間もなくソニーがソニーグループへと社名を変える。そしてソニーは子会社である事業会社の名前となる。ソフトバンクグループとソフトバンクの関係と同じだが、この社名変更には、グループの在り方、そして祖業であるエレクトロニクス事業の位置付けを明確に示している。文=関 慎夫(『経済界』2021年5月号より加筆・転載)
ソニーの社名変更とビジネスの現在
グループの新しい姿を提示
ソニーは4月1日、ソニーグループに社名変更する。ソニーの社名は、昨年、4月に設立されたエレクトロニクス部門を統括する中間持ち株会社、ソニーエレクトロニクスが引き継ぐことになる。
昨年秋には、金融持ち株会社、ソニーフィナンシャルホールディングス(SFH)をTOBし、ソニー(4月からのソニーグループ)の100%子会社とした。これによりSFHは上場廃止となり、グループではソニーが唯一の上場会社となった。そして4月のソニーグループへの社名変更で、ここ数年進めてきたグループ体制の再構築が完成する。
昨年5月、社名変更を発表した吉田憲一郎社長は、その狙いについて「本社をグループ管理に特化するため」と語っている。昨年、ソニーエレクトロニクスが設立されるまでは、ソニーはヘッドクォーターであると同時にエレキ部門を抱えていた。そのエレキ部門を切り離し、さらに社名変更することで、グループの新しい姿を内外に示そうということだ。
4月1日以降は、ソニーグループの下に、ソニー(エレキ)、ソニーセミコンダクタソリューションズグループ(半導体)、ソニー・ミュージックエンタテインメント(音楽)、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(映画)、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(ゲーム)、SFH(金融)など6事業部門の子会社がぶら下がる。つまり、エレキ部門は祖業ではあるが位置付けとしてはエンタメなどと同格だ。
グループの約半分を稼ぐリカーリングビジネス
こうした企業グループの姿は、世界中を見渡しても例がない。強いて言えば、戦前の財閥が一番近いと言えるだろう。この世界で唯一のグループだからこそ可能になったのが、現在、グループの約半分を稼ぐリカーリングビジネスだ。
リカーリングビジネスは、サブスクリプションのように継続的に収入を得るもので、吉田氏の前任の平井一夫社長の時代から力を注いできたビジネスモデルだ。これをエレキなどハード事業だけで進めるのはむずかしいが、エンタメ事業との親和性は非常に高い。
20年前まで、音楽業界の主流はCD販売に代表する売り切りビジネスだった。しかしこれは、インターネットによるダウンロード販売で価格破壊が起き、業界は瀕死の状態に追い込まれる。ソニー・ミュージックも例外ではなかったが、音楽の定額配信が増えることによって、音楽市場は再び拡大に向かう。定額配信の場合、顧客1人当たりの利用料は少ないが、それ以上に利用者が増えたことで、全体のパイは大きく膨らんだ。ソニーの音楽事業も苦戦した時期を乗り越え、今ではコンスタントに利益を上げている。
会員数が5千万人に迫るプレイステーション
それ以上に顕著なのが、ゲームビジネスだ。昨年11月に発売を開始した「プレイステーション5(PS5)」は、今でも抽選販売が続くなど、人気を集めている。しかし実際には販売価格(3万9980円~)よりも製造コストが高い逆ザヤが続いており、収益には貢献していない。
それでも、ゲーム分野全体では今期10~12月の第3四半期決算の営業利益は802億円で昨年より267億円増えている。通常、ゲーム機の端境期には、旧型機は売れず、新型機は開発費用などがかかるため、利益が減ることが多い。ところが今回は大きく利益を伸ばした。
これは、コロナ禍によって巣ごもり需要が増したこともあるが、それも、4700万人の有料会員を抱えるネットワークサービス「プレイステーションプラス(PS+)」の存在があるからだ。PS+はリカーリングビジネスの際たるもので、1人当たり月430円が定期的に入ってくる。これが収益を押し上げた。今ではゲーム分野の営業利益は、グループ全体の2割以上を占める。
