経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

タブー視される性の課題に挑むセクシャルウェルネスブランド

戸村光の「進撃のベンチャー徹底分析」(第1回)『経済界』2021年6月号より加筆・転載)

シリコンバレーで起業し、ベンチャー企業や投資家に関する豊富な情報を武器に活躍するハックジャパンCEOの戸村光氏。本連載では、 独自の視点から 同氏が注目する企業を毎回取り上げ、その事業戦略や資金調達の手法などを解説する。

FemTech市場拡大とヘルスケアとしてのセクシャルウェルネス

 これまで、多くの社会で長きにわたってタブー視されてきた性の課題。しかし私たちは今、セクシャルウェルネス(性の健康)を社会課題としてとらえる時期を迎えている。

 セクシャルウェルネスとは、性と生殖における健康のことで、世界保健機構(WHO)もその重要性を提言している。日本では男性目線に偏ったアダルト市場に包括されて語られることが多いが、海外をみると、セクシャルウェルネス市場は新規のスイートスポットとして注目され始めている。

 米国では、女性が抱える健康の課題をテクノロジーで解決する「FemTech」の市場が拡大し、多くのスタートアップが資金調達に成功している。FemTechとはFemale(女性)とテクノロジーを掛け合わせて、女性が抱える健康の課題を解決する製品のことだ。

 日本にも、女性目線と男性目線を尊重したプロダクトで、性の課題を解決する会社がある。それがBONHEUR(ボヌール)だ。

 欧米では、アダルト製品としてではなく、ドラッグストアにヘルスケアコーナーが常設されている。アダルト関連商品を販売する店舗も外観は日本と違い、アパレル店舗のようにお洒落な外観でデザインされている。

 それに対し、日本の店舗は外観が派手で、入店する恥ずかしさを乗り越えた人しか商品を購入できない。また、ネットで購入しても恥ずかしさからパートナーに言えない人も多い。BONHEURの調査では、性の問題やストレスに対してヘルスケアとして取り組んでいる人はわずか12%というアンケート結果が出ている。性に関する問題がタブー視される風潮がある中、社会課題として目を向ける時期が来ている。

 女性がセクシャルウェルネスのプロダクトを使用する理由の1つとして、性交痛をパートナーに言えないという事情がある。女性にとって重要なこの問題に対して、潤滑ゼリーやローションを取り入れる文化が日本にはないことも影響している。

 「セクシャルウェルネスを問題提起して、社会にヘルスケアの1つとして伝えていきたい」と、代表取締役の馬場早希氏は語る。

BONHEUER
BONHEUERホームページより

メードインジャパンで世界のセクシャルウェルネス市場を取りに行く

 ヘルスケアの観点から注目されているのが、FemcareとCBDとの掛け合わせだ。

 CBDとは大麻草成分の1つである天然物質で、自然療法として世界中で利用が広がっている。心身をリラックスさせ、不安や心配を取り除き、ストレス、不眠などの効果が期待できるといわれている。BONHEURは日本で初めてCBDを配合したローションを商品化した。

 さらに、製品の品質とデザイン性を兼ね備えたことで、女性が購入する際の心理的ハードルの問題を解決したことも特徴として挙げられる。

 アダルト市場はAVやエンターテインメントコンテンツなどで稼いでいる業界であるが、大きな問題のひとつは、女性目線から見て商品のデザインが最適ではないという点だ。量販店でアダルトブース担当の女性に聞いたところ、「デザインが女性に寄り添っていないため、継続して店頭に置くことが難しいという話になった例もある」とのことだ。

 従来は生活スタイルにそぐわないアダルト製品のデザインが多く、中には男性器を模すなど、女性が部屋に置きにくく使いづらい製品が多かった。BONHEURでは、ロサンゼルスと東京の2拠点で活動しているデザイナーと提携し、海外の最新デザインを反映させるとともに、生活に合うミニマルデザインを取り入れている。

 製品はすべてメードインジャパンで、オーガニック成分をベースに生産している。従来の製品は不快な香りや液体漏れなどが生じるケースがあるため、高品質で最後まで使い切れる製品を提供したいという想いからだ。この想いを実現するため、女性の開発担当者がいる工場をあえて選び、生産現場にもしばしば足を運ぶという。ユーザーの意見を取り入れやすくするために少人数のチームを組み、新商品を作るタイミングで、素早く改良に着手できる環境を実現しているとのことだ。

 実際の商品の開発・改良まで女性が関わることに対するこだわりは、「女性に寄り添った製品を」という馬場氏の考えからきている。

夫婦で起業するモデルでイメージを変革

BONHEUER
創業者の馬場早希さん(右)と馬場海斗さん

 これまでは、「日本では女性起業家が投資を受けるのはハードルが高い」と言われてきた。だが、BONHEURの事業内容を日本の投資家の前でプレゼンした際は非常に反応が良く、投資家からのイメージも変わってきていると馬場氏は語る。現在の会社の状況はシードラウンドで、2021年3月に資金調達を完了した。

 馬場氏は夫婦で会社を運営しており、夫の海斗氏が取締役を務める。FemTechやFemcareの領域で、夫婦で起業した例はあまりない。根底には「パートナーとのリレーションシップが良好で、しっかり仕事もしているのが理想の形であり、この領域の会社のスタートアップとして、男女で経営することに意味がある」という馬場氏の考えがある。そして、「女性と男性の両方の目線を大切にして新しい文化を作っていきたい」と語る。

 多くの人がセクシャルウェルネスを社会課題としてとらえ、BONHEURを通じて性の悩みが解消されていくことを願ってやまない。

戸村光

戸村 光(とむら・ひかる)――1994年生まれ。大阪府出身。高校卒業後の2013年に渡米し、14年スタートアップ企業とインターンシップ希望の留学生をつなぐ「シリバレシップ」というサービスを開始し、hackjpn(ハックジャパン)を起業。その後、未上場企業の資金調達、M&A、投資家の評価といった情報を会員向けに提供する「datavase.io」をリリース。一般向けには公開されていない企業や投資家に関する豊富なデータを保有し、独自の分析に活用している。