世界的に終息の気配が見えないコロナウイルス感染症の拡大は、北海道経済に深刻な打撃を与えている。観光、農産物が主産業で、近年は積極的な拡大投資を継続してきた中で、その衝撃は大きかった。
しかし、行政の手厚い支援に加え、主力の地方銀行が事業継続資金をスピーディに供給するなど、オール北海道のバックアップ態勢は整った。あとは自助の精神で、守りから攻めに転じるステージに移っている。課題は稼ぐ力を付けること、それと新規事業への挑戦だ。産官学連携で有望なベンチャーも育っており、その中から次代の北海道経済をけん引する企業が誕生する日も近いだろう。
北海道経済の現状
脆弱な北海道の経済基盤
日本全体のインバウンド消費額の約10%を占め、地域経済のけん引役であった観光産業が新型コロナウイルスによって深刻なダメージを負った北海道。インバウンドの増加を視野に、三菱地所や東急などの出資による道内7空港の民営化もスタートしたばかりだが、こちらの収益計画も見直しを迫られそうだ。現地のシンクタンクである北海道二十一世紀総合研究所の横浜啓調査部長はこう語る。
「アベノミクスの開始以降は財政出動をはじめとする政策効果で外国人観光客が増加し、道内経済を押し上げていましたが、それでも目に見えて成長していたわけではありません。そこにコロナ禍により、宿泊施設、飲食、交通関係、海外向けの高級食材の輸出などが落ち込み、経済全体が打撃を受ける格好になりました」
求められる観光、農業以外の強み
GoToキャンペーンの効果もあり、2020年10月以降は来道客数が回復してきたものの、変動要因の多い観光依存のリスクを改めて知らしめる形となった。
「北海道におけるインバウンドの観光消費額は年間4千億円ほどで、商品・サービスの輸出額を上回る規模まで来ていました。輸出の主力は農産物ですが、それ以外のものが必要です」
横浜氏が指摘するように、今後の北海道経済を左右するポイントの一つは、観光、農業以外の分野で「稼ぐ力」をどう付けるかだ。
新型コロナの影響を別にしても、北海道経済の置かれた状況は決して良好とは言えない。
労働人口の減少は全国比を10年上回るペースで進んでいると言われ、雇用の受け皿不足から、大学卒業と同時に道外に出ていく若者も多い。目ぼしい成長産業が少ないことから、民間投資をはじめとする資本の流入も現状では乏しい。
北洋銀行の調査レポートによれば、20年度の北海道の実質経済成長率は、全国を下回るマイナス5・7%となる見通し(左頁図参照)。20年7月までの各産業分野の動向を見ると、貿易額のうち輸出が12カ月連続で前年比マイナス、百貨店等販売額、乗用車新車登録台数は10カ月連続、住宅着工戸数、建築物着工床面積が5カ月連続、有効求人倍率も7カ月連続でそれぞれマイナスとなるなど、非常に厳しい状況にある。
北海道における成長基盤産業育成への取り組み
期待される再生可能エネルギーへの投資
北海道二十一世紀総合研究所の調査によると、北海道の域際収支は毎年2兆円を超えるマイナスが続いており、大きな要因として鉱物性燃料を輸入に頼っていることが挙げられている。
そこで、期待されるのが再生可能エネルギーへの投資だ。中でも、北海道の気候特性を生かした洋上風力発電などのプロジェクトにかかる期待は大きい。自前でのエネルギー調達を増やすことで、全国一高い水準にある電力料金の引き下げにつながるほか、関連産業の発達と雇用の創出、域内における資金循環の活発化など、大きな相乗効果が見込める。
菅義偉政権が再生可能エネルギーの促進を目玉政策の一つとして打ち出したこともあり、さらなる政策的バックアップが望まれるところだ。
また、同調査では、「ホリエモンロケット」の愛称で呼ばれるインターステラテクノロジズ(本社・北海道広尾郡、稲川貴大代表取締役)の観測ロケット打ち上げで有名になった航空・宇宙産業の将来性についても指摘している。ロケット打ち上げの舞台となった大樹町だけでなく、室蘭市でも航空機等の成長ものづくり分野への取り組みを加速させるなど、徐々にではあるが動きが出てきている。
医療・ヘルスケア・バイオも有望
ただし、上記はいずれも中長期のテーマであり、成果が出るには時間がかかる。もう少し短期的な視点で見ると、バイオ産業クラスターの形成や機能性食品の開発、観光産業と連携した医療ツーリズムの拡大といった、医療・ヘルスケア・バイオといった分野に力を注ぎ、成長基盤産業に育てる必要があるとも同調査では分析している。
新たな産業創出という点では、ベンチャー企業の育成にも力を入れたいところだ。現状では国内の国公立私大の中でも北海道大学発のスタートアップは多いとは言えず、第13位(企業数48社・19年度)に留まっている。
「熱意ある先生方も多いのですが、資金面が付いてこないことも多いようです。ただ、札幌市は内閣府が主導するスタートアップ・エコシステム推進拠点都市に選ばれたので、これから力を入れていくことになると思います」(横浜氏)
また、既存の地元企業の中にも、ベンチャー的な発想や独自の取り組みで、地域の発展に貢献しているところはある。本特集では、そんな企業各社の動きも紹介していく。