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石川康晴・ストライプインターナショナル社長「社名変更は世界を目指す第一歩」

今年3月1日、クロスカンパニーはストライプインターナショナルへと社名変更した。創業から22年。業績も上がり知名度も高まってきた段階で、あえてゼロからのスタートに挑む。その真意は何か。石川康晴社長を直撃した。聞き手=本誌/関 慎夫 写真=佐々木 伸

石川康晴・ストライプインターナショナル社長プロフィール

石川康晴氏

石川康晴(いしかわ・やすはる)1970年岡山市生まれ。岡山大学経済学部卒。23歳で故郷の岡山県にクロスカンパニーを創業、レディスセレクトショップ「CROSS FEMME」オープン。99年主力ブランド「earth music&ecology」事業を開始。今年3月1日、社名をストライプインターナショナルに変更した。公益財団法人石川文化振興財団理事長も務めている。

石川社長が社名変更を決めた理由と時期は?

社名変更を伝えた時社員の顎が外れた

―― 3月1日に、社名を慣れ親しんだクロスカンパニーからストライプインターナショナルへと変更しました。その理由を教えてください。

石川 過去の成功体験をすべて捨てたかったからです。コンシューマーや社員に向けてのメッセージというより、僕自身に売上高1千億円まで急成長してきた成功体験が染みついている。それで自信を持ち過ぎてしまうと、次のステージである1兆円への道のりに弊害が出るような気がしていました。そこで思い切って変えることにしたのです。

社員についても同様で、クロスカンパニーの名刺を出せば、ビルのデベロッパーや業界の方々が一目置いてくれるまでにはなった。でもこんなところで止まっていてはいけない。ストライプの名刺を出しても誰も分からない。そこからの再スタートには、1兆円に向けて初心に戻るという意味もあります。

―― いつ頃から社名変更を考えていたんですか。

石川 2年前、売上高が1千億円に到達する直前のことです。これまでのクロスカンパニーは、国内の直営店主義のアパレル企業でした。でも僕が描いた将来像は、グローバルアパレルであり、かつeコマースなどのテクノロジーを駆使した企業です。事業領域も、これまではアパレルだったものをファッションを中核にさらに広げていく。それなのにこれまでと同じ社名でいいのか、ずっと考え続けて、最終的には昨年9月にストライプに変えると決めました。

―― 社員にはいつ伝えましたか。

石川 今年2月25日の社員総会で伝えました。それまでに知っていたのはほんの一部の社員だけです。社名変更を決断した直後、まず役員に伝えて、その後限られた少数のメンバーでプロジェクトチームを立ち上げ、名刺や封筒の発注をコントロールするよう命じました。次にブランドの在庫をコントロールするなど具体的な準備をするため、昨年12月にブランドマネジャーを中心とした部門長に伝えましたが、事前に社名変更を知っていたのはそのくらいです。

―― 社名変更を伝えた時の反応はいかがでした。

石川 役員もプロジェクトチームも、ブランドマネジャーも社員も、全員一緒で顎が外れた顔をしていました(笑)。売り上げが1千億円を超え、知名度も上がってきた。それなのにもう一度ゼロに戻るのだから、役員も社員も一瞬驚いたようですね。

KOEブランドは世界を目指す

―― グローバルとテクノロジーということですが、具体的にはどういうことでしょうか。

石川 テクノロジーで言えば、eコマースはもちろんですが、昨年から始めた「メチャカリ」があります。これは日本で初めてメーカーが展開するレンタルファッションです。毎月定額で、好きな服を好きなだけ借りることができるシステムです。「UBER」や「Airbnb」など、所有より共有へと世の中の価値観が変わってきた。これに対応していかなければなりません。

グローバルに関しては、世界にはZARAやH&Mのように2兆円を超えるアパレルメーカーが存在します。当社は「earth music&ecology」を展開してきましたが、見えているのはアジアで1千億円。レディースしかないし、デザインもアジア向けなため、欧米では勝負できない。そこでグローバルブランド「KOE」(コエ)を立ち上げました。現在はまだ日本国内にとどまっていますが、近い将来、欧米に進出します。

―― 日本のファッションブランドの多くが、アジアでは通用しても欧米では苦戦しています。

石川 確かにそのとおりです。アメリカは世界最大の市場ですし、ヨーロッパも大きい。でもそこで成功するには、単にデザインや品質が優れているというのでは無理だと考えています。「KOE」は、通常のファストファッションとは違い、エコフレンドリーでフェアサプライチェーンで提供することをコンセプトにしています。でもそれだけでは勝てません。もうひとつかふたつ、新しいアイデアがないと。そこでポイントになるのがテクノロジー。日本のテクノロジーの高さはアメリカでも認知されています。これをファッションに取り込んだ新しいプロダクトをつくっていきたい。

