国際

シリア攻撃反対のデモには多くの退役軍人が参加

 「アメリカ国民同志よ、今晩はシリアについて話したい。なぜこれが重要で、ここからどこに向かっていくのか」

 9月10日午後9時、オバマ大統領はテレビ演説でこう語り始めた。

 「化学兵器による死から子どもたちを守り、私たち自身の子どもたちの安全を長期間確かにできるのなら、行動すべきだと信じる」と大統領は、化学兵器の禁止に関する国際ルールは維持すべきだと強調。しかし、武力行使に対しては、驚くような考えを明かした。

 「米国は、世界の警察官ではない」

 「私は、武力行使の必要性に対して抵抗した。なぜなら、イラクとアフガニスタンの2つの戦争の末、ほかの国の内戦を解決することはできないからだ」

 「米国は世界の警察」として、米国民の圧倒的な支持を得て、イラクとアフガニスタンで開戦したブッシュ前大統領に比べて、大きな方針転換だ。オバマ大統領は、米国は70年近くも、世界の安全の錨(いかり)だったし、その責任は重かったが、世界はよりよい場所になったと、過去を評価はしている。

 また、オバマ大統領は演説の中で、退役軍人や連邦議員から「米国は、世界の警察官でなければいけないのか」という書簡を受け取ったことを明らかにした。米国民がいかに戦争に疲れているかを示す事実だ。

 翌9月11日は、2001年の同時多発テロから12周年を迎え、ニューヨークやワシントンで慰霊の式典が開かれた。崩壊したニューヨークの世界貿易センターでは約3千人が命を落とした。しかし、その後始まったイラク戦争とアフガニスタン侵攻では、同盟国の英国も含めると約8千人の兵士が死亡している。

 9月上旬に国内各地で開かれたシリア攻撃反対のデモには、多くの退役軍人が参加した。

 ニューヨークのタイムズスクエアで、デモに参加していた女性の退役軍人は、心的外傷(トラウマ)に病み、普通の生活ができないと訴えた。

 「戦争に行ったのは、世界がよくなると信じていたからだが、米陸軍にだまされた。トラウマからの自殺で亡くなる軍人も国内で後を絶たない」

 こうした国民の厭戦気分に配慮したオバマ大統領だが、返上したものの対価も大きい。「警察国家」であることを否定することは、イコール、米国の世界における存在感の変化でもある。

 シリアを取り巻く外交政策だけでなく、内政でも、オバマ大統領にはいいニュースがない。

 2期目の政策の柱としていた銃規制の法案が頓挫したまま、銃による犠牲者は増え続けている。

外交でも内政でも思うような成果が得られないオバマ政権

 9月16日、米首都ワシントンにあるワシントン海軍工廠で銃撃事件が発生し、容疑者を含む12人が死亡した。容疑者は元海軍兵士アーロン・アレクシス(34歳)で、厳重なセキュリティーがあるはずの軍関連施設に契約職員として入り、銃を乱射した。

小学校乱射事件で息子を失ったコネチカット州ニュータウンの父親(写真:津山恵子)

小学校乱射事件で息子を失ったコネチカット州ニュータウンの父親(写真:津山恵子)

 昨年12月、コネチカット州ニュータウンの小学校で、乱射事件があり、児童20人を含む26人が犠牲となって、9カ月以上がたつ。事件直後、銃規制論議が高まり、法案可決に向けてモメンタムがついたかにみえた。

 しかし、連邦議会での可決が頓挫したほか、コロラド州では、銃規制賛成派だった上院議員が、リコール選挙で敗北し、職を失った。銃規制反対派のキャンペーンが功を奏したといえる。

 ニューヨークの中心部では9月24日、銃メーカー大手フリーダム・グループの株式94%を保有する投資ファンド、サーベラスの本社前に、銃による事件で子どもを失った両親らが集まった。サーベラスは、ニュータウンの事件後、フリーダムの株式の売却を明らかにしていた。

