ニューヨーク在住ジャーナリスト 肥田美佐子
トランプとバイデン、それぞれの支持層
米国で政治・社会的分断が深まる中、2020年の大統領選挙でトランプ氏が制した地域とバイデン氏が勝った地域の経済格差が深刻化している。
米国の政治的・経済的分断を分析した20年11月10日付ブルッキングス研究所の報告書によると、バイデン氏が制した477郡が米国内総生産(GDP)の7割を占める一方、トランプ氏が押さえた2497郡は29%にとどまる。(注:この時点では、経済活動が不活発な地域を中心とする110郡が未開票)。
前回は、トランプ氏を選んだ2584郡が米GDPの36%、クリントン氏を選んだ472郡が64%を占めていた。
民主党の地盤である「青い米国」と共和党の「赤い米国」の経済・地政学的分断が大統領選で鮮明化し、格差が広がっていると、同報告書は指摘する。トランプ氏への支持が厚いのは、「伝統的な産業」に依拠する小さな町だ。白人で高学歴でない人たちが多く住む。
一方、バイデン氏を選んだのは、大都市を擁する首都圏の郡で、人種的多様性に富み、専門職やデジタルサービス関連など、ホワイトカラー職に就く大卒以上の人々が多い。
11月15日付ワシントン・ポスト紙によると、00年の大統領選ではブッシュ氏が2417郡で米GDPの45%を占め、ゴア氏が666郡で55%だった。この20年間で、党派的分断が深まっている。都会と地方の分断といわれるが、「デジタル経済圏」と、製造や建設、エネルギーなど「ブルーカラーセクター」の対立だと、同紙は指摘する。
11月11日付ニューヨーク・タイムズ紙も、「赤い郡」と「青い郡」の間で、教育レベルや世帯収入、長期的な雇用増の見通しなど、格差が拡大していると警鐘を鳴らす。ルーティンワークが多い仕事の割合が高い郡は16年、圧倒的にトランプ氏を支持し、20年には、その傾向に拍車がかかった。
自動化リスクが最も大きい都市は?
19年1月にブルッキングス研究所が発表した、自動化に関する報告書からも、そうした状況が見て取れる。
自動化リスクが高い仕事の割合が全米で最も大きい都市は南部ジョージア州ドールトン市だ。主要産業は、カーペットや鋼材、タイルなどの製造である。
今回の大統領選で、共和党の牙城である同州を制したのはバイデン氏だが、ドールトン市が属するホイットフィールド郡では、トランプ氏が41ポイント差で圧勝している。2~6位には、中西部のインディアナやネブラスカ、南部ノースカロライナなど、トランプ氏を選んだ州の都市が並ぶ。
7位のハリソンバーグ市は南部バージニア州の都市で、同州は16年、20年とも民主党が制覇。だが、同市が属するロッキンガム郡では今回、トランプ氏が40ポイントの差で勝った。8位のゲティスバーグ市は、バイデン氏が制した激戦州の東部ペンシルベニアにあるが、同市を擁するアダムス郡は、トランプ氏が34ポイント差で勝っている。
分断緩和のカギは、新政権が、デジタル経済の加速やコロナ禍で打撃を受けた伝統的産業やブルーカラー層の苦境に目を向け、包摂的な経済・社会を実現することだろう。(『経済界』2021年2月号より転載)
筆者紹介―肥田美佐子 ニューヨーク在住ジャーナリスト
(ひだ・みさこ)東京都出身。『ニューズウィーク日本版』編集などを経て渡米。米企業に勤務後、独立。米経済・大統領選を取材。スティグリッツ教授をはじめ、米識者への取材多数。IRE(調査報道記者・編集者)などの米ジャーナリズム団体に所属。『週刊東洋経済』『経済界』に連載中。『ニューズウィーク日本版』オンラインコラムニスト(「NY発米国インサイト」)。『フォーブスジャパン』などにも寄稿。(mailto: info@misakohida.com)