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「言語研究と地域研究の2つの柱を持つ 本学こそ、真のグローバル化に貢献できます」――立石博高・東京外国語大学学長

大学の挑戦

140年の長きにわたり日本の外国語教育をリードし続けてきた東京外国語大学。明治維新後の富国強兵政策、戦後の高度経済成長期における日本人の海外への勇躍の背景には、常に外国語教育の成果があった2012年の学部改編を経て、新たなステージに立った東京外大の未来像を聞いた。 聞き手=本誌編集委員・清水克久

立石博高氏は語る 実用語学の習得には地域の文化・社会の理解が必要

―― 昨年4月、従来の外国語学部を2学部体制に改編した理由は。

東京外国語大学 学長
立石博高(たていし・ひろたか)
1951年生まれ。76年東京外国語大学外国語学部スペイン語学科卒業。78年東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。87年同志社大学商学部助教授、92年東京外国語大学外国語学部助教授を経て95年同教授。11年副学長。13年4月より現職。

立石 言語文化学部と国際社会学部の2つに改編したのには、本学の長い歴史が関連しています。本学が建学されたのは1873年です。江戸時代末期から明治維新を経て、富国強兵で急激な近代化を成し遂げた背景には、外国語教育の存在があります。西欧の進んだ文化、技術を吸収するには、まずその文献、資料を翻訳しなければならないわけです。その頃は、いわゆる教養語学の教育が中心で、英語、フランス語、ドイツ語などの先進国の言語が重要でした。ところが、ある程度近代化が進むと、アジアやラテンアメリカの各国への進出が課題となってきました。日本の商品の輸出と資源の獲得です。同時にラテンアメリカなどへの殖民事業も起こりました。それゆえ、現場で使える実用語学の重要性が増してきたのです。ただし、単に外国語を学ぶのではなく、地域の文化・社会の理解に努めなければ実用語学とは言えません。戦前、本学には文科、貿易科、拓殖科がありました。教養語学と実用語学の2つの伝統があったのです。

―― 単なる語学でなく、地域の特性を理解し実業で使えることを重視したのですね。

立石 戦後の高度経済成長時代にも語学の重要性が再認識され、その頃、多くの実業家を輩出しています。また1977年には大学院に地域研究研究科が設立されました。これを機に、本学は「言語研究」「地域研究」という2つの研究の柱を持つようになったのです。

 今回の2学部への改編には、もう1つの大きな意味があります。本学は「語学・文学系」の大学として認識されがちですが、本学がもともと持っている特性を明確に打ち出し、単に語学中心の大学ではないとアピールする意味もあったのです。さらに、21世紀のグローバル化を見据えて、アフリカ、中央アジア、オセアニアなどを新たに学ぶべき地域として加えました。

―― 今は多くの私学でも語学教育に力を入れています。

立石 多くの大学が80年代から90年代以降、語学教育に力を入れてきましたが、その中心は英語教育です。その他の外国語教育といっても、フランス語、ドイツ語、スペイン語、中国語などに限定されます。本学では今、ベトナム語やビルマ語などを含めて27もの地域言語を専門的に学ぶことができます。昨年、新たにバングラデシュのベンガル語を加えましたが、このような地域の言語まで網羅できているのは、国立大学である本学だけです。これらの地域言語に加え、グローバル言語である英語にも力を入れています。もともと本学を志望する学生は英語が得意です。しかし、それに甘んじず、さらに強化するプログラムを実施しています。

 かつての国際化は、いかに日本が外に開かれていくかという意味で語られていました。そして今、グローバル化が叫ばれています。グローバルには2つの意味があります。グローバルなものの見方とは、地球俯瞰的にローカルな現象を見ていくことであり、総合的に物事を見ていくことでもあるのです。この2つを身に付けるには、地域言語とグローバル言語の習得、それに加えて世界諸地域の文化、社会を理解できる高い教養知が必要なのです。

立石博高氏の戦略 少人数教育の徹底と周辺大学と授業の相互提供も

―― 留学制度などは、どのようになっていますか。

立石 いわゆる語学留学やパッケージ化された留学もありますが、学生はこのレベルより一段上の本格的なものを求めています。その結果、学生自らが留学先を探し、現地の情報を求めて、留学先を決めるケースが多いですね。当然、留学する学生は強い目的意識を持っています。単に語学を身に付けるのではなく、その地域で暮らして、その経験を糧にするのだという強い気持を皆が持っています。

 また、世界各地に支部がある本学の同窓会が、現地ではさまざまなレベルで本学からの留学生を助けてくれております。同窓会の支部は各国の首都だけではなく、日本企業が駐在員事務所をもっているような都市ならば、大抵のところにあります。

―― 教育面での特徴はなんでしょうか。

立石 非常に細分化された地域言語教育がありますので、必然的に少人数教育が実現できています。また、本学には、留学生日本語教育センターがあります。海外からの留学生が、日本の大学への入学前の1年間、ここで日本語、日本文化を学んでおり、その学生との交流も盛んです。キャンパスは、自然に異文化との交流ができる環境となっています。さらに、多摩地区の本学を含めた国立5大学や東京工業大学などとも連携し、授業の相互提供、そのための遠隔講義システムの構築も考えています。いまや、自然科学系の知識も不可欠だからです。外国語の専門家ではなく、複数の言語を駆使して世界に飛躍するグローバル人材の育成が本学の使命です。