経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

芸能事務所トップに聞く「反社チェックの現状と業界の課題」

【対談企画】反社会的勢力と企業経営(第1回)―関根康(松竹芸能社長)

企業経営におけるコンプライアンス重視の流れが強まる中、反社会的勢力とのかかわりに対する世間の目も厳しくなっている。対応を誤れば、事業の存続を脅かす大きなリスクになりかねない。最善策はそもそも関係を持たないことだが、取引相手が一目で暴力団と分かるようなケースは減っており、ビジネスの取引を装って企業に食い込もうとする反社勢力は引き続き暗躍している。本対談企画では、独自のデータベースを駆使して反社チェックを専門に行うリスクプロの小板橋仁社長をホストに、企業経営における反社対策の現状とその重要性を議論する。(モデレーター:吉田浩・経済界ウェブ編集長)

対談ゲストプロフィール

関根康(せきね・やすし) 1956年生まれ。東京都出身。慶応大学法学部を経て79年松竹に入社。人事部長、取締役総務・財務担当、西日本統括(演劇本部・映像本部・事業本部・管理本部)担当などを経て、2017年松竹芸能代表取締役社長、松竹エンタテインメント代表取締役社長に就任する。

反社勢力への意識が薄かった時代

―― まずは関根社長にお聞きします。松竹に入社された当時、芸能界の反社会的勢力に対する意識はどうでしたか?

関根 当時は反社という言葉も使っていなかったですし、暴力団やヤクザというのは「仁義なき戦い」や「唐獅子牡丹」といったフィクションの中におけるエンタテインメントの材料でしかなかった感覚です。松竹は歌舞伎を始め、映画でも「寅さん」や「釣りバカ日誌」といった人道的な題材を扱った作品が多く、企業文化としても反社勢力とは縁遠い感じでした。ただ、他の映画会社で暴力団幹部とのかかわりが問題になったことがあり、映画作りに際しては、いろんな関係性が生じてしまうものなのだなという認識は持っていました。

 反社会的勢力の存在を意識するようになったのは、社員時代に株主総会の様子をたまたま見てからですね。今のように個人株主が多くない時代で、株主総会の時期になるといわゆる総会屋が出席しているのを目撃したりしましたから。

小板橋 私の場合は昭和55年にときわ相互銀行(現東日本銀行)に入行したのですが、当時は金融機関でもはっきりとヤクザや暴力団と分かる相手以外なら取引もOKといった状況で、相手の素性についてあまり深く知ろうともしていませんでした。いかにして融資を増やすかが最重要課題だったので、どうも胡散臭いと思っていても顧客と縁を切るわけにはいかなかった。そういう顧客に限って力があるので他のお客さんを紹介してくれたり、取引をさらに拡大させるキーマンであったりしたことも多々あります。今では全く状況が変わりましたが。

関根 私は30代から40代にかけてずっとテレビドラマの仕事をしていたので、芸能事務所の方々とも付き合いがありました。芸能の世界はその成り立ちから興行関係者と深いつながりが続いてきましたが、反社勢力との関係が今のように社会的な問題として扱われることはなかったですね。

小板橋 世の中の意識を大きく変えたのが、1992年に施行された暴対法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)だと思います。暴力団を含めた関係者からの不当な要求には毅然と対応しなさいという通達が本部からあったのですが、それまでの取引先まで見直さなくてはいけない、というようなことはなかった。

関根 芸能界のほうでも、もしそういう人が居たとしても表からは分からない状態だったし、明らかに反社と分かる人物が業界内でトラブルを起こすということはありませんでしたね。ただその後、人事部長になったときに警視庁の方がヒヤリングに来られたことはありました。とある芸能関係者の方を検挙したいので情報が欲しいと。結局、立件はされませんでしたが。

 暴対法が施行されて、人事部長としては業界新聞などを出しているいわゆるブラックジャーナリズムとの関係を絶つ仕事もやっていました。そういう人たちからの当社の経営陣に対するゴルフの誘いを止めたりもしていました。

小板橋 一度取引を始めてしまうと関係を絶つのは難しいですからね。やはり川上のところでチェックして、最初から関係を遮断することが非常に大事になります。

人事部長として反社勢力との付き合いに目を光らせていたという関根社長(左)と小板橋仁リスクプロ社長

第三者機関を使った反社チェックの意義

小板橋 2007年に「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」が策定され、11年には東京都でも暴力団排除条例が施行されるなどして、金融庁からは「反社勢力は取引先から抹消せよ」という強い指導が銀行にも来るようになりました。松竹芸能さんにおいても反社対策に変化はあったのでしょうか。

