育の仕組みが整ってきて新店をオープンさせても以前よりも店舗の平均点は上がってきている。そういう意味では、〝チェーン店の罠〟ともなる店舗を急拡大し、既存店が落ち込んでガタガタになるというパターンは当てはまりません。これは私が、抜き打ちで新店に行った時の様子で十分に把握できます。入社2~3年目の店長も多いですが、以前よりも緊張感を持って仕事ができていると考えています。
そういう点では、私の課題認識は、店舗よりもむしろ本部ですね。やはり人員が増えて、業務が多岐に渡るようになってから、誰が何をやっているかを可視化できていない。本当に必要な業務にフォーカスさせて成果を上げていくようにしなければなりません。時間だけ浪費して業務を遂行した気になってしまう傾向も散見しますので、これらを改めアグレッシブな本部にしたい。
── 今期の売上目標は。
田中 今期は対前年比11・1%増の406億円を見込んでいます。控えめに見えるかもしれませんが、「JINS PC」ブームが一巡しましたので、妥当な数字ではないですか。来年の4月には消費増税が控えていますが、その時のシミュレーションも実施しています。
── 今期の課題を総括すると。
田中 企業というのは、トップの確固たる理念が社員に浸透し、双方のベクトルが定まった時に最大限の成長を可能にする。結局、どういう会社にしたいかという明確な志に尽きるのではないですか。ただ、ぼんやり業務に打ち込んでいるのとは成長のスピードが全然違います。これは09年以降、業態転換し業績の立て直しに成功し、今に至るまで普遍のテーマであると、つくづく思います。
今期は一見、足踏み状態のように見えるかもしれませんが、国内はもちろん、中国の成長、米国進出等、全体としては、まだまだ成長のポテンシャルは高いと認識しています。そういう意味で、今期は1つに業績・組織の足固めと、並行して追われた仕事ではなくて能動的かつ、チャレンジングな仕事に全員が注力できるように持っていきたいと考えています。
(本誌/大和賢治)
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