経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

コロナで「劇場vs配信」が鮮明に 構造改革を迫られる映画界

昨年の年間映画興行収入は、過去最高を記録した一昨年との対比で54・9%と厳しい結果になった日本映画界。ここ数年、動画配信サービスの台頭で新たな映像メディア時代への構造変革の真っただ中に置かれているが、ウィズコロナの社会でそのスピードはより加速していきそうだ。文=ライター/武井保之(『経済界』2021年7月号より加筆・転載)

構造改革の真っただ中にある映画界

 日本映画界は一昨年、過去最高の年間映画興行収入を記録したが、昨年は一転し、前年比54・9%と厳しい結果になった。今年もアニメ作品のヒットなどから少しずつ活気を取り戻しつつあったなか、3度目の緊急事態宣言で大型連休は4都道府県の映画館が休館。コロナによる興行への影響は計り知れず、その影は色濃く映画界全体を覆っている。

 ここ数年、ネットでの動画配信サービスの台頭により、新たな映像メディア時代への構造変革の真っただ中に置かれていた映画界だが、ウィズコロナの社会でそのスピードはより加速していきそうだ。今まさに危機的な状況に置かれ、革新を迫られる映画界の現況をレポートする。

映画興行収入は2000年以降最低を記録

 昨年の映画界全体の年間映画興行収入は1432億8500万円。過去最高を記録した一昨年の2611億8千万円の54・9%となり、2000年以降で最低の数字となった。特に洋画が前年比28・6%の340億円と大打撃を受けている。
 ただし、ライブエンターテインメントの昨年の年間市場規模は前年比20・7%の1306億円(ぴあ総研)。エンターテインメント全般が厳しい状況に置かれるなか、映画は前年比5割を超えており、苦難のなかで健闘したと見ることもできる。

 それには、昨年秋に公開され、社会的大ヒットとなった「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の影響が大きい。日本歴代興行収入記録を更新し、業界全体の年間興収を大きく底上げするとともに、壊滅的なダメージを受けていた昨年のシネコンの経営を救った。しかし、映画界が未曾有の危機的状況に置かれていることに変わりはない。そしてそれは現在も進行形で続いている。

 昨年の映画界はまさに前代未聞の事態に襲われた。4月7日の政府の緊急事態宣言の発令を受け、全国の映画館は休業を余儀なくされ、映画上映がいっさいできなくなった。この間、上映中の作品は配信へのシフトが進み、上映前の新作は公開が延期されるものがある一方で、先の見通せないなか劇場公開を待たずに配信のみで公開される作品もあった。 

 一方、映画館は休業要請解除後の5月下旬から徐々に営業が再開されるも、座席収容率は50%。コロナ不安からの客足の戻りの鈍さもあり、配給会社は新作公開に踏み切れず、スクリーン編成は旧作ばかりとなる。

 そうしたなか、夏興行に入り、徐々に邦画新作の大規模公開作が封切られると、それまでの状況が一変する。「今日から俺は!! 劇場版」(53・7億円)「コンフィデンスマンJP プリンセス編」(38・4億円)が想定値を大きく上回る興収を叩き出し、コロナ禍においても劇場に足を向ける観客が多くいることが映画界を勇気づけた。

『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』
『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』Blu-ray&DVD(6月18日発売) (C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

映画館から洋画新作が消えた

 一方、映画館は営業再開したものの、上映する新作が少ないジレンマを抱えていた。とくに洋画は、全米の映画館がコロナでクローズしている状況の中、全世界同時またはアメリカ先行公開を前提にするハリウッドスタジオの新作映画が世界的に公開延期され、日本でも映画館から洋画新作が消えた。

 映画の固定ファンには年配層が多いが、コロナ不安から映画館への客足がほとんど戻っていない。同層にはハリウッド大作を中心にした洋画ファンが多く、シネコンに洋画新作がゼロとなる事態が続いていることで、負のスパイラルを引き起こしている。それは今年に入ってからも同様であり、復調にはほど遠い状況だ。

 現状では、ライト層である若い世代を取り込める邦画新作頼みとなる状況が続いている。幸い同層はフットワークが軽く、面白そうな作品さえあれば映画館に向かう。コロナを乗り切るまで、若い世代を中心に世の中の関心を映画館に向けさせ、映画を生活の一部にいかに溶け込ませていくかに業界をあげて取り組んでいるところだ。

 そうしたなか、この3月末からアメリカでは大手映画チェーン・AMCが映画館の営業を再開した。夏にかけて日本映画界の洋画不足の状況も解消されていくことが期待される。

配信サービスがシェア急拡大

 洋画不足とも関係してくる映画界のもっとも大きな課題が、コロナを機によりシェアを拡大している配信サービスとの映像メディアのウインドウ問題だ。

 これまでは、基本的に映画が劇場公開されてから数カ月でネットでの動画配信が始まり、それとほぼ同時にブルーレイやDVDなどのパッケージが発売され、その後に衛星放送から地上波テレビ放送といったメディアウインドウの順序が決まっていた。時代を経てそれぞれの期間は作品ごとに変わったりもしていたが、コロナという力が加わったことで、これまでのシステムが大きく変わろうとしている。