関根 会社としてはコンプライアンス研修などの社員教育を通じて、意識を強化するようになりましたね。ウチは人が商品ですから、まずはマネージャーを教育して、マネージャーがタレントに教育するという形で行っています。教育の次は「報連相」の徹底です。タレントのスケジュールはマネージャーが管理しますから。たとえば変なところから仕事の依頼が来るようなことがあれば経営サイドに振るように、情報収集を重視しています。

小板橋 そうすると、反社チェックはタイムリーにやられているということでしょうか。

関根 そうですね。全部やっているとキリがないのですが、できるだけ行うようにしています。反社チェックを集中して行ったのは、40代後半のときに人事部長になったときでしょうか。水面下でトラブルが増えてきて、社内の調査では限界があったため外部の調査機関を使うようになりました。

 表に出ている反社に関するデータをステレオタイプに分析するだけでも安心はできるのですが、たとえば、新たな取引先について調べてみると住所が地方のへき地だったり、背後によく分からない業者がついていたり、ということがあって、もう少し深く調べないと怖いというケースがあります。

一番苦労したのは優秀な調査員がなかなかいないということ。調査会社も個人のスキルに頼っているところがあるので、その人が辞めてしまうとまた別の会社を探さなければいけなくなる点が問題でした。

小板橋 社内で担当者を設けて反社チェックをやる場合、どうしても上層部からの圧力などで恣意的な判断が入ってしまいがちです。金融機関でもトップの一存で反社勢力をブラックリストから外してしまったという事例がありますが、そういうケースを防ぐために利害関係のない第三者機関を使うというのは大事だと思います。深堀り調査は当社が得意としているところで、他社が調べないところまで調べることができます。

関根 社内の調査で結果が出たとしても、外部からのセカンドオピニオンは重要ですね。

小板橋 銀行でも行内で反社チェックを行いますが、ある融資先について〇か×かというだけで、その理由については明らかにされません。ちなみにリスクプロの調査では、〇と×のほかに△という区分も出しています。いわゆるグレーの部分ですが、非合法ではなくても例えば「こんな悪い噂が立っている」とか「過去にこんなネガティブな事例があった」といった内容を含めた調査報告を依頼主に提出して、取引するリスクを認識してもらうようにしています。取引をするか否かは、依頼者次第ということになります。

「反社チェックに関する外部からのセカンドオピニオンは重要」と語る関根社長

風評被害、闇営業問題への対応

―― 風評被害に関しては、特に芸能人の場合はSNSなどでの噂もあるので、判断に迷う材料が増えたりしませんか。

関根 SNSの扱いは難しいですね。「この人はちょっとヤバイよ」みたいな噂がある芸能人とウチのタレントとは一緒に番組をしないとか付き合わない等、抑制している部分はあります。バズって風評被害の直前くらいまでいかないとエンタメビジネスとしては物足りないかもしれませんが、松竹グループ全体で自動的に抑制が働いていると思います。

小板橋 でもそれは素晴らしいことです。ある時点での判断の誤りが、後々大きなケースに発展してしまうこともあるので。最近では闇営業問題もありますが、そのあたりの規律はどうなっているのでしょうか。

関根 一番危ないのはそこです。闇営業自体は会社に黙ってアルバイトした程度のことならいわゆる兼業禁止違反の問題で済みますが、相手が反社だった場合には大問題になります。芸能人にはどうしても周りに変な人が寄ってきてしまいますからね。

 たとえば、ある芸能人が地方に行ったときに、地元で小金を持っている人たちに誘われて遊び始めてしまったケースがあって、一度食事した程度ならまだしも定期的に関係があったので会社として調べたこともあります。人気商売はそういう意味で可哀そうな部分もあります。道を歩いているだけで、通行人が勝手に写真を撮って去っていくこともありますし。

小板橋 そういうことへの対策は難しいでしょうね。

関根 合法と非合法の線引きがあれば良いのですが、やりすぎると窮屈になってしまうので難しいところです。

捉えにくくなった反社の存在

―― 最近では反グレと呼ばれる勢力なども登場してきましたが、そもそも反社会的勢力の定義とは?

