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経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

国際化を加速させ、アジアのリーディングユニバーシティを目指す--鎌田薫・早稲田大学総長

大学の挑戦

早稲田大学が日本の枠を超えて、世界で活躍するグローバルリーダーの育成に向けて改革に乗り出した。既に約4500人の外国人留学生を受け入れるなど国際化では先頭を走るが、その動きをさらに加速させ、時代の要請に応え、社会に貢献する新たな大学への発展を目指している。 (聞き手/本誌編集委員・清水克久)

国際化を進める早稲田大学

大隈重信の時代から国際化を掲げてきた早稲田

-- 早稲田大学は日本の私立大学を代表する存在感がありますが、経営上、あるいは運営上の課題は何ですか。

早稲田大学 総長
鎌田 薫(かまた・かおる)
1948年生まれ。70年早稲田大学法学部卒業、76年同博士課程単位取得後退学。78年早稲田大学法学部助教授、83年教授。2005年早稲田大学大学院法務研究科長。10年早稲田大学総長に就任。13年1月より、安倍内閣の教育再生実行会議座長に就任。

鎌田 日本の大学全体にとって、少子化というのは非常に深刻な問題です。大学の経営が苦しくなる云々という以前に、社会に対しての人材供給が減少してしまうのですから、これは国の将来にとっても大きな問題と言えます。

 現代社会は知的基盤社会であり、高度な情報処理能力が求められるようになっています。ですから、大学でも従来以上に密度の濃い、質の高い教育が求められています。その意味で大学が果たすべき役割は今まで以上に重要になるでしょう。

 これまでの社会では、大学生までに身に付けた知識で一生、生きていけるという考え方がありました。でもこれからは卒業後も一生涯、勉強して能力を伸ばし続ける必要があります。そのために大学の4年間では、一生、学び続けていけるだけの基礎力、さらには自分で考え、能力を磨き続けていけるだけの力を身に付けることが大事になります。

 必要であれば大学を卒業した後も、大学に戻って学ぶ機会も増えてくるでしょう。大学は、そういったニーズにも応えられる環境をつくっていかなければなりません。悠長なことは言っていられません。この5年くらいのうちに大学改革をしなければなりません。大学改革の重大性については政界も財界も気付いており、今、一丸となって取り組もうとしています。それは大学の発展こそが、国力の発展につながるとみな、真剣に考えているからです。

-- 大学改革のキーワードに〝国際化〟を掲げるケースが増えています。

鎌田 国際化は大学にとって、絶対に欠かせない要素だと思います。

 本学は、大隈重信が創立した時代から、国際化を掲げてきました。この20年近くの間でも、国際化においては、日本の大学のトップランナーであったと自負しています。 高度経済成長期において、日本企業は国内の需要だけでもある程度はやっていけました。ところが現在、日本のマーケットは縮小する一方であり、さらなる成長のためには世界に出ていかなければなりません。企業が国際化するためには、どうしてもグローバルな人材の育成が必然です。その基盤と言えるのが大学なのです。

 本学は創立当初から海外の留学生を受け入れてきました。その留学生たちのその後の活躍を見ていれば、国際化が必要であるということは言うまでもありません。本学の前身である東京専門学校時代から、卒業したら海外に留学するという気風があり、そのような積み重ねは、今となってはとても大きな財産だと思っています。

国際化を意識した制度と環境の整備

-- 国際化に対応して、どのような制度がありますか。

鎌田 大学院ではアジア太平洋研究科が、学部においては国際教養学部が先行事例です。

 この国際教養学部は、今日では他大学の国際関係学部のモデルともなっています。同学部では英語ですべての講義が行われるのが最大の特徴です。学生の30%は留学生であり、同じ学部で留学生と日本人学生が相互に交流し、共に学ぶことで理解を深めていきます。現在では6学部11研究科で、英語だけで単位が取れるような仕組みになっています。

 昨今、大学の国際化に向けて9月入学の制度を導入する動きがあります。これは世界的に標準となっているアカデミックカレンダーに連動したものですが、本学では10年前から4月入学と9月入学を両立させています。しかし国際化において大事なのは入学時期の問題だけではありません。9月入学を制度化しても、日本語能力が高い人しか留学してきません。これではだめで、日本語能力が十分でなくても講義が理解でき、成果を上げられる環境をつくらなければならないのです。

 逆に日本から学生を送り出す場合は、英語能力が十分でないといけません。本学では学生4人に対して1人のネイティブスピーカーが付く実践的な英語教育を行っています。しかも、話すだけではなく、英語でも日本語でも、学術的な文章が書けるような教育を行っています。

-- 受入留学生の数はどれくらいいるのですか。  

鎌田 現在、約4500人の外国人学生が在席しており、そのうちの学部生は約2千人です。留学生の多さは他にはない特徴です。海外からの留学生が英語で勉強し、海外と同じことを学ぶだけならわざわざ日本に留学する必要はありません。日本の風土、日本でしか学べないことを勉強してもらう。日本の学生と一緒に学び、議論することが一番大事なのです。