 動画配信で先行するネットフリックスはコロナ禍において会員数を急増。またディズニーは昨年、新作2本を自社配信サービス「ディズニープラス」での配信公開にし、今年は既に1作を配信と劇場で同時公開。米ワーナー・ブラザースは今年の新作17本を映画館と自社配信サービス「HBOマックス」で同時公開することを発表している。

 このように動画配信サービスがプレゼンスを急拡大するとともに、ユーザーもそこで映画を観ることに慣れ親しんでいる。ここから浮かび上がるのは、従来のように劇場先行の公開を大前提にする映画館側との〝配信vs劇場〟のコンテンツ争いの本格化だ。

 ディズニーは今年、新作「ラーヤと龍の王国」を配信と劇場の同時公開に踏み切った。すると、都心の大手シネコンは同作を配給せず、郊外のシネコンでの劇場公開とディズニープラスでの配信という形になった。

 従来通りの劇場公開であれば興収数十億円規模の作品であるはずだが、結果は興収5億円に届いていない。ただし、同作の配信での収益は公表されておらず、また独占配信による配信サービスへの会員獲得といったメリットもあるので単純には計れないが、ディズニーおよび米映画会社側はコロナを機にこうした劇場と配信のタイミングの試行錯誤を重ねていくことが予想される。

課題は劇場と配信の公開時差

 そうなると当然生まれるのが映画会社と映画館の軋轢だ。そもそも現状の映画の収益構造は劇場公開を前提に成り立っており、それをいきなり配信のみにシフトしたところでこれまで以上の収益を上げられるものではない。加えて、映画という文化を育んできた映画館と映画には深いつながりがあり、映画人の思い入れも深い。さらに日本では大手映画会社とシネコンチェーンは同一グループ企業にある業態もある。

 喫緊の課題は、洋画の〝劇場と配信〟の公開時差なのだが、いずれは邦画全般にも関わってくる問題であるのは間違いない。これからのウィズコロナの映画界において本格的に向き合わざるを得なくなるだろう。

 今年3月、アメリカで「ゴジラvsコング」は劇場と配信で同時公開されたが、映画館興行で好成績を収めた。映画館にとっては頼もしい観客動向になるが、映画ジャーナリストの大高宏雄氏は「本作が大画面向きだったことが大きい。日米ともに劇場公開と配信の兼ね合いの問題は、まだまださまざまな問題点をはらんでいることに変わりない」と語る。

 また、アメリカではユニバーサル映画とAMCが、劇場公開から配信までの期間を従来の3カ月から17日に短縮する一方、配信収入の一部がAMCにも分配される独自の契約を結んだことも伝えられている。どういう形態がこの先のデフォルトになっていくかは未知数だが、この流れが止まることはない。アフターコロナにおいては一気に動き出すだろう。

 これから数年はこれまでのシステムや体制が崩れるようなことが起こってもおかしくない。映画史に残る激動の時代になるかもしれない。

『ゴジラvsコング』
『ゴジラvsコング』 (C)2021 WARNER BROTHERS ENTERTAINMENT INC. & LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS LLC.

アニメヒット連発と洋画大作の復興

 さて、今年の興行に視点を移すと、大型連休前まではメガヒットが続く邦画アニメの流れが、昨年から今年の映画興行を大きく支えている。それが「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」「シン・エヴァンゲリオン劇場版」「名探偵コナン 緋色の弾丸」だ。3作品の累計興収は推定600億円と大きな数字が視野に入る。

 一方、興収が伸び悩むのが邦画実写だ。「アニメが好調な分、今年に入ってから実写作品が今ひとつ物足りない成績になった。これはコロナ禍での興行もさることながら、やはり作品そのものの興行力が反映されているとも言えるだろうか。特にテレビ局映画の大ヒットが減ったことが大きい。しかし、近作では『るろうに剣心 最終章』があり、ある程度は盛り返すと見ている」(大高氏)。

 実写の明るい話題としては、「花束みたいな恋をした」(菅田将暉、有村架純)のように、大手映画会社の配給ではないにもかかわらず、興収40億円に迫るロングヒットになる作品が生まれていることがある。大規模公開のイベントムービーが大ヒットする時代から、コロナの影響で新作数が少なくなるなか、作品そのものの魅力を観客がそれぞれの好みで見極める作品本位の時代へとより進んでいるのかもしれない。

 そして、年内の映画興行については、洋画大作が命運を握るカギになるだろう。まずは、既に世界中で大ヒット中の「ゴジラvsコング」(日本公開未定)が映画界の注目を集めている。大高氏は「まだまだ洋画の話題作、大作は少ないが、本作が復活のきっかけになってほしい。洋画がないと日本の映画マーケットはしぼんでしまう。アニメだけでなく、多様性ある作品の興行が構築されないと厳しさは依然として続くことになる」と期待をかける。

 今年の映画界において、コロナの再感染拡大がもっとも大きな懸念材料であることは間違いない。昨年とはまた様相の違った広がり方は、どのような影響を与えるか全く先が見通せない。そんななかだが、アニメのヒットと洋画の復興という昨年とは異なる明るい話題もある。