内田氏の引退で小池陣営の戦意喪失を狙う自民党
東京23区の区長選挙がテレビの全国ニュースでほぼトップ扱いで伝えられるなどかつてなかったことだ。やはり、小池百合子東京都知事が仕掛ける「小池劇場」の注目度の高さゆえだろう。
2月5日、日曜日の夜のニュースを賑わせたのは、小池知事と都議会自民党のドン・内田茂都議の代理戦争として大きな注目を集めた千代田区長選挙。結果は予想どおり小池氏が推した現職の石川雅己氏が、内田氏が推した与謝野信氏にトリプル以上の差をつけて圧勝した。
そもそも石川氏は多選批判や、長期政権による区議会との対立などで年を追うごとに支持基盤が弱まり、当初は石川氏を推してきた内田氏も反目に回った。前回区長選挙では辛勝、今回もかなり厳しい戦いと見られていた。ところが、人気の小池知事が石川氏についたことで一転圧勝となったわけだ。
「極端な言い方をすればこの選挙は石川さんではなく、小池さんが勝った選挙。そして、小池さんは次の都議選でも千代田区に小池派の候補を擁立して、内田さんの千代田区の定数1の議席を奪って息の根を止めるつもりです」(小池知事周辺)
ところが、選挙の翌日、新たな展開を見せる。今後も小池知事が都議選に向けてターゲットにしようとしていた内田氏が、区長選の責任を取り次期都議選には出馬せずに政界引退を決めたという情報が駆け巡った。
内田氏本人は、2月17日現在引退を明言していないが、ある都連関係者はこう打ち明けた。
「今回、区長選直後に引退表明するというのは、実は自民党の都連の一部の国会議員など幹部がタイミングを目論んでいた。まず第一義的には、内田さんは小池さんとのバトルに負けて身を引くんじゃない、あくまでも区長選の責任で引退するという形にしようとした。それならば、内田さんのメンツも立つ」
しかし、もっとしたたかな二次的な効果もあるというのだ。
「内田さんが都議選に出なければ、小池さんは次の都議選で攻める最大の敵、いわば象徴を失うことになる。小池さんを敵失の状態にして戦意喪失させる選挙戦略にもなる」(同)
昨年の小池知事の就任直後には議会の論戦などでも敵意をむき出しにしていた自民党だが、小池知事の人気が衰えないことから、いわゆる「抱きつき作戦」に方向転換しつつある。例えば、来年度予算案にも賛成の意向を示したり、改革路線も「ともに改革しよう」などと言い出している。夏の都議選でも激しくぶつかり合うのではなく、内田氏を消すことで対立軸をなくし、小池知事の追い風を弱めて無党派などの動きを阻止し、組織票のある自民党に有利に運ぼうということなのだ。
自民党そのものを敵に設定
だが、自民党の狙いに気づかない小池知事ではない。ならばとぶち上げているのが「小池派の候補を何と70人擁立して単独過半数を狙う」という小池氏周辺から出てきている話だ。
「小池サイドにとっては、内田さんがいなくなって代わりに誰かいるかというと都議会自民党には大物は見当たらない。それならば『自民党』という巨大組織そのものを敵にして、一気に単独過半数を目指すという、さらに大きな上を行くケンカを仕掛けたということです」(小池氏を支援する都議会会派幹部)
また、この話が決して絵空事ではない根拠がちゃんとある。同幹部は、「小池サイドの選挙ブレーンが細かく分析調査をしていますが、このままいけば60議席から限りなく70議席に近い勝利は可能という結果も出ている」と話しているほか、公明党が年明けに行った世論調査でも小池氏の都民ファーストの会は60人当選、自民党は30人を割り、公明党も1議席減などのデータが出ているという。
小池知事の圧勝となれば、都議会の構図が一変するだけでなく国政にも影響が出てくるのは必至だ。
民進党の若手国会議員は言う。
「民進党は小池VS自民の戦いに埋没して議席が0~2という予測も出ています。そうなれば、地元東京の蓮舫代表の責任になり、『蓮舫代表をおろす動きが出る』と言う幹部もいます」
自民党も30を切るような結果になれば国政選挙の母体が弱体化する。次期総選挙で自民党国会議員への影響は大きい。東京で圧倒的な支持が得られることが都議選で実証されれば小池知事がいよいよ東京で国政政党を立ち上げる可能性もある。そこで、取りあえずは「抱きつき作戦」の自民党の中にも「こちらも、都議選を60人規模で戦うべきじゃないか。真っ向勝負すべき」(自民党ベテラン都議)といった声が出始めている。
今夏の都議選に向けてより激しいバトルが始まった。
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