エネルギー税の原点
エネルギー税の歴史は、環境税よりもはるかに古い。環境税の定義はさまざまだが、ここでは「地球温暖化防止を目的とする炭素税」を例に考えてみよう。炭素税を世界で初めて導入したのはフィンランドで、1990年のことだ。ただし、例えば、ガソリンに対する課税は、各国で炭素税よりもはるか前から行われていた。
興味深いことに、経済理論の世界では、エネルギー税よりも環境税のほうが先に理論的に定式化された。英国の経済学者A・C・ピグーは、彼の主著『厚生経済学』(1920年)の中で、外部不経済(ある経済主体の活動が、その費用の支払いや補償を行うことなく、第三者や社会に損失を及ぼす現象)という新しい概念を提唱。環境問題の本質を喝破した。経済社会における、そうした欠陥を是正すべく、彼は、外部不経済を内部化する手段として課税を提案。これが後にピグー税と呼ばれ、環境税の理論的な原型になった。
しかし、それが現実の環境政策手段として具体化されるのは、半世紀以上後のことだ。
それに対して、エネルギー税の理論は、米国の経済学者ハロルド・ホテリングによって31年に提示された。論文タイトルは『枯渇性資源の経済学』。この名称からも分かるとおり、彼の関心は、化石燃料という有限資源を世代間で公正に最適利用するルールを探究することにあった。そのための手段の1つとして、エネルギー税が考えられたのである。
税とは呼べない税
環境税の導入を提唱してきた経済協力開発機構(OECD)は、エネルギー税を環境関連税の典型例としている。
エネルギー税は、炭素税の次善(セカンド・ベスト)と位置付けられることもある。
例えば、ガソリン税のような化石燃料に対する課税は、エネルギー税の典型だが、炭素含有量を課税標準にしているわけではないので、炭素税ではない。
ただし、エネルギー税が、炭素に対する課税にもなっていることは確かだ。そうしたことから、温暖化防止のための二酸化炭素排出抑制にも効果ありと見られている。
ちなみに、環境税を提唱したピグーと、エネルギー税を提唱したホテリングとの間には共通点もある。
両者とも、環境税・エネルギー税を政策の手段として構想し、税収の使途については全く論じていない。租税論の常識からすれば、課税の目的は財源調達にある。また、税務当局の立場からは、税は国家をはじめ公的組織の収入を調達するもののはずなので、使途が考えられていない税は税とは呼べないかもしれない。
日本の現実
では、現実のエネルギー税はどうか。実のところ、ホテリング課税にはなっていないし、OECDの言うところも「次善の環境税」と見なすこともできない。
日本のエネルギー税の特徴は、税率ではなく、目的税として税収の使途があらかじめ決められてきた点にあった。
例えば、ガソリン税は道路建設に使われてきた。それが不要な道路の建設につながったとの批判を受けた。一方、エネルギー税からの税収は、2000年に5兆円を超える規模にまで膨らんだ。そのため、使途をあらかじめ決めるのは、財政の硬直化を招くとの批判を受けた。確かに、財政そのものが逼迫し、少子高齢化による社会保障費の問題も深刻化する中で、エネルギー税収を道路整備だけに振り向けるのはおかしい。
そんな批判を受けて、06年にエネルギー税制改革が行われた。エネルギー税は目的税ではなくなり、特別会計は廃止され、税収は一般会計に入れられることになった。
表面上、これは大きな税制改革のように見える。しかし、実際には、表層的な改革で実質的にはほとんど変化がなかった。目的税の受け皿だった特別会計は廃止されたが、それに代わる特別勘定が作られ、一度一般会計に入れられた税収は結局特別勘定に入り、従来と変わらない使途に使われたのである。
今こそ原点回帰を
結果として、エネルギー税は、道路や空港などの社会資本整備、あるいは電源開発など、CO2排出量を増加させかねない用途に使われてきた。近年は再生可能エネルギー開発などにも使われ始めたが、時折のエネルギー政策に応じて、その使途が決められてきた。
現在のエネルギー税は、石油や石炭など化石燃料がエネルギー源の中心であり、経済成長・人口増加を前提とした枠組みで作られている。しかし、エネルギーをめぐる状況は今、大きな転換期を迎えている。放射性廃棄物や地球温暖化防止など、廃棄制約を前提に経済を考える必要があり、エネルギー消費を増やさずに豊かさを実現する社会が求められている。それに対応して、エネルギー税の体系も変えなければならない。
ピグーやホテリングのアイデアに基づいたエネルギー税の再構築が求められている。
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