―― ストライプは上場準備に入っています。これも社名変更と同様、新しい会社に生まれ変わるためですか。

石川 社名変更を考える前にテクノロジーの事業とグローバルの事業のアイデアが降って沸いてきたんですよ。ただそれをやろうとしても、毎年生まれるキャッシュフローだけでは回っていかない。「メチャカリ」は使ってみれば分かりますが、非常にお得感があります。でも日本で初めてのビジネスですから、定着するには10年の時間とかなりのコストが掛かる。そう考えると回収にも時間がかかります。

「KOE」もお金が掛かります。本格的に欧米に進出するには、例えばニューヨーク五番街に旗艦店を出さなければならない。ロンドンのオックスフォードストリートにも。日本でも銀座に国内旗艦店をつくる。旗艦店をひとつつくるのに数十億円規模の投資が必要です。しかも全世界で一気に拡大する方針ですが、とても今のキャッシュフローではまかなえません。そこで設立から20年以上たった今、上場しようと決めました。

石川康晴氏が抱く危機感とアントレプレナーシップ

一気呵成に走る理由

―― 石川社長の投資に対する考え方を教えてください。

石川 企業が成長を続けていくには、絶え間ないR&Dが必要です。これまでも、2大ブランドである「earth」と「Green Parks」を中心とした主力事業の営業利益の3分の1をR&Dに回していました。主力事業がしっかり稼いでいるうちにエントリー事業を育てていきます。

―― 上場により資金調達手段が増すことで、M&Aなど広義のR&Dをやる環境も整います。その一方で、外部の株主は投資に対して着実なリターンを求めます。

石川 それはすごく重要です。そこで無謀な投資にならないよう、スタートアップする事業に全部キャップを付けています。例えば「KOE」なら50億円のキャップです。累積赤字が50億円出た段階で、どんなに将来性があっても、そこで終わりです。直営店も2年赤字で退店です。すべての事業が同様で、R&Dにどんどん突っ込み、店も拡大しても、ここまで来たら畳むと決めてある。だからこそ思い切り走ることができるのです。

―― もっと地道に事業拡大するという選択肢もあるのに、一気呵成に走っています。冒頭に、成功体験を捨てると言ったことも含め、危機感の裏返しのようにも思えます。

石川 会社を22年間、経営していますが、毎日危機感はあります。特に「KOE」は、2兆円ブランドを競争相手としてとらえているのでなおさらです。同じところを目指している企業はチャイナなどアジアに複数ある。それなのに、一歩ずつだと言って時間をかけたのでは、われわれが入っていく隙間がなくなってしまう。テクノロジー事業に関しても、競争相手がIT企業になってくる。彼らの成長スピードについていけないと、全部持っていかれてしまう。だからこそスピードが重要です。

―― 猛烈なスピードで成長する企業の場合、社員の負担が多くなるケースは少なくありません。ストライプは、イクメン休暇取得率が95%など、社員に優しい会社としても知られています。どう両立するのですか。

石川 この8月から、ベアと最低基本給を上げました。年間休日日数も対前年で5日増やし、さらにはライフスタイル休暇という、1週間連続の休みを取得する制度をスタートさせました。こうした待遇改善は離職率の削減に効果があります。その一方で、新規事業提案制度など、社員のモチベーションを上げる工夫も数多くやっています。

ただその一方で投資効率も上げていかなければなりません。ですからテクノロジーです。ITによって生産性を上げ、そこから出る利益を社員の待遇改善やエデュケーションプログラムにも回していきます。

日本トップの背中が見えたこれからが創業期

―― ある意味、非常に欲張りな経営者です。石川社長のモチベーションはどこからくるのでしょう。

石川 やっぱりアントレプレナー精神でしょうね。道を切り開く。歴史に自分が載る。そして日本を背負う。アパレル業界を変える。そういうことが楽しい。お金や名誉より、それが突き動かす原動力になっています。

―― それは22年前にセレクトショップを開いた時から持っていたものですか。

石川 アントレプレナー精神は持っていたと思います。でも当時の目標は、起業した岡山で一番おしゃれだと言ってもらいたいとか、岡山で売り上げ1位とか、小さな目標だった。でも目標というのは、スポーツ選手もそうですけど、次から次へとアップデートしていくんです。

今は世界ベスト3に入ることしか考えていません。日本のトップアパレルの背中は見えています。日本のトップになればアジアのトップの背中が見え始めて、さらに進めばZARA、H&Mの影が見えてくる。

これまでの22年はグローバルの下準備というか筋トレのようなもの。むしろ今が創業で、これからの20年でどれだけ急激に成長させられるかが大事だし、そういう会社をつくらなければならないと思っています。

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