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「マネー資本主義のルールを疑え!」--福井晴敏(小説家)×阪本順治(映画監督)

福井晴敏(小説家)×阪本順治(映画監督)

 第二次世界大戦の敗戦直前に旧日本軍が隠匿し、戦後復興や反共計画に極秘運用されてきたと噂される「M資金」。この怪しげな伝説を題材に、それを取り巻く陰謀と現代のグローバル金融が抱える問題点を描き出す大作映画「人類資金」が10月19日より公開される。今回、原作・脚本を手掛けた福井晴敏氏と、監督としてメガフォンをとった阪本順治氏は、以前「亡国のイージス」でもタッグを組んだ強力コンビだ。両氏に作品に懸ける想いや見どころを語ってもらった。

20131029_16_1都市伝説とマネー経済が結び付くまで

―― 前回お2人がタッグを組んだ「亡国のイージス」は国防がテーマでしたが、今回金融・マネーをテーマに選んだ理由は。

福井 言い出しっぺは阪本さんで、M資金を題材に映画を作れないかというお話を頂きました。僕はたまたま清水一行さんの小説などからM資金について知っていて、自分の小説の中でもちょっと触れたことがあったので応じたのがすべての始まりです。

阪本 僕は美術助手時代に高野孟さんの『M資金』という本を読んで、将来監督になったときに題材として使おうかと思っていました。映画というのは世間の光が当たっていない部分にライトを浴びせるものだと思っていますが、僕にとってはM資金という題材がそれに合致した。

―― M資金という都市伝説的な題材を扱いながらも、現代のマネー資本主義とうまく絡めた手腕は見事だと思います。

阪本 それは福井さんの手腕ですね。

福井 M資金の謎を追うだけの内容だとつまらないので、なんとか現代の要素とつなげたいと考えていた時にリーマンショックが起きました。それまであまり経済には明るくなかったのですが、アメリカの一証券会社が潰れただけでなぜ世界中がこんなエライことになったのだろうという単純な疑問が浮かびました。リーマンショックを乗り越えて世界の金融市場は以前より賢くなったなんて言われますけど、構造上の問題だから多分何度でも同じことが起きるし、起きるたびにスケールもでかくなって取り返しのつかないことになっていくんだろうなと。そういう感覚がつかめた瞬間に、現代の狂ったルールをM資金が正すという構想が浮かんで「行ける」と思ったんです。

 M資金はどちらかと言えば陰謀をもたらす側のものとしてとらえられているけれど、あえてそれを使って世界を正しい方向に向かわせるという発想でやったら面白いなと。今まで自分の作品は最後に何かが爆発したりして終わるものが多かったんですが(笑)、今回は、画の豊かさなど大作映画の良さを出すためにあえて世界中のいろんな場所に舞台を設定しました。

阪本 プロットをもらった時は、これを一体どう撮ればいいのって思いましたよ(笑)。でも、M資金やそれにまつわる都市伝説を軽々と乗り越えた大胆な仮説を立て、未来をも見据えた話に仕上がっていたのが一番の驚きでした。もし自分で最初から脚本を書いていたら、良くも悪くも告発めいたものとか、重苦しい話になっていただろうなと思います。本作品はエンターテインメント性にあふれ、人間関係が織りなす感情の機微など見どころがたくさんあります。

主演の佐藤浩市さん(左)と森山未來さん

主演の佐藤浩市さん(左)と森山未來さん

―― そうした世界観を表現するために意識したことは。

阪本 M資金にまつわる僕らの仮説が、単なる絵空事に受け取られてしまうのは困る。そのために最も留意したのは、映画に出てくる架空の国(カペラ共和国)と、そこの人物の造形をきちんとすること。ここを間違うとこちらの言いたいことが伝わらないと思いました。

福井 架空の国の代表として森山未來さんをキャスティングしたのはひらめきみたいなものでしたね。主役の佐藤浩市さんは早くから決まっていましたが、未來さん演じる石優樹の役については最後まで空いていました。

阪本 別の映画で何シーンか森山未來を演出させてもらったときに彼の技量を目の当たりにして、人類資金のロケでいよいよニューヨークに乗り込む直前に決めました。

成長至上主義からモノの見方を変える

【さかもと・じゅんじ】

【さかもと・じゅんじ】
1958年生まれ。大阪府出身。89年、監督デビュー作「どついたるねん」で芸術選奨文部大臣新人賞、日本映画監督協会新人賞など各映画賞を総なめにする。2000年「顔」で第24回日本アカデミー賞最優秀監督賞。その他「ぼくんち」「亡国のイージス」「座頭市 THE LAST」「北のカナリアたち」等、数多くの作品を手掛ける。

阪本 架空の国の造形と言いましたが、後半の国連の場面で石によって放たれる言葉を自らが実感できないと演出できないという想いがあったんです。だから撮影前に金融や経済についてにわか勉強しましたよ。

福井 僕に「どんな本読んだの?」って尋ねてきたりしましたよね。

阪本 プロットが出てくるまではM資金がらみの本や都市伝説の本を読んでいたけど、全部捨てちゃいました。金融や国際援助に関する本に変更して、この映画の肝である「世界を救ってみませんか」というメッセージを裏付ける言葉を探そうと。

―― 世界4カ国ロケを敢行し、日本映画としては初めて国連本部でのロケも行うなど、新たな試みも多かったわけですが、何か発見はありましたか。

福井 残念ながら、僕は国連のロケには一緒に行けなかったんですが、脚本段階でこのシーンはどう撮るみたいなところも2人でみっちり詰めたので、どんな映像になるかはある程度想像できていました。

