政党支持率がジワリ上昇しているのが日本維新の会だ。新型コロナウイルスに対して独自の発信や対応によって全国的に注目されたのが、大阪府の吉村洋文知事と松井一郎・大阪市長のいわば「維新の会の首長コンビ」。それに伴い政党の存在感も増している。
維新はこの秋に結党以来の目標である大阪都構想の住民投票も控えている。「地方自治体」の役割や、国からの権限移譲などが改めて問われている。都構想を軸に「日本の統治の仕組みを変える」と提言してきた維新にとって、いよいよ国政の議論の場での出番と言える。馬場伸幸幹事長に聞いた。聞き手=鈴木哲夫、Photo=幸田 森(『経済界』2020年11月号より加筆・転載)
馬場伸幸氏プロフィール
(ばば・のぶゆき)日本維新の会幹事長、選対本部長。大阪維新の会副代表。1965年生まれ、大阪府出身。93年堺市議会議員補欠選挙にて初当選。11年堺市議会第76代議長に就任、堺市議会議員を6期20年間務める。12年第46回衆議院議員選挙にて初当選。17年第48回衆議院議員選挙にて3期目の当選。国家基本政策委員会(党首討論担当)。大阪万国博覧会を実現する国会議員連盟幹事長、百舌鳥・古市古墳群の世界文化遺産登録を推進する議員連盟副会長。憲法審査会委員。
維新の新型コロナ対策
人の命も経済も守る新型コロナ対策を
―― 新型コロナウイルスに対して日本維新の会はどう対応してきたか。
馬場 最初に発生した時から、とにかく人の命を守る、人の暮らしを守る、そのためには企業と働く場を守る。この3本柱が日本維新の会の新型コロナに対する基本的な考え方です。
第1波の時は、学校の一斉休校や人の往来の規制なども主張してきました。3月の段階で、兵庫県との往来は3連休前にはやめてくださいと言って、兵庫県からはえらい怒られましたけどね。
そして今、第2波が来ていますが、中小零細企業などが大打撃を受けていますので、ここから先は人の命を守りながら経済も守る。どちらも大事だという方針です。冷房と暖房の両方をかけているといった批判もありますが、やっぱり第2波にあたっては、そういう方針でなんとか持ち堪えて行かなければならないと思っています。
―― 党としての取り組みはかなり早かった。
馬場 1月23日には、党内に私が本部長の新型コロナウイルス関連肺炎対策本部を早々に設置しました。1月24日に中国が春節を迎え、多くのインバウンドが日本に来るのを前に、どんな水際対策などをすればいいのか、厚労省の担当者などと議論しました。その後もわが党はその時々の感染者の状況などを見ながら、5回にわたって対策についての提言書を政府に提出してきました。
例えば3月に提出した第3弾では、自粛によって国民生活が困窮していることを踏まえて、まず国会議員自らが歳費を2割カットすること、そして国民の生活を守る緊急経済対策として、社会保険料や学校給食費の免除、1人当たり10万円給付、消費税減税8%などを提案しました。このほか、休業補償などの立法化も訴えました。
感染者ゼロではなくコントロールを
―― 政府の新型コロナ対策について、次のステージはどうあるべきか。
馬場 今は誰でもどこでもいつでも感染するリスクはあるので、感染者をゼロにするということを目標にしても果たしてどうなのか。ワクチンや治療薬が出るまではゼロは厳しい。
だからいかに感染者をコントロールしていくか。あとは重症化を防ぐ、医療崩壊をさせないことです。これは最終的には国民の安心安全につながりますから、新型コロナの最大の対策は医療分野でしょうね。そこへの財政や人的な支援を、国は最優先でやるべきだと思います。首都圏や関西圏に国立の新型コロナのICUセンターの設置、抗体・抗原検査の定点観測、大学との連携などを国に提言しています。
地方を重視する維新の経済対策
国は地方自治体に権限と財源を与えよ
―― 経済対策については。
馬場 大手企業ももちろん業績悪化は避けられないが、現実的には中小零細企業、さらに一番痛んでいるのは飲食業、観光業、そういうお客さん相手のサービス業です。そういうところに機動的に、スピーディーに財政支援をかけていく。恐らく1年くらい続けないと、バタバタとみんな倒れて行ってしまうのではないでしょうか。
―― 向こう1年くらいは財政出動が必要ということだが、都道府県の独自の取り組みに対してももっと財政出動すべきでは。
馬場 そういうことです。地域差があって、あまり影響のない県もあるわけですし、それはもう酷いというところもあります。本来は地方に財源ごと渡すことが必要なんです。
われわれの提言でも、地方創生交付金の傾斜配分を主張しています。地域ごとに使い道を決められる交付金が有効だと、最初に国会で取り上げたのは維新です。ある程度感染者が出ている都道府県のリーダー、知事はみんな苦労しています。都市部は毎日すごい勢いで感染者が増え、いろいろな対策のお金がかかる。地域差がある中で、権限と財源を地方自治体の長に与える、武器を渡してあげるというのをやらないと、すべてが動きません。
―― 地方自治体の首長からは、地方の権限や補償など特措法改正を訴える声も大きくなってきているが。
馬場 まずは、政府与党に臨時国会を開いていただかないといけません。国民の不安を少しでも払拭して有効な手立てを打つための法整備をする。それは行政府である政府の仕事です。政府与党側も臨時国会をやらないとなると、かなり批判が高まってくると思いますけどね。
でも、かたや維新以外の野党も、国会を開けばスキャンダルを追及したり、国会を止めたり、憲法審査会を開かせないといったことに時間を割いてしまう、新型コロナのことを建設的に議論していくということを、お互いが理解してやらなければならないと思います。
大阪都構想のヤマ場はこれから
―― 地方自治の在り方と言えば、維新の1丁目1番地が大阪都構想の実現だが。
