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ロッテのお家騒動で始まる韓国財閥の解体

昨年、親子間、兄弟間の確執が明らかになったロッテのお家騒動が新たな展開を見せている。韓国でグループの不正経理疑惑が表面化、検察も動き始めた。日本誕生、いまや韓国第5位の財閥に起きた不祥事は、韓国の財閥そのものの改革へとつながりそうだ。文=国際ジャーナリスト/戸田光太郎

20161101LOTTE

ロッテの中枢を知る男の死

天井の高い広々としたカフェ「テラロサ」は韓国首都ソウルから約50キロメートル、京畿道楊平郡西宋面にある。近くの川沿いには散歩道があり、桜並木の根元に男が倒れているのをジョギング中の住人が発見した。8月26日の朝7時半。桜の枝には首吊り用と思われるネクタイとスカーフが翻っていた。通報を受けて駆け付けた京畿楊平警察署は男のポケットから身分証を見つけた。李仁源(イ・インウォン)とあった。ロッテグループのナンバー2である。

現場付近に駐車されていた李副会長の車からは遺書が発見された。A4用紙の1枚目は表紙、2枚目は家族に向け持病で迷惑をかけたことと先立つことに対する謝罪、3枚目には会社に向け「辛会長は立派な人物だ」と記し、最後の4枚目は検察に対し、ロッテに裏金は存在しないと書き残していた。李は、この日の9時半にソウル中央地検の召喚調査を控えていた。

地検捜査チームはロッテグループの不正疑惑を調査しており、経営者一族やグループ全般の経営まで総括する李副会長を取り調べる予定だった。

李が「立派な人物だ」と評した辛会長は創業者の次男、辛東彬(シン・ドンピン)、日本名・重光昭夫のことだ。去年、この息子、創業者の孫の結婚式に安倍晋三が出席した。辛会長の父、ロッテ創業者の辛格浩(シン・ギョクホ)、日本名・重光武雄は、安倍首相の父、晋太郎や母方の祖父、岸信介とも親交があった。

ロッテは、日本では製菓と球団で有名だが、韓国では製菓に加えホテルや百貨店、石油化学など幅広い事業を展開し、日本のロッテの20倍を売り上げる韓国第5位の財閥だ。

ロッテの創始者・辛格浩は1921年に日本統治下の朝鮮に10人兄弟の長男として生まれ、42年に関釜連絡船で日本本土に上陸し、朝は牛乳配達と新聞売り、昼は工場で働きながら、早稲田実業を卒業した。日本名は重光武雄。47年、ガム製造に乗り出し、48年にはロッテを設立、大成功した。そして日韓国交正常化の2年後の67年に韓国に進出、これまた成功させた。

武雄は70年、当時の駐日韓国大使を引き連れて大統領府で朴正熙(パク・ヒョンヒ)と会い、朴から、小公洞の半島(パンド)ホテルを払い下げるから国際的なホテルを造って経営してほしいと頼まれた。

朴大統領はその後、親日政策に不満を持つ側近に暗殺された。現大統領、朴槿恵(パク・クネ)はその娘だ。

父、朴大統領が掲げたのは反共と経済発展。朴は国交正常化後に日本から経済協力金を引き出した。無償で3億ドル、有償で2億ドル。当時の韓国の国家予算3・5億ドルを上回る全額が日本から支払われ、朴はそれを物流、エネルギー、製鉄に投じ、やがて韓国は北朝鮮を追い抜き、先進国の仲間入りを果たした。

79年の光州事件で民主化運動を武力鎮圧し、政権についた全斗煥はソウル中心部のロッテタウンを後押しした。後に、全は不正蓄財や光州事件の咎で死刑判決を受けて投獄された。崔圭夏は軍事クーデターで辞任。盧泰愚は逮捕され、懲役刑。金泳三は次男が収賄と脱税で逮捕。金大中は息子3人が収賄で逮捕。盧武鉉は収賄疑惑で自殺した。

李明博はソウル市長時代、第2ロッテワールドの建設計画を承認した。大統領に就任してから李政権の間、ロッテ系列企業数は46から79に増え、資産も49兆2千億ウォンから95兆8千億ウォンと倍増。李大統領も就任時から側近や親族が連続して逮捕起訴され、本人も告発された。

財閥改革に乗り出す朴槿恵大統領

日本発の製菓会社が韓国で5番目の財閥になった。日本のロッテの売り上げは5%にすぎず、95%は韓国の売り上げだが、親会社のロッテホールディングスは日本にある。この覇権をめぐって戦いは泥沼化し、武雄と長男宏之と次男昭夫の3人はそれぞれ9月に検察に出頭し、取り調べを受けた。

ロッテは日本への韓国国富の流出の窓口になっているという疑いも持たれている。日本のロッテHDへの225億円の配当も槍玉にあげられた。しかし、過去38年間にわたって日本から韓国への投資は2千億円にものぼるため、日本の国税庁は「日本の国富が韓国に流出している」と目くじらを立てていた。

昨年のロッテグループの売り上げは6兆8千億円で、日本側への225億円の配当というのはその0・3%で、とても「国富の流出」という大袈裟なものではない。ただ取り調べ後にマイクを突きつけられて兄は日本語で回答し、弟はタドタドしい韓国語で返答するという場面が放映され、反日感情と財閥への恨みと在日に対する偏見が事態を悪化させた。

韓国には100以上財閥が存在するが、1位のサムスンを筆頭に5位ロッテ、9位韓進海運など10大財閥が韓国経済全体の76・5%を占めている。韓国の労働人口2507万人のうち、10大財閥に勤務するのは3・6%にすぎない。こうした不均衡の中で、ロッテのお家騒動に続いて、韓進海運は経営破綻、世界中で船舶が入港を拒否された。

韓国経済が減速し格差が広がり、同族経営の財閥の横暴が目立つ中、ロッテと歩んだ父と袂を分かち、朴槿恵大統領は財閥改革に乗り出さざるを得なくなった。(文中敬称略)

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