-- 日本から海外に留学する場合、4年で卒業できなくなる問題があります。単位の互換制度などはどうですか。

鎌田 講義をすべて通年にすると、1年留学するために2年間をふいにしてしまいます。そこで、本学はセメスター制を採用して、前期の単位を取得してから9月に留学し、帰国後、9月からの後期授業を受けられるようにしています。

 また、留学先で取得した単位も、本学での単位に認定できます。この単位互換とセメスター制は、大学の国際化を加速させるための最低条件だと思います。学生は海外に行きたくないわけではないのです。ただ、行くとリスクがあるから行きたがらないだけなのです。単位だけではなく、就職に影響がない時期に留学できる、または留学先でも就職活動ができるような制度を大学が用意しなければなりません。

 インターンシップ制度も、受け入れ先が国内であれ海外であれ、主に夏休みに2週間程度実施してきましたが、4学期制を導入することで、数カ月間みっちりとやれるようになります。こうした環境整備が、国際化のファーストステップなのです。

-- 講義などではどのような改革がありますか。

鎌田 教育内容は、従来のように先生が一方的に行う講義の形式から、授業を通じて学生が問題を発見し、そして問題を解決に導いていくような双方向型に変わっていくことが求められています。自分で問題の本質を見抜き、積極的に問題解決の方策を考えて、チャレンジングにその方策を提案できるようにしなければなりません。

 社会に出ると、どうしても、そのような力が求められます。そのような一生かかって伸ばしていかなければならない能力の基礎を、大学生時代に身に付けることができるような授業や教育の仕組みをつくらなければなりません。

早稲田大学の新ビジョン「Waseda Vision 150」とは

社会的ニーズが高まっている大学院の強化を

-- 社会環境が大きく変化していく中で、大学の改革も大きなものになるのですね。

鎌田 日本経済が成長し続けてきた時代、大学進学率も伸び続けてきました。しかし今、18歳人口が減少に転じて、経済成長率もかつてのような勢いを失っています。これは私立大学の経営において、大変大きな問題です。かつては入学定員を増やせば、それだけ授業料などの収入が増えて経営が安定するいい時代がありました。

 しかし、現在は少子化が進んでいますし、やみくもに学生数を増やすと、教育の質が落ちる危険性も高まります。そうならないように、常に教育内容を改革していかなければなりません。一方で、より高度な専門的能力が求められる時代になっています。この流れに伴って、大学院のニーズが高まっています。現在、本学の大学院生は1万人程度になっています。院生を教育するのには、学部生よりも手間が掛かりますが、ニーズがある以上、大学院の強化、拡充にも取り組んでいきます。

-- 総合大学の魅力が薄れ、即戦力となる資格系、実学系の大学が人気ですね。

鎌田 健康医療系、福祉系、また理工系関連の大学や学部の人気が高まっています。その一部は昔でいえば専門学校のテリトリーでしたが、各職種が高度に専門化していることを反映して短大の4年制大学化などが進んでいます。

 早稲田大学は、そうした動きに対応しようとは考えていません。ただ、早稲田大学は、多様な学生が学び、多様な分野に巣立っていく幅広さが最大の特色です。そうは言っても現在抱えている課題の1つに、首都圏の1都6県出身の学生が増えている事実があります。地方出身者は、学費に加えて生活費などの負担が重くなることなどが背景にあると思いますが、このままではいけません。

 そもそも大学とは、知力だけを養成するのではなく、人間力を涵養する場でもあります。かつては、日本中から学生が集まって互いに切磋琢磨することで、多くを学び、成長していく過程がありました。地方の高校生が減っているのですから、ある程度は仕方がないのですが、これからは地方出身者が進学しやすい環境づくりに取り組む必要があると考えています。

 大学では、多様な人たちが切磋琢磨することでお互いが高められます。地方からの学生や海外からの留学生を増やしていくこと、実社会を体験できる機会を増やすこと、さらに社会人にも学部や大学院にたくさん来てもらえる学びやすい環境づくりが重要です。特に社会人にとっては一度、現実社会に触れた後、あらためて学ぶことで得られることは大きいはずです。

グローバルリーダーを輩出する大学に

-- 昨秋、創立150周年(2032年)に向けたビジョン「Waseda Vision 150」を発表されましたね。

鎌田 20年後の本学の姿について「Waseda Vision 150」で、「世界に貢献する高い志を持った学生」が集い、「世界の平和と人類の幸福の実現に貢献する研究」が行われ、「グローバルリーダーとして社会を支える卒業生」を輩出し、「アジアの大学のモデルとなる進化する大学」の仕組みを構築するという4つの骨子を提示しました。今後は、このビジョンの実現に向かって具体的なプロジェクトを実施していきます。

 本学には多くの実業家や有識者も講義に来てくれています。これらの人たちを含めて学部学生、院生、卒業生、さらには教職員、地域住民など、年令や性別、専門、地域を越えて、早稲田大学を核とする多様なコミュニティを作っていきたいと考えています。そういったコミュニティを通じて、本学が生涯を通じての学びの場となっていくことが重要なのです。