馬場 これから都構想の大きなヤマ場が来る。11月には住民投票も予定されています。
―― 今回の新型コロナ対応では大阪府と大阪市の連携で成果が出ている。都構想への弾みになるか。
馬場 大阪が非常にうまく行っているのはそこです。新型コロナの専門病院として、府が主導して市立の十三(じゅうそう)病院を指定した。普通の都道府県と市という関係の縦割り行政だったら、そんなに簡単に行きません。喧嘩になります。うまくいったのは、市と府が一体化しているからです。
あまりほかの地域のことを言うと怒られるかもしれませんが、今回のコロナ対応でも、例えば愛知県と名古屋市、千葉県と千葉市など。両トップの政治判断で垣根を飛び越えて一緒にやって行くとうまく回っている。だからそれを制度化しようというのが大阪都構想の肝です。指揮官を1人にするということですね。
これは企業にとってもメリットがあります。大きい道路一つとってみてもそうです。市道と県道が一体的に計画されている道路などは、どっちかが横を向いたらできないわけですね。こうしたインフラの整備がなかなか進まないことで、企業にも悪影響が出てくるわけです。
―― 大阪都構想というのは単に大阪エリアの問題ではなく、日本の統治の仕組みの問題につながる。
馬場 まさしくその通りで、知事と県庁所在地の首長や政令指定都市の首長との関係は、全国で見てもなかなかうまくいかないところが多い。そんなことでは地域住民にとって何一つ良いことはない。大阪都構想は大阪だけの話じゃなく、そうした統治機構を変える、今の日本で考えられている唯一具体的な構想なんです。
―― 全国の自治体にも大いに参考になる。
馬場 多くの政治、行政に関わっている人は、大阪都構想なんてできるはずがないと思っていますよ。でも大阪には、「やってみなはれ」の精神がありますから。大阪都構想が住民の賛同を得て実現すれば、全国の政治、行政関係者に勇気を与えると思います。
自分らで考えて、自分らの地域に合うことをやろうと思えばできるんやと。基本はその地域で生まれた子どもたちが、そこで暮らして学んで、働いて人生を終えていくという、そういうことをベースにみんなが考えれば、何をすべきかはおのずと出てくると思います。
国政における日本維新の会の役割
維新は地域政党の連合軍
―― これからの国政における維新の政党としての戦略は。
馬場 国政政党が立ち上がって8年目。その間に2回の離合集散を経験して紆余曲折もありましたけど、今の維新になって地に足をつけた国会活動、政治活動がようやくできるようになったかなと。課題は全国的な広がりにどうつなげるかということです。
そのためには、維新スピリッツをご理解いただいている地方議員を全国で1人でも多く増やし、そのネットワークを広げて、国政でも当選者を生み出していくということです。選挙戦略的にはそうした方針でやってきたので、着実に地方議員も増えてきています。
そうした地方組織に支えられた形で、来るべき総選挙では1人でも多く候補者の擁立をしたいと考えています。今の目標としては、衆議院で法案の提出ができる31人を最低でも上回るということでやって行きたいと思っています。
―― 維新という政党を全国組織で見ると、基本政策は一緒だが細部では地域ごとに個性が違う気がする。
馬場 他の国政政党のように東京に本部があって、国会議員がいて、その下に都道府県議がいて、地方議員がいるというトップダウンのような政党ではなく、地域政党の連合軍が日本維新の会です。
発足当時からそうした理念を掲げてきました。だから多種多様でいいんですよ。重要な、根幹の政策については共通でないといけないが、地域の問題は自由に考えて、法律が必要であれば立法化していくとか。そういう点ではバラバラでも良いと思っているので。
緊急時に現れた維新の政党文化
―― それが維新らしさ。だから東京維新は大阪維新とは全く別物でもいいと。
馬場 (笑)。そうですね。
―― でも、その辺を束ねる幹事長の苦労もあるのでは。
馬場 役割分担ですからね。僕の場合は、地方議員時代からずっとどちらかと言えばそういう役割を常に担ってきましたから。むしろそれを面白がる性格なんでしょうね。野球でたとえたら8番キャッチャーかな。橋下徹(元代表)さんや松井(現代表)さんはエースで4番のタイプですかね(笑)。
―― 吉村知事にしても松井市長にしても、今回の新型コロナに関する言動にはそうした維新の政党文化というものが背景にあるのか。
馬場 極端な表現かもしれませんが、平時の時には政治家って要らないんです。平時の時はうまくことが運んでいるんだから、それをキープすればいい。緊急時、非常時の時に存在感を出すのが政治家の仕事やと、前から思っているわけです。今回、吉村知事が松井市長と連携して大阪府の各市町村長を取りまとめて専門家の意見を聞きながらどんどん政治判断をしていった。これが政治のあるべき姿なんですよ。
―― いずれにしても新型コロナは多くの課題を突き付けた。
馬場 新型コロナに関するいろいろな課題の中で考えなければならないことは、政治、行政、経済、すべての分野において、これまでと同じようにやって行っても駄目だということ。財界の方々も、生産拠点や労働力などについて一度考えをリセットしていただき、日本の経済が有事の際にも底割れしないようにどうすればいいのか、政治と一緒に考えていかなければならないと思います。
与野党の中で是々非々の第三極という立ち位置は、難しい局面にぶつかることも多い。野党側での連携もあれば、提案型として政権との連携もある。事実、維新には松井代表と官邸の菅義偉官房長官の太いパイプもある。しかし、それが時としてどっちつかずの姿勢に映り存在感が埋没することがある。過去、大きな期待を受けながら消えて行ったみんなの党などが好例だ。党の独自性を常に発信していくことが、維新の課題だろう。(鈴木哲夫) |