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経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

「ライフスタイルの変革を促し 成熟都市の未来モデルを示す」--猪瀬直樹(東京都知事)

猪瀬直樹氏

 2回目となる東京へのオリンピック招致に成功した招致活動の先頭に立っていたのが、猪瀬直樹・東京都知事だ。中枢を機能させることの重要性を説いた著作の教訓を自ら実行する形で、チームニッポンを実現できたことが招致成功の要因だという。また、2回目のオリンピックでは成熟都市のモデルを示すことも求められる。猪瀬知事に開催都市としての東京の在り方について話を聞いた。

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情報を中枢に一元化しなければ戦いに勝てない

―― 今回の招致成功の要因のひとつは、中枢が機能したとのことですが、その点について詳しくお聞かせください。

猪瀬 まず日本は、いろいろなところが縦割りなんですよ。霞が関にしても、厚生労働省にパラリンピックがあり、文部科学省にオリンピックがあるといった形で分かれています。また、諸外国のいろいろなニーズの情報は外務省や経済産業省が持っています。それぞれ情報を持っていますが、必ずしも統合されていない。

 また、東京都でもスポーツ振興局をはじめ、さまざまな組織があります。そして日本オリンピック委員会(JOC)があるだけでなく、日本体育協会があり、体協の中にも陸上や水泳やバレーボールなど、いろいろな競技団体があります。そういういろいろなところが持っている情報を中枢に一元化しなければ、「敵」を攻略できません。

 それから、国際オリンピック委員会(IOC)の委員が各国にいますが、それぞれの国に対して施策をきちんと見せていくことも大事です。IOC委員はアスリート出身者が多いですから、水泳なら水泳の競技団体を通じて、その個々のIOC委員に、陸上なら陸上のIOC委員にアピールし、相手側にきちんとメッセージを届けないといけません。一種の選挙活動みたいなものですが、各IOC委員にそういう訴えをきちんとやる必要があります。

 もちろんそれだけでなく、プレゼンテーションをきちんとやっていくわけですが、そのためにも中枢をつくっていかないといけません。だから首相官邸と東京都とが緊密に連絡を取り合いました。

―― 特に一元化のための中枢組織をつくったのですか。

猪瀬 もともと招致委員会は、そのための組織です。各団体が集まって招致委員会ができていますが、各委員の出身母体に情報がいってしまうことが往々にしてありました。そういうことが起きないように、情報を集約することが重要でした。今度の招致合戦は、括弧付きの〝戦争〟でしたが、やはり〝戦争〟を勝つためには、中枢が機能しなければ勝てません。

 僕は『昭和16年夏の敗戦』という本を書いています。その本で書いたことですが、日本は米国と戦争をする前に、大本営政府連絡会議を開いています。ところが海軍が自分の持っている石油の備蓄量を言わない。陸軍もお互いに言わない。米国と戦うのに、自分の持っている情報を言わないで、それでチームができるわけがありません。だから戦争に負けたわけです。太平洋戦争の時は「チームニッポン」が戦争をやる前から崩壊していました。それを踏まえて、今回は歴史的にも日本が大きな戦いをやる時の体制はどうあるべきかを検証しながらやらないといけないと思いました。

『昭和16年夏の敗戦』で書いたのは、当時、普通の政府があって、軍部もいて、それぞれが大本営と政府で連絡会議を持って、統一機能を持たせようとしていたにもかかわらず、縦割りだったため、お互い情報を隠してやらなかったことが失敗の原因でした。ですから、今回は中枢をきちんと機能させなければいけませんでした。そういう意味では、今回は「チームニッポン」ができたことが勝因です。

―― 中枢を機能させることをほかの戦いにも生かすべきだとのことですが。

猪瀬 縦割りは会社組織でも皆、結構悩んでいると思います。どの会社でも営業部門、管理部門や製造部門などいろいろな部署があります。それらを役員会で統合する際に、役員も自分の出身組織に引っ張られることがあります。ですから、日本の会社は統合意思をまとめた大きな決断がなかなかできません。ソフトバンクの孫正義氏やユニクロの柳井正氏のようなオーナー社長は簡単に意思決定ができます。しかしオーナーから何代も経たサラリーマン社長がいる会社がほとんどですから、意思決定をいかに行うかというリーダーシップは非常に重要です。

 とはいえ、縦割りのものをすぐに何かやれと言っても、簡単ではありません。例えば、都庁の組織でも、縦割り組織がたくさんあります。ですから各局から優秀な人材を集めて、プロジェクトチームをつくっています。地下鉄一元化や電力の問題にしろ、プロジェクトチームで進めています。今度は時間市場の開拓というプロジェクトチームをつくっています。時間市場の開拓は、バスを24時間動かすことだけでなく、東京都の美術館なら20時までとか、テニスコートなら23時までとか、営業時間を延ばして、人々の新たなライフスタイルに対応させるものです。

 こういうプロジェクトは横にプロジェクトチームをつくることが重要です。縦の組織に対して、どうやって横串を刺すかが重要な組織運営の在り方です。

オリンピックは2回目、3回目を行う時代に

―― アジアでは初めて、2回目の夏季オリンピックを開催することになりますが、その歴史的意義をいかがお考えですか。

猪瀬 まず、オリンピックの象徴は五大陸の輪です。五大陸を順番に回って開催していきます。オリンピックは当然のことながら、ある程度インフラが揃っていて、経済力がないと開催できません。ロンドンの次のリオデジャネイロについて言うと、南米は今まで一度も開催していませんでしたが、BRICsの1つであるブラジルが経済成長し、南米でも開催できる都市が出てきたということです。

