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経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

「人材育成に再びチャレンジし、社員と 共に幸せになれる会社を目指します」--坂本 孝(俺の社長)

俺のフレンチ画像

 365日、行列の絶えない繁盛店。飲食店経営者なら誰もが憧れる光景だろう。そんな状況を全く新しいコンセプトで創造し、見事に実現しているのが俺の株式会社である。同社が銀座を拠点に展開する「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」「俺の割烹」等の店舗はいずれも来店客であふれ、予約なしでは長時間のウエイティングを余儀なくされる状況を生み出している。

 価格競争に翻弄されてきた外食産業も景気回復への期待から一時の深刻な状況から脱しつつあるようにも思われる。とはいえ、一方で飲食総市場は少子化を背景に縮小が避けられず、例え経営環境が一時的に好転したとしても、長い目で見れば厳しい環境に置かれていることには変わりない。そういう意味では、いかに来店客を飽きさせない付加価値を提案し続けられるかが、飲食業における生き残りの条件と言っていいだろう。同社が短期間で16店舗にも及ぶ繁盛店をつくりだすことに成功したのは、まさにこの前提を具現化したからにほかならない。

 最大の魅力は、ミシュラン星付きシェフが作りだす一流の料理をリーズナブルプライスで提供している点にある。一流のシェフが原価の高い材料を用いれば、当然、価格への転嫁は避けられない。しかし同社の場合、客が支払う額は平均でも他の一流店の3分の1というから人気が出るのは当然と言えるだろう。

 それを可能にしたのが店舗オペレーションだ。同店のスタイルはいわゆる〝立ち飲み〟。こうすることで利用者の滞在時間が大幅に短縮、回転率が2~3倍に向上することで利益を出せる構造になっている。

 このビジネスモデルを発案したのが同社の坂本孝社長だ。同氏はブックオフコーポレーションを立ち上げ1部上場企業に育てた起業家としても知られるが、業態が全く異なる飲食業になぜ、参入したのか、その背景と今後の展望を合わせて聞いた。

【さかもと・たかし】

【さかもと・たかし】
1940年5月生まれ、山梨県甲府市出身。カーウォッシャー、オーディオや中古ピアノ、化粧品販売などいくつかの自営業を経て、90年にブックオフを創業し16年間で1千店舗まで拡大する。2011年9月、東京・新橋に「俺のイタリアン」をオープンする。

再び人材育成に注力したいという思いで起業

── 前職もコンシューマービジネスという共通点はありますが、なぜ、外食産業を選んだのですか。

坂本 まず、前職でやり尽くせなかった、人を成長させるということに再びチャレンジしたかったことが挙げられます。従業員と共に幸せになれる会社をつくることが、そもそも私の起業家としての志でした。しかし、株式を上場しステークホルダーが増加すればするほど、利益面だけが重要視されるようになりました。また一方で会社が大きくなると、どうしても組織が官僚化し、リスクを取らない社風になってしまったのです。創業者の理念が受け継がれ、なおかつ人間の野性味が発揮できるような会社というものをもう一度つくっていきたかったのです。起業家というのは、大企業の経営者と違って人・カネ・情報をうまく活用するだけではなくて、猪突猛進で進む特性が少なからずあるものです。だからこそ人材がどんどん育つ。前職では自分の魂を創業者として会社に残せなかったという反省があるのです。飲食は唯一、小が大に勝てる。たった5席の店で隣に500席のラーメン屋が開業したとしても知恵を駆使できる人材がいれば勝機は必ずある。私は、そういう人材を育てていきたいのです。

── 参入当初より現在のビジネスモデルが構想にあったのですか。

坂本 最初は共同経営のような形で客単価2500円の焼鳥屋を開業しました。しかし、始めて気が付いたのですが、既に焼鳥屋という業態のメニューは出尽くしていて、新商品開発の余地はない。起業家というのは無から有を産むことに喜びを感じるという宿命を背負っていますから、当初は後悔し、やめることしか考えていませんでした。悩みに悩む中、いろいろと業界の話を聞いて回ると、改革を起こせる素養があるのは〝馬鹿者・よそ者・若者〟という意見があった。馬鹿者・よそ者という点では、自分にも権利がありますから、もう一度、外食を研究してみました。元気な店をピックアップしたところ、ミシュランの星を獲得した店舗と立ち飲み業態が不況の飲食業界にあって例外的に繁盛していたのです。そこで考えたのが、この2つをうまくコラボするということでした。

〝立ち飲み〟は経済合理性に適っている

── ミシュラン店のシェフは腕も一流ですがプライドも相応に高い。立ち飲み業態によくスカウトできましたね。

坂本 面接で立ち飲みと言った瞬間に席を立つシェフもいました。われわれは、それを押しとどめリサーチで突き止めた晴海にある和食の立ち飲み店に連れていきました。その店舗は16時だというのにお客さんはギッシリです。立ち飲みは顧客の滞在時間が短いのでコストパフォーマンスが高い。「経済合理性がある時代の先端の業態」は成長の可能性を秘めていると言って口説いたのです。一流のシェフというのは勘どころも人並み以上に優れており、腑にさえ落ちれば入社を快諾してくれるものです。

