全日本空輸(ANA)の主力航空機であるボーイング787型機でエンジン部品のトラブルが発生。全エンジンの改修が必要になっている。燃費効率が良く、航続距離も長い夢の次世代機と期待され、ANAの躍進を支えてきた機材だけに業績への影響が心配される。文=本誌/古賀寛明
魅力的な機種ではあるが…
8月25日、ANAはボーイング787型機(以下、787)に搭載しているロールスロイス製のエンジン部品に欠陥が見つかったとして、改修を行うことを発表した。そのため翌26日には9便が欠航し、その翌日から1日数便の欠航と遅延が発生していた。
今年2月にマレーシアのクアラルンプール、3月にベトナムのハノイをそれぞれ出発した便で離陸直後にエンジントラブルが発生、出発地に引き返す事態が起きた。トラブルの原因は、エンジン内のタービンのブレード(羽根)が大気中に浮遊する汚染物質によって劣化、腐食されて破断したこと。もちろん、腐食が起こるためブレードにはコーティングが施されているものの、製造元であるロールスロイスによればコーティングが不足しており、想定以上に劣化が早かったということである。
ただ、こうした問題は、長距離飛行を行う国際線特有のものと認識され、当初、ロールスロイス側は、国際線のエンジンのみの改修で問題はないとしていた。ところが8月20日に、羽田発の宮崎行きの便で同様の事態が発生。これを受けてANAは同エンジンを使用する全機で改修を行うことを決定した。
既に、国際線で使用している37機の内、8・5機分にあたる17台のエンジンについては整備を行っており、また国内線でも5機が整備に入ったという。
その影響で欠航が発生しており、発表翌日の8月26日には、羽田~伊丹、羽田~福岡、羽田~広島線の計9便が、翌27日には3便と遅延が2便、28日に4便の欠航と影響が出ている。
ANAにとって787は、自らも開発に関わるローンチカスタマーとして携わった思い入れの強い機材で、先日も50機目を受領するなど、世界で一番多く保有している。その性能は、炭素繊維複合材を最大限に活用したことで、従来の機種よりも燃費効率を格段に向上。その結果、今まで採算が厳しい中、大型機を飛ばさざるを得なかった長距離の路線でも、中型機である787の就航が可能になったことで採算ベースに乗せることが可能になるなど、今のANAの路線網の充実は、この機材なくしてはあり得なかった。
もちろん、他の航空会社にとっても、魅力的な航空機であることは変わらず、国内でも日本航空が30機保有し、世界でも現在までに1千機以上の受注があるなど人気の機種となっている。
明暗を分けたエンジンの選択
「ドリームライナー」の愛称のとおり、魅力的な航空機であることに違いはないが、一方でトラブルも多いのが787の特徴だ。そもそも開発段階から遅れに遅れていた。ANAは当初、2008年の北京オリンピックに合わせて就航しようともくろんでいたが、結局、引き渡しを受けたのが11年の9月と、3年も遅延。生みの苦しみを味わっている。
また、記憶してる人も多いだろうが、13年に、バッテリーから出火する電気系統の不具合を起こし、世界中で運航を停止したこともあった。この問題は、既に解決しているものの、いまだにANA、JAL問わず787に対して不安を覚える利用者も多い。
今回のトラブルは国内航空会社ではANAだけに起こっている。日本航空に同様のトラブルが起こらなかった理由は部品の欠陥が機体ではなくエンジンにおいて見つかったのが理由だ。航空機のエンジンは、自動車メーカーとは違い、車体とエンジンを同一の会社がつくっているわけではない。つまり、機種が同じでもエンジンを選ぶことができるのだ。旅客機の世界は主に3大メーカーの寡占であり、中でも最大のメーカーが米国のGEの子会社GE・アビエーション、次に、英国のロールスロイス、そして、米国のプラット&ホイットニーと続く。
787用のエンジンも、ロールスロイスの「トレント1000」とGEの「GEnx」を選択することができ、ANAの787にはロールスロイスのトレント1000が搭載されたことで、今回の問題が起こり、一方、日本航空はGEのエンジンを使用しているので、今回の騒動とは無縁なのである。
トレント1000を搭載した他の航空会社でも不具合が起こっているようで、例えば、787を4機保有するロイヤルブルネイ航空でも同様の事態が2件起こっているという。現在、ANA側が把握しているのはANAの3件とロイヤルブルネイの2件の5件の不具合だけ。今回の改修費用についてANAはロールスロイス側に請求していくとみられる。
気になるのは、今後の影響だ。
8月中の影響は26日に発表されたが、幸いにも9月1~15日までのダイヤでは欠航せずに済むことが8月29日に発表されており、最少の被害で収めている。当初、欠航が1日10便程度発生することも予想されていたため、業績に対する影響も懸念されていたが、深刻なダメージにはならないようだ。ただ、ANAも最近何かと問題が起こっているだけに、今回の件も含めイメージダウンには気をつけねばならないだろう。
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