年末年始の商戦で、都市部百貨店の売上高が、ほぼ前年同月比の水準を維持するなど、百貨店業界に薄日が差してきた。一方で、地方店は相変わらずの苦戦続き。従来型の百貨店モデルにとらわれない方策も、百貨店業界に課されているテーマだ。「まちづくり戦略」を標榜する髙島屋の現在を追った。文=大和賢治
高島屋をはじめとする大手百貨店の脅威とは
2017年は、3月に「仕入構造改革」に着手してきた三越伊勢丹ホールディングスの大西洋社長の電撃解任劇、翌4月には、「脱百貨店」を掲げるJ.フロントリテイリングの複合商業施設「GINZA SIX」が開業するなど、大手百貨店の動向に注目が集まった1年でもあった。
両社が百貨店の従来型ビジネスモデルからの変革に乗り出した背景にあるのは、言うまでもなく、カテゴリーキラーや都市型ショッピングセンター(SC)の台頭。十数年前であれば、両業態の主戦場は郊外と相場は決まっていた。ところが、ここ数年、一転して人口が集中する都心部への侵攻を加速、大都市の主要部に館を構える百貨店との間で、激しい顧客争奪戦を繰り広げている。
少子高齢化で消費マーケットのシュリンクが避けられない中にあって、新たな競合の出現は、小売りの王者として君臨してきた百貨店にとっても一定の脅威だ。前述2社が、従来型にとらわれないビジネスモデルとして打ち出したのが、「仕入構造改革」であり、「脱百貨店」だったわけだ。
髙島屋は東神開発とともに「まちづくり戦略」を進める
百貨店の置かれている情勢が厳しさを増す中で、際立った強みを見せているのが髙島屋である。
髙島屋は、1969年日本初の本格的郊外型ショッピングセンター「玉川髙島屋S・C」を開業し成功に導いた東神開発を傘下に擁している。
今でこそ同店が位置する二子玉川駅は高級住宅地として認識されているが、当時は畑や野原が広がる一都市にすぎなかった。
しかし、同社は車社会の到来等、この地域の商圏拡大を予見、核テナントとなる「玉川髙島屋」に加え、有力専門店を数多く誘致することで、成長を果たしてきた実績がある。新たな競合の出現、進む消費の多様化等、複雑化するマーケットに対応し得るノウハウを持つのが東神開発なのだ。
また同社は、施設内でショッピングテナント以外にもカルチャーサロンや屋上庭園を設ける一方、周辺の飲食街の開発や街路樹整備等にも乗り出し、SCをコアとする街づくりにも貢献してきた。
今秋、日本橋2丁目の再開発に伴いオープンする「日本橋髙島屋S.C.」は、髙島屋グループが培ってきたノウハウの集大成ともいえる店舗となるのかもしれない。
この再開発は、髙島屋日本橋店の周囲、約2.6ヘクタールの敷地をA~D街区に区分けし、新たに大規模複合ビル2棟(Aが東館、Cが新館)を新設する。百貨店建築としては日本で初めて重要文化財に指定された本館を生かしながら、隣接するA・C街区に、東神開発が誘致する専門店を配置することとなる。これにより総売り場面積は、約6万6千平方メートル(1.4倍)となり、髙島屋が標榜している「まちづくり戦略」の象徴店舗が誕生する。
「まちづくり戦略」とは、百貨店と専門店の融合により館の魅力を最大化させるとともに、地域と共生し、街のアンカーとしての役割を担うというものだ。この「日本橋髙島屋S.C.」こそ、髙島屋の「まちづくり戦略」を具現化した「新・都市型SC」にほかならない。
同エリアは、東急日本橋店が99年に閉店して以降、ビジネス街のイメージが定着、社内では、商業地として再び賑わいを創出したいという機運も高まっていたという。
そんな折、デベロッパーから提案されたのが髙島屋日本橋店を核とする2丁目地区の再開発だった。具体的な話し合いが持たれた2005年は、豊洲などベイエリアにタワーマンションが次々と計画、竣工するなど、商圏拡大も予想されただけに、髙島屋にとってこの再開発は、東京の中心において「まちづくり」を実現するにベストな提案となった。
とはいえ、今回のプロジェクトでは、売り場面積が一気に1.4倍となる。ひとえに専門店誘致と言っても、MDあるいは、ターゲット層をどこに置くかなど、いろいろな要素を勘案しなければならない。
日本橋高島屋の全貌が明らかになるのはいつか
今回のプロジェクトで、全体を統括する髙島屋日本橋再開発室の赤松實担当部長は、具体的な誘致店名は現段階では明かせないと前置きしながら、売り場のイメージを次のように述べた。
「重視しているのは、単にモノを買う売り場ではなく、居心地が良いコミュニケーションの場です。家に帰る前に気持ちをリセットできる空間、あるいは第2の家のようにお使いいただきたいと考えています。近年、キーワードは“コト”。MDですから、そこは十分に意識しています。
また、ターゲット層についてですが、本館は、永きにわたりご利用いただいている多くのお客さまが全国にいらっしゃいますので、そのお客さまのニーズに変わらずお応えしていきます。一方、新館においては、増加しているオフィスワーカーや近隣住民の方などを戦略ターゲットとしMDを構築していきます。日本橋髙島屋S.C.は本館・新館に加え、東館、2015年にオープンした「ウオッチメゾン」を含めた4館で構成されます。
4館にそれぞれの役割を持たせ、融合させることで、幅広いお客さまニーズに対応するとともにまち歩きをするような楽しさを演出する髙島屋ならではの商業施設づくりを目指します。重要なのはお客さまの流れを一体化することだと考えています」
現在、テナントとして発表しているのは、東館に3月14日オープンする「ポケモンセンタートウキョーDX&ポケモンカフェ」のみ。ポケモンセンターの創業地は日本橋なんだとか。
「ポケモンセンターに期待するのはお子さまを連れて来店されるご両親、祖父母といった3世代の消費です。東館に寄ったついでに本館、新館というシナジーにも期待しています。また、既にSNSでは話題となっていますから、国内外のお客さま層の拡大にも寄与すると考えています」(同)
本館と新館の間にあった区道が、歩行者専用道路となることも特徴の一つだ。本館と新館を上階の渡り廊下でつなぎ、顧客の回遊を促すケースは、まま見受けるが、公道を介して回遊を促すのは、あまりお目にかからない。どんなに狭い道路でも、その存在で、別の館に移動する気持ちが萎えたという経験は誰でもあるだろう。同店では、歩道に面したすべてを路面店舗化、さらには大屋根を設置しガレリア空間にするという。4館体制の真骨頂とも言っていいだろう。
この「日本橋髙島屋S.C.」の全貌が明らかになるのは6月以降の予定だが、髙島屋が総力を上げて考えぬいた商業施設がいかなるものか期待したいところである。
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