 しかし、犠牲者両親や銃規制推進グループによると、9カ月後もフリーダムの株式売却は実現していない。ニュータウンの乱射事件で息子ジェシー・ルイス君を失った父親ニール・ヘスリン氏はこう訴えた。

 「サーベラスに、息子がもういないということを知ってもらいたい」

 デモに参加した関係者によると、サーベラスが出資する銃メーカーから巨額の献金が、全米ライフル協会(NRA)に送られた。さらに、NRAからキャンペーン資金が送られた結果、コロラド州上院議員がリコール選挙に敗北したという。

 銃規制論議が思うように進まない今、デモ参加者からは、「オバマ」という言葉を聞くことはなかった。ワシントンでの進展を誰もがあきらめているかにもみえる。

 外交、内政と思うような成果が得られないオバマ政権にとって、2013年は曲がり角の年になりそうだ。

 

あわせて読みたい

2014年09月09日 イラクに引き戻されたオバマ大統領の決意

2014年03月04日 君子豹変す―債務上限引き上げ法案とオバマ大統領

2013年10月15日 政府機関の閉鎖で難問が山積 オバマ、レームダック大統領に

2013年06月18日 米政府の通信傍受が浮上 オバマに次々に試練

【国際】の記事一覧はこちら

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

習近平政権下の中国経済と新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

変貌するアジア

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ
無農薬野菜

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

格差問題が深刻化する米国―教育の機会格差解消にNY市が動き出す

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

社員17人で41億円を売り上げた社長が語る「中国で越境ECを成功させる秘訣」―栖原徹(ピルボックスジャパン社長)

今や米国と並び、世界最大級の消費市場となった中国。その中国で爆発的なヒットを飛ばしているのが健康食品・サプリメントなどの越境ECで展開するピルボックスジャパンだ。同社を率いる栖原徹社長に、中国市場で成功するための秘訣を聞いた。(取材・文=吉田浩) 栖原徹・ピルボックスジャパン社長プロフィール…

栖原徹・ピルボックスジャパン社長

意思決定の効率化を実現しデータ活用に革命を起こす―インティメート・マージャー

総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

 企業経営者にとって「理念」や「志」が大事とはよく言われるものの、今一つピンと来ない向きも多いのではないだろうか。成功した経営者がいくら精神面の重要性を説いても、日々の現実と格闘している経営者にとっては、ただの綺麗ごとに聞こえてしまうかもしれない。 それでも、ビジネスを成功させるために最も大切なのは「志」だと…

立志財団

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

アスリートのセカンドキャリア問題に真正面から取り組む―中田仁之(一般社団法人S.E.A代表理事)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年3月号
[特集] 令和女史のリーダー哲学
  • ・元谷芙美子(アパホテル社長)
  • ・石黒不二代(ネットイヤーグループ社長)
  • ・小巻亜矢(サンリオエンターテイメント社長)
  • ・石渡美奈(ホッピービバレッジ社長)
  • ・戸田泰子(理化電子社長)
  • ・吉本新喜劇で初の女性座長は「イキらず、驕らず、高ぶらず」の支えるリーダー
  • ・敏腕ヘッドハンターが語る リーダーに求められる力は使命感に裏付けられた勇気
  • ・本と映画に学ぶ女史たちの生き様
[Special Interview]

 橋本聖子(女性活躍・東京五輪・男女共同参画担当大臣)

 女性が輝く新時代へ 政治家もOne Team

[NEWS REPORT]

◆CESでコンセプトカーを発表 ソニーが自動車メーカーになる日

◆アマゾンと提携したライフ 新規顧客獲得は成功するのか

◆ゴーン被告逃亡の影響は? 内田誠・日産新社長の前途

◆血液によるがん診断で日本の医療費は高騰する

[特集2]

 スタートアップ!関西

 日本の起業家たちが関西に注目する理由

ページ上部へ戻る