小板橋 暴対法で定義されたもの以外に、水面下でグレーな活動を行う勢力が出てきましたが、そうしたものも含めてわれわれとしては反社と位置付けています。企業として、反社チェックはやりすぎて悪いことはありません。官房長官時代の菅首相が、「反社勢力の定義については都度変わっていくので分からない」という国会答弁をしたことがありますが、われわれとしては広義に反社を位置づけ、調査結果を出しています。

 たとえば、調査対象の会社の住所を訪ねると、郵便受けにいろんな会社の名前が書かれたテプラが何枚も重ねて張ってあるようなことがあります。大きな取引が予定されているのに、アパートの一室みたいなところが事務所だったとか。そうした気になる点も報告させてもらいます。

 ちなみに、社員の採用に関しても反社チェックは行っていますか?

関根 当社の場合は規模が小さいので、定期採用と中途採用も含めて10人くらいなので一律全員に反社チェックをするわけではありません。最近は個人情報保護が厳しいので、むしろ昔のほうがやっていました。企業側としてはその人の思想・信条を知りたいというのがありましたから。今は採用時にたとえば家族構成を聞いてはいけないとか、今では写真も載せてはいけないという流れもあります。面接のときにいろいろ質問はしますが、そこはルールを守ったうえで行っています。

小板橋 実は従業員の採用時に、反社チェックを行う企業は増えてきているんです。ですから、分かる範囲で依頼主には判断材料を提供することはあります。軽い調査で構わないという会社も多いですが、良いことも悪いことも知らないよりは知っていた方がいいという意味で、調査を掛ける意義はあるとは思います。

定期的な反社チェックの必要性

―― 松竹芸能では定期的な反社チェックは行っているのですか?

関根 定期的にはやっていないですが、新しい取引先で危ない匂いがあればすぐにします。制作会社や個人なども含めて取引先は長期継続しているところが多く、いきなり新しい取引はなかなかできないので。

小板橋 ただ、会社は生き物なので、情勢は日々変わっていくと考えたほうが良いと思います。今はM&Aが多いので、同じ会社でもある日突然、役員の顔ぶれががらりと変わって、中身が違うものになるケースがあります。反社かどうかは昨日OKだったから今日もOKとは限りません。ですから、同じ会社に対しても定期的なチェックをお勧めしているところです。

関根 ウチは松竹の100%子会社で、親会社の動きを基準にしながら判断できるので、そこは助かっている部分かもしれません。

小板橋 上場企業の場合は、取引の規律に関しても内部統制に組み込まれていると思うので必要ないかもしれませんが、定期的な反社チェックを行う会社は増えています。反社取引については東京証券取引所の態度も厳しくなっているので、上場企業と付き合うためには自分のところはきちんとしているというのを示さないといけない時代になってきました。

 これから上場を目指す企業にとっては大事なことなので、われわれとしてはそうした企業にアプローチしています。定期的なチェックを行って、そこまで徹底している会社だということをアピールしていただければ良いのかなと思います。

関根 当社としては以前、歌舞伎役者と反グレ集団との間で事件があって、それを機に全社を挙げて反社に対する意識が強くなったということがあります。その後は有名な弁護士さんにコンプライアンス研修を依頼するなどしていますが、意識を高く持ち続けないといけないと感じています。気が付いたら反社とのつきあいに巻き込まれていたということにならないよう、感度を高く保つためにも、外部の機関と情報交換をしていかないといけないと感じています。

リスクプロとは 30年以上に渡ってマーケティングリサーチに係わる数多の実績を培ってきた市場調査会社と、10年以上に渡って反社会的勢力調査に係わる数万件以上の実績を培ってきた信用調査会社の協力を得て設立。検索結果ではなく調査結果を提供することで、企業の反社会的勢力との取引撲滅を担うための第三者専門機関として活動している。URL: https://www.riskpro.co.jp/

対談ホストプロフィール

小板橋仁(こいたばし・ひとし) 1957年生まれ。福島県出身。学習院大学法学部を経て80年ときわ相互銀行(現東日本銀行)に入行。本店営業部融資課長、審査副部長、支店長(東北沢、浜松町、新宿)、執行役員本店営業部長、東日本ビジネスサービス代表取締役社長を経て、19年リスクプロ代表取締役に就任。本店営業部融資課長時代に、数多くの不振先企業、問題先企業の回収実績を残し、審査部副部長時代には、反社会的勢力の排除に向けた取り組みの陣頭指揮を執り、その後、その実務経験により培った知見とネットワークを生かしている。