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「令和の時代に必要な経済政策とは」―安藤裕(衆議院議員)

 新型コロナウイルス対策では常に後手に回った感のある安倍晋三政権。にもかかわらず一強体制の弊害か、官邸に押しかけて尻を叩く自民党ベテラン議員もなかなか出てこなかった。ところが、そんな中で「政策が甘い!」と声を上げたのが自民党の若手国会議員などでつくる議連「日本の未来を考える勉強会」。そのリーダーが安藤裕衆議院議員だ。新型コロナ対策として100兆円の財政支出など大胆提言をしたが、3月には緊急経済対策として消費税ゼロも政府に提言している。新型コロナで視界不良の中、今後の経済政策はどうあるべきかを聞いた。聞き手=鈴木哲夫、Photo=幸田 森(『経済界』2020年9月号より加筆・転載)

安藤 裕・衆議院議員プロフィール

(あんどう・ひろし)1965年生まれ。神奈川県出身。87年慶應義塾大学経済学部卒業後、相模鉄道入社。97年税理士試験に合格し98年独立開業。2012年第46回衆議院議員選挙に京都6区から出馬し初当選、現在3期目。17年「日本の未来を考える勉強会」を立ち上げる。18年、第4次安倍改造内閣で内閣府政務官兼復興政務官に就任。19年、自由民主党政務調査会総務部会部長代理に就任。20年「日本の未来を考える勉強会」を議員連盟にし、会長に就任。

安藤裕議員の経済・財政政策とは

積極財政をやめてしまったアベノミクスの失敗

―― 政治家としてのライフワークは経済政策か。

安藤 そもそも国会議員になろうと思ったのは、2009年に旧民主党政権ができて自民党が下野したとき。民主党の国家観や経済政策など、このままやっていくと日本は大変なことになるなと。特に財政では徹底した歳出削減をやっていくというので、これは何とかしなければと強く思いました。そんな中で下野していた自民党が公募を始めたので、京都6区で手を挙げたんです。

―― 自ら日本の経済政策に関わっていきたいと。

安藤 そして、自民党が政権を取り戻した2012年の総選挙は安倍総裁が経済政策を徹底して変えると言って選挙をやりました。いわゆるアベノミクスです。緊縮財政から積極財政に転換すると言って、第1の矢は金融緩和、第2の矢は財政出動、第3の矢は成長戦略。とにかくデフレ脱却するまではこれまでの政策を180度転換し、財政出動すると。私自身もそれを掲げた自民党から出ることができて、心の底から本当にやりがいを感じました。

 しかし、政権を取って1年目は確かにできたんですが、2年目以降は止めてしまって緊縮財政に戻した。しかもデフレ脱却していないのに、消費増税もやってしまった。これではデフレ脱却は無理。その後も、ああこのまま緊縮財政を続けていくんだろうなあと感じるようになったし、先輩たちを見ていても積極財政を言う人は少ない。そこで、これはもう自分たちで小さなかたまりでもいいから勉強会をきちんと作って、経済政策をきちんと学んで提言して行くグループを作ろうと決めて、3年前から活動を始めました。

―― 勉強会は派閥横断か。

安藤 それは全然気にしてこなかったですね(笑)。政策を実現するために議員になったので、派閥や人間関係などに縛られないし遠慮や躊躇はないです。当選直後から、内閣官房参与だった京都大学の藤井聡教授を囲んで少人数の勉強会を、同期4~5人でずっと続けていたんです。これをもうちょっとオープンにやっていこうということで、広く呼び掛けて『日本の未来を考える勉強会』を立ち上げました。

社会保障財源は国債で全く問題はない

―― 安倍政権の看板は自称、経済と言ってきた。しかし、そこには問題があると。

安藤 まずは財政です。プライマリーバランスの黒字化目標を設定してしまったということでしょうね。これを本当は撤廃でいいのですが、少なくともデフレ脱却するまでは凍結すべきですね。デフレというのは資本主義の病気ですから、病気をまず治さないと財政再建もなにもないわけですよ。もう20年間も病気になって立ち直れないぐらい重症化しているわけです。

 だからまずデフレ脱却をしないといけない。そのためにはプライマリーバランスという足かせは取りあえず今は外しておかないといけないんです。でも、それから消費増税を2回やってしまった。これは失敗だったと思います。

―― 消費税は社会保障に使うというかつての与野党3党合意の大義がある。例えば消費税を減税すると社会保障財源はどうなるか。

安藤 社会保障は国債でいいんです。全く問題はありません。あるいは財源については下げすぎた法人税を元に戻す。あるいは、資産家の金融所得課税が、いま分離課税20%になっていますけど、これも総合課税化する。そういったことをしていけばいいと思いますね。でも原則は国債で全然構わないと思います。

―― 財政再建派は将来に借金として跳ね返ってくると言うが。

安藤 その理屈で言うなら、国債の残高が膨らんで増えていくと当然金利も上がらないといけない。なのにデータを見ると国債を出せば出すほど金利は下がっていますよね。そんなに将来不安を感じてしまうならそんなに国債出しちゃダメだって市場が判断して、どこかで返ってこなくなるんじゃないか、こんな安い国債は買えないと判断すると思うんですけど逆の方に思っている。国債を出せば出すほど金利が下がっている。

日本国債はデフォルトしない

―― なぜそんなことが起きるのか。

安藤 日本の国債は絶対にデフォルトしないんですよ。それは財務省も言っているんです。「デフォルトはありえない。だからハイパーインフレもない」と。国債を出すという行為は法律上はお金を借りるという行為なんですが、実態は通貨を新たに発行するという行為なんです。

 例えば銀行は多くの預金者から集めたお金を誰か借りたい人に貸しているとみなさん思っていますが、実はそうじゃない。何にもないところから「あなただったら返せると思うから、100万円貸します」と通帳に書き込む。お金を貸した瞬間に、この日本国内に、預金通貨が新しく生まれるんです。これを「信用創造」と言います。

 国も同じことで、国債を出せば出すほど金利が下がるのはどういうことかというと、お金を貸す時にお金が生まれている。結局それを借りた人が使うので、金融市場にお金は新しく生まれて、流れている。お金の量は増える。だからお金の価値は下がる。だから金利は下がる。ここを間違って理解しているから財政政策も間違えるんですよ。

「日本国債のデフォルトはあり得ない」と主張する安藤氏

安倍政権の経済政策の問題点とは

株主資本主義の行き過ぎは間違いだった

―― 財政以外での現政権の問題点はどうか?

