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資金ショートで経営危機の大塚家具「再生のシナリオ」

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「ゴーイングコンサーン」に疑問符がついた大塚家具。父娘の対立が無借金で知られた優良企業を崖っぷちにまで追い込んでいる。このままでは資金ショートも時間の問題だが、果たして起死回生策はあるのか。長年、大塚家具を取材してきたジャーナリストが導き出した解答とは。文=ジャーナリスト/松崎隆司

3期連続の営業赤字で「イエローカード」を突き付けられた大塚家具

父娘対決で注目されてきた大塚家具が今、大きな岐路に立たされている。8月14日に発表された大塚家具の2018年12月期第2四半期決算では、売り上げは前期比11.9%減の188億円、営業損益は35億円の赤字となったからだ。通期では51億円の営業赤字となる見通しとなり、16年12月期45億円、17年12月期51億円の赤字に続き3期連続の営業赤字になる可能性が高くなった。

四半期財務諸表には「当社は継続企業の前提に関する重要な疑義を生じさせる事象または状況が存在しております」という「ゴーイングコンサーン(継続企業の前提)」に関する注記が付された。

「ゴーイングコンサーン」とは03年3月期から上場企業に開示が義務づけられた制度。経営者は、自社が1年以内に破綻するリスクが極めて高いと判断した場合には、監査法人と協議の上、破綻リスクとそれへの対応策を決算書に明記しなければならないというものだ。

具体的な検討対象とする事象・状況としては、赤字や債務超過等の財務指標、債務返済の困難性等の財務活動、主要取引先の喪失等の営業活動、巨額の損害賠償負担の可能性やブランドイメージの著しい悪化などが挙げられる。

投資家にとっては、監査人が認めた「危ない会社」、いわば「イエローカード」をつきつけられた会社という意味合いがあるといわれている。

「家具業界は上半期で稼ぐといわれているが、大塚家具の場合は既に赤字。さらに『ゴーイングコンサーン』が付記されたということになれば、下半期の大塚家具のブランドイメージはさらに悪化する」(業界関係者)

大塚家具が経営悪化に陥った経緯

そもそもなぜ大塚家具の経営がここまで悪化してしまったのか。これまでの経緯を簡単に振り返る。

大塚家具は1969年、大塚勝久氏が春日部の地で創業した。春日部は当時桐ダンスの聖地。勝久氏の父も箪笥職人で、勝久氏は10歳のころから父親の仕事を手伝っていた。

「父は名人と呼ばれる箪笥の職人だったのですが、いくらいいものをつくってもそれだけでは適正な価格では売れない。職人の仕事をきちんとお客さまに分かってもらうためには、よさをきちんとお客さまに説明する対面販売が必要だと思ったのです。それが大塚家具の原点です」

勝久氏は以前筆者のインタビューに答えてこう語っていた。そして家具を安く販売するため93年に会員制導入に踏み切った。

会員制を導入したのは値下げ販売することにメーカーや同業他社からの反対が強まったからだ。そのため小売りするのではなく、会員資格のある業者に販売する卸のような体制を取るために会員制を導入したというわけだ。

「いいものを安く提供する」「商品のコンセプトをしっかりと説明する」「売却後も長く使えるようにメンテナンスを続けていく」という経営スタイルが大塚家具のブランドイメージを高め、「高級家具の大塚」というブランドの確立につながった。

しかしリーマンショックの直撃で大塚家具の業績は一気に悪化、08年には668億円あった売り上げが09年には579億円と89億円も下落し、営業赤字に転落した。折しも創業40年。このとき勝久氏に代わって社長に就任したのが久美子氏だった。

大塚久美子・大塚家具社長による「脱高級路線」経営

久美子氏は一橋大学経済学部を卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)の女性総合職として採用されたエリート。経営コンサルタントなども務めた財務のスペシャリストとして大塚家具の徹底的なコスト削減を進め、社長就任から3年後の11年には黒字転換することに成功した。

しかしこの時黒字転換できたのは大幅なコストカットを進めてきたから。売上高は14年に555億円と減少。再び営業赤字に転落した。そのため7月には久美子氏は社長を解任された。

「14年4月ごろから消費税導入の駆け込み需要の反動などで受注が大きく悪化したのにもかかわらず、久美子社長は販売管理費を抑えるために広告をやめたのです。これで足元の受注件数が下がり、秋以降の売り上げが落ち込むことは目に見えていた。強い危機感をもった幹部社員や役員から『なんとかしてほしい』という声があがり、社長を辞めてもらうことになりました」(勝久氏)

ここから父娘の壮絶な戦いが始まる。その後15年1月の取締役会では久美子氏が社長に復帰。逆に勝久氏が社長を解任され、3月の株主総会では両者が経営権をめぐって真っ向から対立、久美子社長が勝利した。

