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武蔵コーポレーション社長が収益不動産の市場開拓を選んだ理由


インタビュー

東大経済学部卒、三井不動産入社といえば、典型的な安定型エリートコースだ。しかし武蔵コーポレーションの大谷義武社長はその安定を捨て、当時まだ認知されていなかった収益型不動産の世界に飛び込んだ。大谷氏は収益用不動産のどこに魅力を感じ、どう行動してきたのか。聞き手=関 慎夫 Photo=横溝 敦(『経済界』2021年6月号より加筆・転載)

大谷義武・武蔵コーポレーション社長プロフィール

武蔵コーポレーションの大谷義武社長
(おおや・よしたけ)1975年埼玉県生まれ。99年東京大学経済学部を卒業し三井不動産入社。2005年末、同社を退社し武蔵コーポレーションを設立。これまでに2千棟近い収益用不動産を取り扱っており、管理戸数は2万戸を超える。

収益用不動産の野村証券目指す武蔵コーポレーション

―― 新型コロナウイルスは、収益用不動産にどのような影響を与えていますか。

大谷 当社の来店客数はコロナ前に比べ1・5倍ぐらいになるなど活況です。コロナにより将来不安が増したため、それに備えておきたいという意識が高まっています。

―― 収益用不動産を扱う会社はいくつもあります。武蔵コーポレーションの特徴を教えてください。

大谷 当社は富裕層の方々を対象に収益用不動産を活用して資産形成および資産保全のお手伝いをしています。ですから単に不動産を売買するだけでなく、その後の管理まで一貫して提供しています。お陰で業績は好調で前8月決算の売上高は約140億円でしたが、今期は220億円ほどになる予定です。

―― 大谷さんは東京大学を卒業後、三井不動産に就職しています。三井不動産を辞めて起業した人はあまり聞いたことがありません。

大谷 ほとんどいないかもしれませんね。私も最初は起業する気は全くありませんでした。三井不動産ではショッピングセンター(SC)の開発・運営に携わっていました。その仕事は楽しかったのですが、SCができれば周辺の商店には客足は途絶えます。そこまでしてSCをつくる意味はあるのかと疑問が生じ、どうせなら人から感謝される仕事をしたいと考え、独立を決意しました。

―― なぜ収益用不動産だったのでしょう。

大谷 実家の相続で、自分でアパートを建てた経験があり、今後この分野は大きく伸びると考えたのです。でも当時、三井不動産の上司にビジネスプランを話しても、「それが商売になるのか」と言われ、起業に際しては銀行も融資してくれませんでした。

 でも私には必ず市場があるという確信がありました。人口減少時代を迎え、多くの人が老後に不安を抱えていて、資産運用に関心を持つ人が増えていました。個人でできる資産運用といえば、ひとつは株式、もうひとつは不動産です。株の場合、証券会社が資産形成の手伝いをしてくれます。でも2000年代はじめには、不動産による資産形成を手伝ってくれる会社はほとんどなかった。ですから、ここでしっかりとしたお手伝いができれば、必ず受け入れられると考えていました。

 実際、会社を立ち上げて4カ月後には、毎月1千万円以上売り上げるようになりました。最初は資金もありませんから仲介のみでしたが、1年後には不動産売買を始め、5年後には管理業務も手掛けるようになり、現在の形となりました。

武蔵コーポレーションが一流大学出身者の採用にこだわる理由

―― 武蔵コーポレーションは人材採用に特徴があるとか。

大谷 ええ。東大や京大など、高学歴の社員を中心に採用しています。というのも、収益用不動産の世界における野村証券さんや大和証券さんのようなプレーヤーになりたいと考えているからです。

 残念ながら歴史も浅いこともあり、収益用不動産を扱う会社の中には売りっぱなしでその後のことなど考えていないところがあるのも事実です。そこでわれわれがこうあるべきだ、という姿を見せていきたい。そのためにはお客さまに信頼される必要があります。高学歴はそのための手段の一つです。

 多くの人にとって資産は命の次に大切なものです。そんな大事なものを預かる会社がいい加減な人を集めていたのでは、信頼を得ることはできません。もちろん、学歴に関係なく仕事ができる人はたくさんいます。それを否定するつもりは全くありません。でも確率論的には、高学歴な人のほうが優秀と考えています。

―― どうすれば創業間もない無名の会社が高学歴の人を採用できるのですか。

大谷 起業したのは05年ですが、当時は就職氷河期でしたし、3年後にはリーマンショックが起きます。そのため一流大学を出ていながら就職しなかった人や、第2新卒の人も多くいた。その人たちに入ってもらったのです。それを続けていると、新卒でも高学歴の人が入ってくれるようになる。もちろん、他社より高い給料を払うなど、待遇面でも優遇しています。

収益用不動産会社のモデルケースに

―― 会社を経営するにあたり、一番重視していることはなんでしょう。

大谷 創業当時は無我夢中で走ってきましたが、今では会社に関わる人に幸せになってもらうということですね。一番大きく関わっているのは社員です。ですから社員に幸せになってもらわなければ、会社を経営する意味はないと考えています。みんなが幸せになって好きなように人生を生きていけるような会社です。

 独立したい人はすればいいし、会社を一緒に大きくしたいと考えてくれて最高のパフォーマンスを発揮した人には最高の報酬を払える会社です。言うなればかつてのリクルートのような会社で、上司に言われたから仕事をするのではなく、社員が自ら仕事を創出し、自発的に動く組織を目指しています。

―― 上場は考えてないそうですね。

大谷 一時、上場しようと考えたこともありますが、上場すると株主のために利益を追求しなくてはならなくなります。それでは会社に関わる人に幸せになってもらうことはできないため、上場はしないと決めました。

 その一方で、収益用不動産会社のモデルケースとして認知されたいとも考えています。そのために規模が必要で、最低でも売り上げ1千億円、これを5年後までに達成するのが、当面の目標です。