政治・経済

平均概念で潜在GDPは測れない

経済学者や評論家、官僚、さらに政治家の中には、

「デフレの原因はデフレギャップではない。マネー量が不足していることだ。何しろ、デフレギャップが存在しない状況でも、日本の物価は下がっていた」

 と、主張する人が少なくない。「潜在GDP(供給能力)-名目GDP(総需要)」で計算されるデフレギャップがマイナス、すなわち総需要のほうが供給能力を上回っている時期ですら、物価は下がり続けた、と言っているわけである。

 総需要が供給能力を上回り、インフレギャップ状態になった時期ですら、日本の物価は下がり続けた。よって、デフレギャップはデフレの原因ではないのだ。

 という話なのだが、彼らは故意なのか無知なのかは知らないが、1つ「重要な観点」を無視している。すなわち、デフレギャップを計算する際の「潜在GDP」が、実は2つ存在するという問題である。

 1つ目は、「最大概念の潜在GDP」になる。国民経済において、既に存在する労働者や資本、設備がフルに稼働した場合に生産可能なGDPを意味する。労働者がフル稼働している以上、「完全雇用環境下のGDP」と呼び替えても構わない。

 日本の場合、インフレ率が2%に上昇すると、失業率も2%台前半に落ちる。さらに、インフレ率が3%、4%と上がっても、失業率は2%を切らない。すなわち、わが国の完全雇用失業率は2%である。

 日本の失業率が2%に下がった時点のGDPが、「最大概念の潜在GDP」という話である。非常に論理的で、分かりやすいのではないかと思う。筆者が「潜在GDP」という用語を使うときは、もちろん完全雇用下のGDPを意味している。

 日本が完全雇用状態になり、設備がフル稼働になったとき、生産されるGDPの総計を「潜在GDP」と呼ぶ。この潜在GDPに対し、現実の総需要(名目GDP)が不足している。よって、物価が継続的に下がるデフレーションが発生しているという考え方だ。

 それに対し、2つ目の潜在GDPが「平均概念の潜在GDP」になる。これは実に分かりにくい。

 平均概念の潜在GDPとは、過去の平均的な労働や設備稼働率に対応するGDPを意味している。失業率で言えば、まずは過去の平均失業率を算出する。弾き出された平均失業率時点のGDPが、潜在GDP(平均概念の潜在GDP)と定義するのだ。

 例えば、1980年から2010年までの31年間のわが国の失業率の平均は、3・5%である。ということは、平均概念の潜在GDPとは、失業率3・5%時点のGDPということになる。

 失業率3・5%は完全雇用状況ではないため、国内には稼働していない労働者や設備が存在している。その状況で達成されるGDPが「潜在GDP」と言われても、まるで理解も納得もできない。何しろ、稼働していない労働力や設備が存在しているわけだから、現実問題として「潜在」GDPでも何でもないわけだ。

 当然の話として、平均概念の潜在GDPは、最大概念のGDPよりも小さくなる。国内にいまだ稼働していない労働者や設備がある以上、当たり前だ。平均概念の潜在GDPを用い、総需要と比較すると、デフレギャップは小さくなる。

「最大概念の潜在GDPを使用するとデフレギャップ状態であるにもかかわらず、平均概念を使っているためにインフレギャップ状態に『見える』」

 ということが、論理的に起こり得るわけだ。

 そうなれば、確かにデフレギャップが存在せず、インフレギャップ状態にありながら、国内の物価が下がり続けるという現象が発生し得る。とはいえ、平均概念の潜在GDPを用いている以上、インフレギャップ状態とはいえ、国内に過剰な生産能力が存在しているわけだ。

潜在GDPの間違った認識がデフレ対策を妨げる

 そもそも、平均失業率で潜在GDPを測定するという発想自体がおかしいのだ。何しろ、バブル崩壊後の国は失業率が急騰するケースが少なくない。例えば、ギリシャはここ数年、失業率が極端に高まっており、平均失業率も悪化している。同国の13年までの過去13年間の平均失業率は、12・7%である。労働者の一割以上が失業状態にあるにもかかわらず、

「その状況の生産能力が潜在GDP(潜在的に最大なGDP)だよ」

 と言われても、納得できるはずがない。ギリシャは失業者が10%を超える状況が、同国の「生産能力の限界」という話になってしまうのだ。そんなバカな話はない。

 ところが、なぜか現在はグローバルに「平均概念の潜在GDP」が主流になってしまっている。日本の内閣府や日本銀行も、平均概念の潜在GDPで測ったデフレギャップのみを発表し、最大概念の潜在GDPについては無視している。

 結果的に、わが国のデフレギャップは過小評価され、政府は総需要拡大策という正しいデフレ対策に乗り出さず、さらに「デフレの原因はデフレギャップではない。マネー量が不足しているためだ」と主張する声が大きくなり、金融政策のみがクローズアップされ、財政出動がなおざりにされてしまうというわけである。

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