ここに来てO2O向けのさまざまなサービスのトライアルが行われている。その中でも、凸版印刷は、リアルとネットの両方の知見を生かしたソリューションを展開。「リアルいいね!」をはじめ、O2Oを使った新しい社会インフラを提案し、O2Oの普及を進めている。

名塚一郎
(凸版印刷 ITソリューション本部
IT戦略本部 課長)
凸版印刷のO2Oサービス ①SNSを可視化する「リアルいいね!」を提供
O2Oはリアルとネットとの融合を図るものであるが、凸版印刷は、リアルの店舗作り、ネットの仕掛けの両方の知見・技術を有する強みがある。
リアル側では従来から店頭でのPOPや什器、ポスターを手掛けており、またネット側ではEコマースサイト構築やICタグソリューションを展開している。
また、今のO2Oにつながるソリューションとして、以前から電子チラシポータルサイト「Shufoo!(シュフー)」を手掛けるほか、マストバイキャンペーンにつながるウェブキャンペーンの仕組みを提供してきた。このため、O2Oに対する凸版印刷のスタンスは、自社の持つ豊富なシーズをいかに展開していくかというもの。
同社のITソリューション本部 IT戦略本部 課長の名塚一郎氏は次のように語る。
「新しいO2Oという技術でイノベーションが生まれる領域に向けて、技術が先にある形でわれわれはO2Oに取り組んでいます。ソリューションは基本的にニーズとシーズが組み合わさった形でやるものですが、その第一歩を技術のほうからアプローチしています」
こうした流れの中で同社がいち早く提供したO2Oの取り組みが、「リアルいいね!」だ。
「リアルいいね!」のソリューションは近距離無線通信技術のNFCを活用し、Facebookと連動する。
まず店舗にリーダーライター端末を置き、顧客にはICタグを内蔵したデバイス、例えばリストバンドを配る。
そして店内のイベントにおいて、あるタイミングで、そのリストバンドをリーダーライターにかざすと「いいね!」ができる。
最初は化粧品会社のREVLONのイベントで導入。イベントの来場者に赤いリストバンドを配り、顧客に化粧品を試してもらい、良かったと思った時にいいね!をしてもらうようにした。いいね!をした人のFacebookのウォールには詳しい製品情報が書き込まれる仕組みになっていた。
「Facebookの特徴として、直ちに情報が伝達するところがあり、その拡散効果がポイントです。通常のイベントでは参加している人しか情報が届きませんが、REVLONの例では685回のタッチ数で22万人に拡散しました」と名塚氏はその効果を語った。
REVLON以外の事例として、アパレル系では、店員のコーディネートが良かったら、店員とハイタッチをしてリアルいいね!をするGAPの事例がある。また、アーティストのアイコニックの写真展で、気に入った写真にタッチしてその場でいいね!をする。
そのほかには東京マラソン財団のファンイベントで、ゴールした瞬間にタッチすると公認の完走証が流れてくる事例もある。
さらに、凸版印刷は、いいね!数を店頭で表示する「いいね!カウンター」を開発。昨年11月に無印良品で実施したイベントは、コーディネートを10種類用意し、いいね!数をマネキンに表示させた。
この結果、売り上げは前年比で3割以上増え、SNSの拡散も500万人にリーチし、オンラインとオフラインの両方とも良い効果を上げたという。
昨年だけで「リアルいいね!」などの関連サービスで約30件導入している。
名塚氏は「リアルいいね!」とほかのO2Oサービスとの違いを次のように語る。
「通常O2Oでやっているものはクーポンやチラシなど、今あるものをデジタルに置き換えているものが多いです。一方、リアルいいね!はネットのサービスがリアルに進出してきているという別のアプローチです。O2Oはネットとリアルの融合の過渡期の言葉で、リアルのものがネット化し、ネットのものがリアルに進出してくる状況があります。リアルいいね!は、ネットのソーシャルメディアがリアルに移って可視化するものです。今までのクーポンなどお得感や便利さが別の手段に変わると思います。リアルいいね!は、ソーシャルメディアの楽しさをリアルで体験することで、新しい価値を提供しています」
凸版印刷のO2Oサービス ②ICタグによる情報配信
現状で「リアルいいね!」は期間限定のキャンペーンだが、恒常的な取り組みも進めている。
O2Oの現状を名塚氏は次のようにとらえている。
「O2Oはまだ技術が先行し過ぎていて、『O2Oでこのように便利になる』という啓蒙的なことができていないと思っています。今後はいろいろなキャンペーンやサポートをとおして、新しいインフラを皆さんに使っていただけるような形にしていきたいと思います」
そうした取り組みの1つが、サイバーエージェントとシブヤテレビジョンと共同で行っている「Shibuya Clickable Project」だ。
渋谷駅周辺の商店街の街路灯にICタグ内蔵シールを設置。渋谷を訪れた人がNFC内蔵スマホを街路灯のICタグ内蔵シールにかざすと、近隣店舗でのイベントなど、その場、その時に適した限定の情報やサービスがスマホに配信されるというもの。常設型のインフラで、渋谷の街で位置情報に基づいた地域情報を提供することで地域活性化につなげるという。
ICタグ内蔵シールは、6月のスタート時に公園通り商店街の街路灯に設置し、順次、道玄坂、宮益坂、その他の渋谷エリア内の街路灯に設置していく計画。凸版印刷はインフラとして、ICタグ内蔵シールとNFC搭載スマホ向けコンテンツ配信サービス「Cylsee(シルシー)」を提供する。
凸版印刷では、今後もこうした新しいインフラの提案をはじめ、O2O関連のソリューションの提供を継続していく構えだ。
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