阪本 いまだに「あの国連のシーンはどこで撮ったの?」って聞かれることもありますけどね(笑)。撮影許可を取るために粘り強く交渉しました。国連と言えば「紛争」みたいなイメージが強いので、国連の存在意義みたいな部分に則って撮影するということで許可を貰いました。

―― 現地ロケへのこだわりはあったのですか。

福井 例えば、海外の夜のシーンなどは周囲を暗くすれば日本でも撮れるかもと監督に話したら、その場に役者を置いた時に出てくる化学反応を撮りたいって言われましたね。その辺の本物志向が阪本さんの映画を底支えしていると思います。

阪本 俳優も自分の髪型、衣装、場所などが決まって初めて自分の役が分かるということがありますからね。設定した場所に連れて行くことにもこだわらなければいけない。そこの気候が暑いか寒いかといったことでも芝居は変わってきますから。

―― この映画を通じて最も伝えたいメッセージは。

福井 例えば金本位制が崩れて、おカネの価値をどう担保するかとなった時に、国の信用力という非常にあやふやなものをベースにお金が刷られるようになってしまった。信用危機が起きる原因もすべてそこなんです。実体経済で成長の伸びしろがなくなっても、数字だけのやり取りで世界がどんどん豊かになっているように見える。でも人類の富の総量を上回るようなお金が流通して、それが焦げ付くと清算しようという話になる。そしてバブルが崩壊する。

 要はイス取りゲームなんです。10個しかないイスの周りを50人ぐらいがグルグル回っていて、音楽が鳴りやんだ瞬間に一斉に座ろうとしたら、座れない人がこんなにいたのって話です。でも、それって異常じゃないかと。アベノミクスでもさんざん「成長が大事」と言われていますが、去年より必ず売り上げを伸ばさなきゃいけないというのも考えてみればかなり異常なことで、じゃあゴールはどこですかと問いたいんです。

 人間が幸福になるための「経済」というものが、人間をどんどん不幸にしている。そろそろそのルールに対して、懐疑的になってもいいんじゃないかと。ただやみくもに反対するのではなく、ちょっとモノの見方を変えてみませんかということです。

阪本 今回の映画で学んだことですが、一人ひとりの才能を見いだしてそこに投資をしていくことでしか救われないことってあるんです。このままいくと僕らは衆愚として使い捨てられる可能性が大いにある。リーマンショックがなぜ起きたか、どれだけの人が説明できるでしょうか。それに気付くちょっとした助けにこの映画がなってくれればと思います。

 

映画は「物語」であり「人語(ヒトガタリ)」である

【ふくい・はるとし】

【ふくい・はるとし】
1968年生まれ。東京都出身。98年に『Twelve Y.O』で第44回江戸川乱歩賞を受賞し小説家としてデビュー。99年『亡国のイージス』で第2回大藪春彦賞、第18回日本冒険小説協会大賞、日本推理作家協会賞長編を受賞。同作品とその後発表した『終戦のローレライ』などが相次いで映画化され話題となる。その他、『小説・震災後』『Op.ローズダスト』『機動戦士ガンダム』などの作品がある。

―― お互いの仕事に対する評価はいかがですか。

福井 大きい映画を撮るとなるとCGワークなどで以前より高精度で作れるようになっていて、それが大作映画という先入観があるけれど、大事なのはその中でどれだけ役者が魅力的に見えるかなんですよね。今、日本で大作を撮る時に、どれだけ役者を撮れる監督がいるかとなると阪本さんは数少ない存在なんですよ。今回の映画なら、もっと大作っぽく見せる画作りもできると思いますが、あくまでも役者主体で撮っているのがすごい。

阪本 映画は「物語」であり「人語(ヒトガタリ)」というこだわりはあります。観客が映画館で登場人物に興味を持って、その人と自分は何が共有できて何が違うのかとか、考えてもらえるのが映画の醍醐味だと思うんです。登場人物はただ物語を語るための道具ではありません。物語を「人語」にするためには俳優に寄与する部分が大きい。

福井 今はそういう発想で撮る人は少なくて、役者もコマの1つとして立ち行ったことをしなくなっている。でも、それではせっかく生身の人間が出ている良さがないし、アニメでいいじゃんって話になってしまう。阪本さんは物語の枠組みと、役者の魅力を引きだすということのチャンネルをうまく持っていて、この映画を撮れる人は他にいなかったと思います。

―― 次回もタッグを組むことがあるとすればどんな作品を手掛けたいですか。

阪本 テーマが世界まで広がったから、宇宙ですかね(笑)。

福井 前からSFを撮りたいって言ってましたよね。

阪本 みんなに笑われるんですけどね。阪本がSFだって(笑)。今回は映画監督として福井さんの想いを受け取って、愚直に、自分が何者であるかを棚に上げてやりました。自分はこんな大きなテーマでモノを言うほど大した奴なのかと疑問を抱いちゃうとできないので。映画の中で人類や地球を救うのはいつもアメリカ人なので、たまには日本発でこういうのをやらなきゃという気持ちもありました。ただ、この先一緒にやるとしたら何でしょうかね?

福井 今回はお互いに全部出し切った感がありますが、そのほうが次の発想が湧きやすい。ですから、人類資金の公開後にまた考えたいですね。

(司会・本誌編集長/吉田浩)

 
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