 北京やソウルでも開催しましたが、だいたい世界の主要都市を一回りしてしまいます。これからは2回目、3回目の都市で開催する時代に入ってきます。パリは2024年に立候補するとかしないとか言っていますが、実現すれば3回目になります。ロンドンは去年が3回目です。初めての都市で時々開催しながら、2回目、3回目の都市にも回ってくる。東京は50年前ですから、そろそろ2回目をやってもおかしくないわけです。北京もソウルもいずれは2回目の開催が来るかもしれません。そういう時代に入ったということだと思います。

―― 2回目のオリンピックで変わる点は。

猪瀬 2回目、3回目という時代になると、成熟した都市での開催になります。成熟した都市での開催は、1回目の時のようにはなりません。インフラも整備され、ホテルも十分にあり、ある程度治安が良いという、成熟した都市での開催になります。

 都市モデルで考えると、先進国の都市における成熟とは、産業革命が終わって議会が成立し、そして中産階級が出てくる状況です。そういう成熟に達しない途上国が先進国のモデルを追いかけていく。だからこそ途上国では大気汚染などの公害が発生したり、交通渋滞が起きたりします。一方、先進国の都市は公害など途上国の問題はだいたい克服してきています。そして少子高齢化など、成熟社会での新たな課題を抱えています。

 成熟した社会の中で、新しいモデルというものは何なのか。途上国の都市は、先進国の都市を追いかけてくる。北京は大気汚染が深刻ですが、東京は既に克服しています。東京で解決したことを取り入れていけば、北京も良くなってくるでしょう。では途上国の課題を全部やり尽くしている都市は、次の課題は何かという新しい課題を見つけたモデルを作っていく、課題を克服するモデルを作らなければいけません。そういう意味では、東京の場合で言うと、誰でもスポーツをやれるような環境をつくりながら、少子高齢化をどうやって克服していくか。いろいろな課題があります。

 今度の東京オリンピックはSNSのようなものがどんどん発達していく中で、どういう未来像を描けるかが重要になります。それをこれから7年かけて示していかなければいけないと思います。それをうまく逆手に取れば中継技術にしても、今は4Kや8Kのテレビが言われていますが、全く違ったものが出てくる可能性はあります。だからこそ今回の東京オリンピックは「Discover Tomorrow」を掲げています。未来の何かを見つけるという課題があります。

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オリンピックを機にライフスタイル革命を起こす

―― 3回目だった前回のロンドンでは、コンパクトな五輪を謳いながら結果的には予想以上にコストが掛かったという批判がありました。予算超過は東京でも心配されています。

猪瀬 なぜロンドンで予想以上にお金が掛かったのか、もう一度検証したほうが良いと思います。ロンドンの場合は、ダウンタウンと比較的寂れた地域とで開催しました。寂れた場所にも会場を持っていき、そこを再開発したことで、その開発のコストが少し余分に掛かったのだと思います。

 一方、東京での開催はエリア的に比較的公平に分配されています。例えば、湾岸エリアに恒久施設を10個造ります。有明テニスの森の改修に加え、水泳、バスケットボール会場などは、しっかりした施設ができますので、大会後もこれらを拠点に競技が盛んになっていくと思います。

 それから、船の科学館の近辺に豪華客船の埠頭を造ろうとしています。豪華客船で来る海外からのお客さんは、横浜の大さん橋に着きますが、横浜は遠い。今、豪華客船は大井水産物埠頭に着きますが、そこはあくまで貨物埠頭です。昔は晴海に来ていましたが、今の豪華客船は大型化して10階建てのホテルのような感じなので、レインボーブリッジの下を通れません。また、今の豪華客船はお金持ちだけでなく、普通の人も乗っていますから、豪華客船のお客さんが来た時に対応できる態勢を考えていく必要があります。豪華客船の埠頭の近辺にスポーツ施設と合わせ、カジノや劇場などの娯楽施設や国際展示場なども設けることも見えてくると思います。

―― これから7年間かけて取り組む課題は。

猪瀬 僕はオリンピック招致の前から「心のデフレ」という言い方をしていますが、オリンピックが決まって、みんな明るくなったでしょう。希望ができたじゃないですか。消費税の増税が決まりましたが、オリンピックが決まっていなかったら、大変なことになっていたと思います。消費マインドがどこまで高まるかが大事です。オリンピックという明るい話題の中で、時間市場の開拓などもやっていくと、消費は増えていくと思います。

 オリンピックの経済効果を言う場合、単純な積み上げ方式による算定では3兆円になります。しかしそれだけでなく、今は気持ちが晴れてきている状態ですから、いかに消費を増やしていくかを考えると、経済効果はもっと違う形で出てくると思います。

 まだ消費は上向いていませんが、人々のライフスタイルが変わってくると、お金の使い方も変わります。そういうことも含めて今後の見通しがオリンピックで少し見えたのかなと思います。人々がライフスタイルを変えるためには、先ほど言った、時間市場の開拓をやったら良いと思うし、まず渋谷と六本木間に深夜バスを走らせます。また、お台場にカジノを造る構想もあります。

 オリンピックまでにどういうものを作り上げていくかで、オリンピックも決まると思います。そのためにはライフスタイル革命が起きなければ駄目です。

 
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