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「新島襄の建学の精神を大事にして 〝人材にして人物〟を育成します」--村田晃嗣・同志社大学 学長

大学の挑戦

同志社大学を創立した新島襄は早稲田大学の大隈重信、慶応義塾大学の福澤諭吉と並び称される明治の教育人である。昨年は新島襄の妻、八重を主人公とした大河ドラマ「八重の桜」も話題になった。関西私大の雄である同志社で昨年、48歳の若さで学長に就任した村田晃嗣氏に、現状と今後の方針を聞いた。 (聞き手/本誌編集委員・清水克久)

創立者・新島襄の理念を今もリアルに伝える同志社大学

-- 同志社大学の特徴をお聞かせください。

同志社大学 学長
村田晃嗣(むらた・こうじ)
1964年生まれ。87年同志社大学法学部政治学科卒業。89年神戸大学大学院法学研究科博士課程前期課程修了。95年同後期課程単位修得退学。同年米国ジョージ・ワシントン大学大学院博士課程(政治学)留学。98年博士(政治学)の学位受領(神戸大学)。99年広島大学総合科学部助教授。2000年同志社大学法学部助教授。05年教授、11年法学部長を経て、13年4月から学長。

村田 大きく3つの特徴があります。まず、京都にあるということです。現在、日本にある大学の4割は首都圏に集中しています。これには、多くの学生が首都圏という視点からしか物事を見なくなってしまうという問題があります。

 現在、グローバル人材の育成が叫ばれる中で、首都圏しか知らない学生が、グローバルな視点を持った人材になれるでしょうか。本学の学生で1番多いのは大阪出身者です。彼らは大阪で生まれ育ち、京都で学ぶ。そして、就職して首都圏に行く学生も多いでしょう。これは、東京しか知らない学生よりもはるかに有利です。

 2番目の特徴は私学であることです。私学は全国に600以上ありますが、その中でも、有数の歴史があり、新島襄の建学の理念を今もリアルに受け継いでいます。幕末に海外に行って学んだ人はたくさんいますが、実際に海外で大学を卒業したのは新島襄だけです。日本人初の大学卒は新島襄だったのです。当時、政府が全力で和魂洋才を唱え、海外の技術や制度を摸倣しようとしている中で、新島は「西洋の近代化を支えているのは、市民社会だ。だからこそ、日本も健全な市民を育てなければならない」と考えたのです。

 最後の3つ目は、キリスト教教育という基盤を持っていることです。明治時代から現代まで、日本におけるキリスト教徒の数は、ずっと1%前後です。つまり、日本でのキリスト教徒は常にマイノリティーなのです。キリスト教の視点から日本を見るということは、マイノリティーの視点を持つことになります。

 一方、キリスト教は世界的に見ればマジョリティーです。つまり国際社会で多数派と共通の価値観を持ち、ライフスタイルを学ぶことができるのです。日本におけるキリスト教を地盤にした教育は、マイノリティー、マジョリティー双方の視点で学ぶことができるのです。

-- 18歳人口の減少という現実を踏まえ、大学経営も難しくなるのではないですか。

村田 大学は、志願者が減少すると活力が失われます。しかし学生集め、偏差値など、競争を自己目的にはしたくありません。もちろん、競争しなければならないのですが、大学自体のアイデンティティーを失ってまで受験生の増加、あるいはランキングを上げるために特別のことをするつもりはありません。改革は常に必要ですが、まずはアイデンティティーを保つことが重要だと思います。

新島襄の思いを村田晃嗣学長はどう反映していくのか

-- 多くの大学がグローバル化を目標にしていますが、貴大学の取り組みは。

村田 政府や財界が「グローバル人材の育成」と声高に叫んでいることもあり、確かにグローバル化を進めている大学が多いですね。しかし「グローバル人材」とは、具体的にどんな人材なのかが明らかではありません。ただ、英語が話せればいいのでしょうか。新島襄は「人材ではなく人物を育てる」と言っています。人材という言葉には「人を役に立つかどうかで判断する」という意味があります。

 一方、人物とは、人の内面的徳性を問題にしています。明治初期の日本には数多くの〝人材〟がいました。だからこそ、新島はあえて〝人物〟にこだわったのでしょう。ところが、現在はさらに上の次元のことが求められています。〝人材にして人物〟ということです。本学は〝グローバルな人材にして人物〟を育てることに注力していきます。

-- そのためには、どのような取り組みがありますか。

村田 「グローバルな人材にして人物」に必要なのは、多様性・異質性を受容する力、その上で、共通の真理を追究する探究力、そして己のアイデンティティーを常に再考する力です。最初にお話しした本学の3つの特徴は、これを育てるためにあると言っていいのです。

-- 志願者は関西圏が圧倒的に多いようですが、裾野を広げるための方策は。

村田 関西での知名度は高いのですが、全国的には〝名前は聞いたことがある〟という方が多いのではないでしょうか。本学の特色、アイデンティティーを、これまで以上に積極的に外部に発信していく必要があります。その反省を踏まえ、今後は首都圏に向けて、積極的に情報を発信し、社会との関係を深めていこうと思っています。

 グローバル化についてですが、海外留学生の受け入れ・派遣はこれまでも積極的に進めてきました。それに加えてこれからは、障害者の国際教育、交流にも力を入れていきたいと思います。また同時に、校友会の各支部との連携を深めて、ネットワークを広げていきたいと思います。

 留学については海外だけではなく、国内留学もあります。具体的には、早稲田大学に1年間留学する制度です。これをさらに各地にも広めたい。国内であっても、異なる地域で学ぶことはとても大事なことなのです。