この時久美子社長が主張したのは大塚家具の会員制による販売体制の見直しや脱高級路線だ。

住宅新築着工件数の減少や空室率の増加などから結婚や新築など“晴れのイベント”でのまとめ買い需要が頭打ちになると予測。単品買い需要の掘り起こしのための「入りやすくカジュアルな店舗」への転換を進めようとした。これはまさに収益拡大を続けるニトリやイケアを向こうに回して戦うことになる。そして顧客を呼び込むために畳みかけるようにバーゲンセールを繰り返した。

この戦略は確かに一時的には効果があった。15年には売り上げが580億円と前年よりも25億円程度増加、営業利益も黒字転換を図ることができた。しかしバーゲンを繰り返すと企業のブランド価値や商品の価値が毀損する。かつてマクドナルドがハンバーガーの値下げキャンペーンとして「100円バーガー」のキャンペーンを何度も打ち出し、ハンバーガーそのものの価値が毀損して消費者に見放されるという事態があったが、それと同じことだ。

そのため最終的にバーゲンをやっても人が集まらず、16年以降は営業赤字が続いた。

問題はそれだけではない。強引に営業スタイルを変えたため現場が混乱。現場の負担は増していった。一方で収益悪化でボーナスが激減。現場の不満は蓄積し、15年から17年までの間に250人以上の社員が会社を去っていった。

そうした中、17年2月には中期経営計画が実現不可能であるとして、取り下げを発表、ビジネスモデルの再構築と固定費削減などの収益構造の改善を迫られた。

中でも大きな課題となったのがこれまでのコスト削減の中でなかなか手が付けられなかった解約不能なオペレーティングリース削減だ。オペレーティングリースとは将来支払わなければならない家賃などだ。

大塚家具は無借金経営といわれるがこのオペレーティングリースは事実上の負債、ただ四半期決算に表れないことから“隠れ負債”のような存在となっている。

大塚家具の資金繰りに懸念―銀行からの融資は事実上不可能に?

店舗の規模を縮小し空いたスペースを貸し会議室などを提供するTKPに貸し出し賃料の穴埋めをすることで、16年12月末に117億9685万円あったオペレーティングリースを17年12月末段階で67億円まで圧縮した。

しかし自力再建を進めるにはもうそれほど時間がない。資金繰りが悪化しているからだ。大塚家具の現金は6月末の段階で22億円、売却可能な投資有価証券が17億円、手元流動性は39億円。

「しかし6月末に金融機関から8億円を調達し、7月には返却している」(事情通)

大塚家具の場合、毎月4億円程度の現金が必要といわれ、9月以降は単純計算で約6カ月分の資金しか手元に残らないことになる。つまり来年の2月までしか資金がもたない。

これに対して大塚家具では「銀行からのコミットメントライン50億円があるから資金繰りは心配ない」(大塚家具関係者)と説明する。

しかしコミットメントラインには財務制限条項が通常ついている。財務制限条項とは、金融機関が債務者に貸付を行うときに付与する条件のひとつで、債務者の財政状況が定めた基準条件を下回った場合には、債務者は期限の利益を喪失し、金融機関に対して即座に貸付金の返済を行うことと定められている。

大塚家具は四半期財務諸表の注記の中でも「安定的な資金調達を図るために、複数の金融機関との間で総額50億円のコミットメントライン契約を締結しておりますが、契約には一定の財務制限条項が付されている場合もあります」と明記されている。

現在コミットメントラインの内訳は三井住友銀行から30億~40億円、残りを日本政策投資銀行、地方銀行などとみられている。

「銀行によって財務制限条項の条件は違ってくると思いますが、6月に実行された8億円は地方銀行などのコミットメントラインを使ったものだとみられています。一般にメガバンクは条件が厳しい。三井住友銀行のコミットメントラインを使うことは難しいでしょう」(金融関係者)

大塚家具の経営を悪化させた3つの要因とは

さらにいうなら、8億円は中間決算発表前に融資されたものだ。四半期財務諸表に「ゴーイングコンサーン」が注記された今、地銀についても今後の融資は難しくなる可能性が高い。

つまり大塚家具は2月までに経営再建に向けた具体的な対策を見つけ出さなければならないということだ。そのためスポンサー探しなど懸命な努力が続く。

大塚家具の経営を悪化させたのは父娘対立によるブランド毀損、企業のDNAを無視した経営改革、そして従業員の軽視だ。

企業再生で重要なのは、企業の原点に立ち返りそのDNAを踏まえて新しい時代に合った組織に変えていくことだ。勝久氏は「よさをきちんとお客さまに説明する対面販売が大塚家具の原点だ」といっているが、久美子社長はなぜ原点に立ち返らなかったのか。さらにサービス業にとって現場の実情を最もよく分かっているのは現場の従業員だ。なぜ現場の声に耳を傾けなかったのか。

図らずも勝久氏は「『いいものを安く提供する』のはそう簡単なことではない。場所と建物、商品と社員がついてこなければ商売としてはうまくいかない」と語っていた。

これから久美子社長がこれらの問題をすべて解決するのは難しいかもしれないが、新しいスポンサーが大塚家具の良さを再び引き出してくれることを期待したい。

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