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「社会に貢献できる科学者、技術者を 育成し、“世界の理科大”を目指します」――中根 滋・東京理科大学 理事長

大学の挑戦

130年以上の歴史を誇る理系私学の雄として知られる東京理科大学。2013年春、東京都葛飾区に先端融合分野を研究する学園パーク型施設として葛飾キャンパスをオープンさせるなど日々、発展を遂げている。中根滋理事長は理工学部の第1期生であるが、教職に就いた経験がないという点で異色の存在。グローバル企業の元経営者をトップに招聘した理科大の次なる挑戦は。  聞き手=本誌編集委員・清水克久

東京理科大学 中根 滋理事長の目標とは

―― そもそも今回、理事長に就任された経緯は。

東京理科大学 理事長
中根 滋(なかね・しげる)
1949年生まれ。71年東京理科大学理工学部を卒業、同年日本アイ・ビー・エム入社。93年SAPジャパン社長。99年プライスウォーターハウスコンサルタントのマネージングパートナーに就任。2001年i2テクノロジーズ社長。02年同社米国本社COO。04年パワードコム社長。06年UWiNを設立して社長就任。08年学校法人東京理科大学理事、12年12月から現職。

中根 これまで本学の理事長は、卒業生かつ教授職だった方が歴任されてきました。私も卒業生ですが、教育の現場にいたことがない自分が理事長になったこと自体に大きな意味があると思っています。

 まず、本学は規模が非常に大きくなりました。私が卒業した頃、OBの総数は3万人程度でしたが、それから40年を経て、現在のOB総数は19万人にもなります。大学も、東京理科大学のほかに山口東京理科大学、諏訪東京理科大学と3校になり、11学部、39学科で、学生総数は2万2千人にもなっています。その上に教職員を含めると20万人ものコミュニティーになります。このような大きな組織を運営するには、経営のプロフェッショナルが必要です。

 理系の人間は物事を合理的に考えるので「餅は餅屋」という言葉に忠実です。科学者は自分の専門外のことは、専門家に任せるという考え方が根付いています。だから教育・研究の分野は学長以下の教授会を中心とした先生方がきちんと取り組んでいく。一方、学校経営は理事長以下、理事会が中心になって進めるのが合理的なのです。

―― 企業経営と大学経営はどのように違いますか。

中根 一番大きなポイントは、大学には株主がいないということです。普通、企業経営は経営内容を常に株主に公開し、彼らの信を問わないといけません。それが大学経営にはない。これでは、視野が狭くなったり、独善的な経営に陥ってしまう可能性がある。そこで私は、学内にある評議員会を株主総会ととらえて、透明性が高い経営に取り組んでいこうと思っています。

―― 理事長として掲げている目標は。

中根 国際化、教育の革新、研究の深みを究める、女性研究者の育成、産学公(産学官)連携強化という5つの目標があります。国際化は、まず留学生の交換がありますが、それに加えて、研究そのものの国際化に積極的に取り組んでいきます。世界中の大学、研究機関とリンクして研究を進めていくのです。新しいスローガンは「日本の理科大から世界の理科大へ」です。このスローガンで、本学の方向性がより明確になったと思っています。現在、世界の理系大学のトップはMIT(マサチューセッツ工科大学)です。MITからはこれまで78人ものノーベル賞受賞者が出ていますが、本学は残念ながらまだゼロ。この数字を見る限り「世界の理科大」への道のりは遠く険しいのですが、大きな目標を掲げることで、より成長を促していきたいと思っています。

東京理科大の教育改革と就職率の高さ

―― 教育改革の具体的な中身はどのようなものですか。

中根 日本の大学を卒業した学生は優秀でも、すぐに社会で使えない。つまり、大学で教えている内容が、社会の要請に合っていないのです。このことを考える際に重要なのは、大学にとってのお客さまは誰かという視点です。

 まずステージ1では、お金を出して教育を買っている学生がお客さまです。つまり、突き詰めて考えると先生が商品なのです。先生が良いから教育が売れる、という図式です。ここでは、大学は学生のご用聞きをしなければなりません。社会に出るまでに何を身に付け、どのような人格形成を行うか、そこまで考える必要があります。

 ステージ2のお客さまは企業であり、社会です。この場合の商品は学生になります。ステージ1では商品だった先生が何年もかけて学生を商品に育て上げ世に送り出す。ここでは、企業、社会に対して、どのような人材が求められているか、ご用聞きに徹しなければなりません。この「ご用聞き」という考え方が大学経営に薄かったのではないかと思っています。

―― 理科系の大学は就職率も高く人気が高いようですね。

中根 本学も志願者数は増えています。就職率の高さのほかに、研究内容の面白さもあると思います。また、今年(2013年)、黒田玲子先生がロレアル-ユネスコ女性科学賞を受賞されましたが、女性研究者の活躍も人気の理由でしょうね。

「世界の理科大へ」というスローガンの下、今後、英語教育は教養科目ではなく、常識ととらえて強化していきます。さらに教養科目として「経営」もきちんと学ばせたい。科学者、技術者と経営は関係がなさそうですが、経営を分からない技術者は、社会の要請に応えられません。

 企業の方に本学の学生を採用した理由を聞いた時、最も多かった答えが「ハズレがない」でした。これは言い換えると「使える人材は確実に採れるが、ダイヤモンドはいない」ということになります。だからもっと上を目指す。これからも気を緩めることなく、さらなる高みを目指して、教育の革新、経営の革新に取り組み、名実ともに「世界の理科大」と言われるようにしたいと思っています。