── 1号店から成功しましたね。

坂本 昨年の9月、16坪の1号店をオープンさせました。周囲からはせいぜい月商200万~300万円と揶揄されましたが、これが2千万円の売り上げでなおかつ200万円の利益を出した。厨房もホテルの10分の1程度。2~3坪の狭い中でホテル並みのパフォーマンスを実現させたのです。これを可能にしたのは厨房とホールの〝仲間を思う〟チームワークです。これらがうまく融合できたことが「俺の」シリーズの躍進の基礎になりました。現在はフレンチや割烹を含め16店舗まで展開していますが、全店連勝です。

── バルなど立ち飲みが流行しましたが、それも追い風になったのですね。

坂本 それとは根本的に違います。一流のシェフを招聘し原価率の高い食材を使いながらもお客さまにリーズナブルプライスで提供し、高い支持を受けたのが勝因です。他の立ち飲み業態とは似て非なるものです。

── 成功させるには、やはりリサーチが重要ですね。

坂本 外食不況が指摘されてきましたが、景気のせいにするのではなくて、お客さまのトレンドを常にトップが注視するのは当然のことなのです。異業種の動向にだってアンテナを張っておかなければなりません。弊社の店舗に「なぜ、行列ができるのか」、これを業界が違うという理由で経営者が関心を示さないのは問題です。銀座にしてもルミネ、ユニクロ、阪急メンズ館等常に新しい風が吹いています。私は、そのすべてに直接赴きます。ビジネスのヒントは業種、業界に関係なく潜んでいるものです。お客さまの利便性と価値を高めれば必ずお客さまは足を運んでくれる。この信念があれば景気に左右されることはない。

「店舗のオペレーションの肝になるのは厨房のチームワークです」

「店舗のオペレーションの肝になるのは厨房のチームワークです」

ニューヨークへの出店で勝負したい

── 店舗が銀座に集中していますね。

坂本 私の最終目標はニューヨークへの出店です。味の肥えた一流の人が集まる銀座で勝てなければニューヨークでは勝てない。他のエリアへの出店も致しますが、銀座30店舗体制を早急に構築したいと考えています。

── 10月に青山で大箱の出店を予定しています。

坂本 紀ノ国屋の入居しているビルの1階にJAZZとフレンチをコラボした150人収容の店舗を出店します。既存店の倍の規模ですが、この店舗は銀座の「俺のイタリアン JAZZ」で培ったノウハウの集大成となります。JAZZ音楽堂の中にフレンチが入居、お客さまはおいしい料理を食べながら一流の音楽を楽しめる。ミュージックチャージも300円と破格の料金設定です。

── JAZZとコラボする必要性は何ですか。

坂本 JAZZの演奏家集団にも、先行しているシェフたちと同じ〝仲間を思う〟フィロソフィーを共有したいと考えています。現在のJAZZ界は演奏の場が極端に不足しており、一流のテクニックを持ちながらも生活環境は決していいとは言えない。われわれは、その受け皿として機能したいと考えています。この演奏家たちもシェフ同様に稼げるように日本一のJAZZクラブをつくりたいのです。さらには、これは大きな差別化につながります。成立すれば他には絶対に真似できません。究極的には一流のシェフとJAZZ演奏家を引き連れ、ニューヨークで勝負したい。

京セラ創業者の稲盛和夫氏を師として仰ぐ

京セラ創業者の稲盛和夫氏を師として仰ぐ

信奉する稲盛和夫のフィロソフィー

── 再チャレンジしたかった人材育成については。

坂本 現在、ミシュランクラスのシェフが30人いますが誰も辞めていません。これは私たちの理念が共有できているからです。私は、シェフという人種はそもそもわがままで、経営に関しては関心がないという先入観がありました。ところが一流のシェフはへたな経営者より、よほどセンスがあります。人間力というのでしょうか、理念さえ共有できればさらに大きな力を発揮する。これこそ私が唱えてきたことの実現なんですね。前の会社で10年かかってもできなかった経営理念の浸透が1~2年でできた。伝播・伝達のスピードこそが、企業を短期間で本物にするということを実感しました。

 尊敬する京セラ創業者の稲盛和夫さんの唱える〝企業の成長は人ありき〟というフィロソフィーはどんな業種・業界でも通用すると証明できたことが何よりもうれしい。私が「俺の」で得た方式・法則を稲盛さんにお話ししたならきっと喜んでいただけるのではないでしょうか。多くの弟子の中でも私を「困った奴だ」と思っておられるかもしれませんが、〝人のために汗をかける会社〟を起業できたことで恩返しできれば幸いです。人を育てるという点では手ごたえ十分ですが、今の成功に慢心せず、稲盛師匠の写真を見ながら今後も自らを戒めて、さらに人間力のある企業として成長させたいと思います。

(聞き手/本誌・大和賢治)

 
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