6事業分野が揃って高利益率
しかし、第3四半期、ゲーム部門以上に利益を上げたのが、エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション分野、すなわち祖業のエレキ部門だ。
業績好調だった理由を十時裕樹副社長兼CFOは「ホームAV商品に対する巣ごもり需要の継続に加え、デジタルカメラなどの需要回復も見られるなど、事業環境が改善した」と説明する。さらにはかつて赤字を垂れ流していたテレビ事業も、シェアを追わず高付加価値モデルへと販売をシフトした結果、高い収益性を確保できたという。
このほか、音楽、映画、半導体、金融の各分野も利益を上げている。特筆すべきは、その利益率の高さで、もっとも低いゲーム分野でも9・1%、もっとも高い音楽分野では22・6%、全体では13・3%だった(いずれも第3四半期の3カ月決算)。各事業分野が揃って高い利益率を誇る、非常にバランスのいいグループとなっている。
こうした各分野の好調を受け、通期の業績見通しは売上高は8兆8千億円、営業利益を9400億円、最終利益を1兆850億円と、中間決算発表時より上方修正した。いずれも過去最高で、中でも純利益は1兆円の大台に乗る見通しだ。純利益が1兆円を超えるのは、トヨタ自動車、三菱UFJフィナンシャル・グループ、ソフトバンクグループ、ホンダについで国内5社目で、「電機メーカー」では初のこと。ただし、ソニーはもはや電機メーカーからは逸脱しており、電機分野は単なる1事業でしかないことは、ここまで説明したとおりだ。
この決算の上方修正を受け、ソニー株は急騰、一時、時価総額は15兆円に達し、バブル時代の過去最高額を更新した。
10年前、ソニーはどん底だった。リーマンショックによって業績は一気に悪化、中でもエレキ分野は毎年のように赤字を計上した。そのため2012年にはハワード・ストリンガーCEOが解任され、平井一夫氏が社長となる。翌年には吉田氏を副社長に迎え、二人三脚で再建と再成長に取り組んできた。それが奏功し、ソニーは高業績会社に生まれ変わり、これ以上ない環境で、4月1日の社名変更を迎えようとしている。
ソニーの1年後にパナソニックも社名変更
ソニーの1年後に、持ち株会社へと移行し、社名を変更しようとしているのがパナソニックだ。22年4月、パナソニックはパナソニックホールディングスとなり、その下に家電や電気設備などを担当するパナソニックと、車載関連のオートモーティブ事業やバッテリー関連のエナジー事業、住宅関連のハウジング事業など、8社がぶら下がる予定だ。
パナソニックもソニーと同様、リーマンショック後業績が悪化、2年で1兆5千億円の赤字を出しながらも、会社の変革を目指してきた。そのために「家電のパナソニック」から「B2Bのパナソニック」になると宣言、会社の舵を大きく切った。
しかし一時は業績が上向いたが、創業100周年を迎えた18年頃から再び低迷する。B2B事業は思ったほどの成果が出ず、テスラと組んだ車載電池も、赤字が続いた。前3月期決算は減収減益で、営業利益率は3・9%。今期も大幅な減収減益となるのは確実で、営業利益率は3・5%まで低下する見通しだ。
このままではパナソニックの復活は難しい。そこで同社では、米ソフトウェア大手のブルーヨンダーを7千億円で買収する方針を固めた。ブルーヨンダーのソフトは、AIを活用して製品需要や納期を予測する。これを利用すればサプライチェーンの効率化が可能となる。
パナソニックは企業のサプライチェーンをサポートしており、そこには同社製の監視カメラやセンサーが使用されている。ここにブルーヨンダーのソフトを組み合わせることで、より効率的なサービスが提供できる。
ソニーはAV機器と映画・音楽などのエンターテインメントを組み合わせて、ハードとソフトの両輪経営を目指したが、パナソニックはハードとソフトの融合で、B2Bビジネスの付加価値を上げようとしているかに見える。
持ち株会社化、そして社名変更まであと1年。この4月にはCEOの座が津賀一宏社長から楠見雄規常務執行役員に移る(社長交代は6月)など、パナソニックは企業の形を大きく変えようとしている。ソニーのように甦ることはできるのか。