安藤 安倍政権の問題点のもう1つは新自由主義、株主資本主義です。例えばこの間も国会で法務大臣が「企業は誰のものですか?」と聞かれたら「株主のものです」と即答していましたが、昔だったらそんな答え方はしなかった。「会社というものは社会の公器である」と言ってたじゃないですか。株主のためばかりじゃなくて、社会の役に立つものなんだと、そういう言い方をしてましたよね。

 ところが、今は株主資本主義ですよ。それをやった結果、何が起きているか。20年間、1997年から企業の売上高はほぼ横ばい。全然伸びてない。でも経常利益は3倍、配当金は6倍です。一方で給料を減らし、設備投資も減らしている。売上高が伸びない中で利益を伸ばすには、コストカットしかないんです。だから下請けいじめにもつながる。

 これが株主資本主義を進めた結果です。これで日本人がみんな幸せになるはずがない。法人税減税して、じゃあそのお金がどこへいったかというと配当金と内部留保になっているわけです。法人税減税を進めていた人たちは「減税したその分は給料や設備投資に回る」と言っていましたが、そんなはずないと私は反対していました。

―― もう黙ってはいられないということだと思うが、小さな勉強会を今年の2月に議連にして活動を本格化させたのもその覚悟か。

安藤 はい。この20年間、日本の経済政策が間違っていた根本原因を正していかないといけないと思っています。議連は常にあるべき経済政策を議論して準備して、予算編成時や骨太方針のとき、またいろいろな政策テーマ、その時々のトピックの際に提言して行きます。

新型コロナ対策として企業への粗利補償を

―― 新型コロナでは消費減税などを積極的に政府に申し入れた。新型コロナの対応策についてはどういうスタンスか。

安藤 私たちのグループがこの新型コロナでいち早く最初に提言したのは、とにかく粗利補償でした。粗利とは、要するに売り上げから仕入原価を引いた残りの部分ですけど、普通に営業していたときの経済活動はそのままが維持できますし、そうすべきだと。だから1社もつぶれなくて済むし、ひとりも解雇しなくて済む。失業者も出すことがない。

 「お金は渡すので活動を自粛していてください。このコロナが終わったら、また経済再開の時期が来ますから、そのときに1社も潰れず生産能力は100%温存しているから、すぐに回復できますよ」と。そういう体制をとるためには、私たちは最初は30兆円必要と試算していましたが、4月の頭あたりから50兆円に増やし、2次補正も100兆円と主張してきました。

―― 政府の緊急対策は遅いし補償も行き渡っていない。

安藤 残念ながら私たちが申し入れた粗利補償は取り入れられず、企業は倒れ、失業者が増えるという状況が今の日本では生まれてきています。引き続き、政府や官邸には提言を続けて行きたいと思います。

―― 新型コロナ対策も今後は経済再開と並行していくことになるが、どんな政策を考えているか。

安藤 次のステージでは、例えば失業対策として公務員採用を求めていきたい。また、新型コロナとどう付き合っていくかという点で、東京一極集中を緩和しなければならない。そのために必要なことは地方のインフラ整備です。道路、鉄道、港湾、水道などをしっかりと整備する。東京に住んでいる必要はなく、どこにいてもリモートで同じ仕事や同じ生活ができる。そういう生活環境を整えることが必要だと思います。

 それから、食料も今回の新型コロナで外国から輸入できなくなるかもしれないということに直面したので、まず食料を国内できちんと作れる体制をもう一度計画的に考えていかなければならない。すると農業への補助金を増やす必要も出てくる。農業でも1千万円プレーヤーになれますというぐらいの補助金額を付けたら、若い人たちだって安心して農業をやってくれます。

―― 一強体制を恐れずにどんどん提言していってほしい。それが自民党の強さでもあるはず。

安藤 平成の時代というのは停滞の時代だったと思います。とにかくこの20年間デフレで、GDPも伸びずに世界ランキングはどんどん落ちていますよね。いろいろやったつもりかもしれませんが、間違っていたということです。令和の時代はこの平成の時代をしっかりと反省して大きな政策転換が必要だと思うし、その大きな旗印を、うちのグループで掲げられたらいいと思っています。

積極財政という政策論ももちろんだが、経済の視点が労働者の幸福感などにつながっている部分もあり、これらは自民党のリベラル保守にとどまらず、野党の経済政策の理念などとも共通するものを感じた。安藤氏に、「新自由主義に対抗する経済政策を掲げて政界再編につなげてはどうか」と問うと、「野党も共感してくれるところがあると思います。政界再編は私がもう少し力をつければ」と言って笑った。だが、膠着した今の政治に緊張感を持たせるために経済政策を軸にした政界再編は十分あり得る。穏やかな物腰とは違って、官邸に堂々と過ちをモノ申すその度胸があれば、政治土壌を根本から改革できるはずだ。(鈴木哲夫)