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コロナ禍で売り上げ激減! サブスクに賭けるビール夏商戦

ビールのサブスクリプション(サブスク)サービスが熱を帯びてきた。3月から本格展開したキリンビールに続きアサヒビールも5月に参入し、さらにクラフトビールメーカーも健闘している。コロナ禍の今、サブスクは低迷するビール消費の救世主になるのか。文=ジャーナリスト/永井 隆(『経済界』2021年8月号より加筆・転載)

広がるサブスク市場

 サブスクリプション(サブスク)とは、毎月定額料金を支払って利用できる会員制サービスを指す。

 動画や音楽の配信サービスが代表格であり、どちらかと言えばネットを自在に駆使できる、若者を中心に利用されている。

 「Amazonプライムビデオ」など映画の動画配信サービス、「YouTube MUSIC」など音楽配信サービスと、聞いたことがあったり、利用された向きもいるのではないか。

 最近は、こうしたデジタルコンテンツばかりではなく、洋服やバッグ、自動車、さらにラーメンやビールといった食品にも、サブスクは広がりを見せている。

 「モノよりもコト」、「所有よりも利用」といった、消費者マインドの変化、ライフスタイルの変化がサブスクを普及させて、同時に多様化させている。

若者の支持が減少する自動車、ビール

 2019年からトヨタが始めた「KINTO(キント)」は、自動車を対象としたサブスクの一つの形だ。目的や好みに応じ、複数の車種を利用できる。

 「買うよりお得、らしい。」と、衝撃を与えるコピーをCMで使ったキント。CMには二階堂ふみ、菅田将暉、別バージョンでは松田翔太ら若手実力派を多数起用したほか、佐藤浩市も登場。宣伝費を惜しまず注ぎ、トヨタの本気度が伝わる。

 トヨタの場合、若者の自動車離れを何としても阻止したい狙いがある。キントにより、クルマを使うということを、まずは体験してもらう。その結果、クルマのファンを掘り起こしていき、ひいては国内生産台数を維持して雇用を守っていく。トヨタのシナリオだろう。

 自動車とビール類(ビール、発泡酒、第3のビール)が共通するのは、「若者からの支持率が減少している」という点だ。

 しかも、肝心の若年人口は減少の一途をたどる。20年(1~12月)に20歳に達した人口は約124万人だったが、20年の出生数は約84万人である。

 ビールのサブスクは、必ずしも〝若者メイン〟というわけでもない。ビール市場の再活性化を目指す取り組みだ。

 特に、昨年来のコロナ禍では〝家飲み〟が中心となっている。緊急事態宣言やまん延防止等重点処置から、アルコール類の提供を自粛している飲食店は多いからだ。

業務用が売れずに第3のビールが逆転

 20年における大手ビール4社の販売数量は、各社の発表値と独自の取材から、前年比9・0%減少の3億4996万箱(1箱は大瓶20本換算=12・66リットル)だった。16年連続で前年を割り込み、最盛期だった94年の5億7322万箱(出荷数量)と比べれば、6割強の規模にまで縮小した。

 特に20年は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を、飲食店向けの業務用がモロに受け、構造そのものが変わった。

 コロナ前の19年。ビール、発泡酒、第3のビールのビール類に占めるビールの構成比は47・66%。3つのカテゴリーの中でビールが約半分を占めるのは、コロナ前までの変わらない構造だった。ビール販売量の、ほぼ半数は飲食店向けの業務用で半数が家庭用だ。

 ほぼ全量が家庭で飲まれる第3のビールの構成比は40・4%、やはり家庭需要が大半の発泡酒は同12・0%。

 ところが20年は、ビールが同22%減ったのに対し、第3のビールが同3%伸びた。この結果、構成比はビール40・8%に対し、第3のビールが45・7%となり、初めて構成比が逆転してしまう。

 飲食店向けの業務用ビール需要が激減したのが原因だった。

 一方、酒税改正が20年10月に実施された。ビール、発泡酒、第3のビールと3層ある税額は、20年10月、23年10月、26年10月の3段階で統一されていく。

 350ミリリットル当たりの税額は昨年9月までは、ビール77円、第3のビール28円と3倍近い開きがあった。これが昨年10月、ビールは7円減税され、第3のビールは9円80銭増税されたのだ。

 次の23年10月を経て、最終的には26年10月に、54円25銭で統一されていく。

 ビールが減税され、第3のビールが増税されていくため、「ビールには追い風」(ビール会社首脳)が吹く。

 昨年は、とりわけ第1次緊急事態宣言が発出された4月、ビールの構成比は19年4月の48%から3割弱にまで急落した。この反動もあり、21年4月にはビールの販売は前年同月比で65%程度増えたと見られ、構成比も約43%に戻している。もっとも、3度目の緊急事態宣言発出と延長で、5月以降のビール類市場は揺れ続けている。

 ただし、分かっているのは減税されたビールの〝家飲み〟に、どうやらチャンスがあるということ。そのための仕掛けの一つが、サブスクだろう。

キリンビールが目指すサブスク会員数10万人

 キリンビールは、会員制生ビールサービス「キリン ホームタップ」を3月から本格展開している。

 「家庭用サーバーを構想してから約8年、サーバーの供給体制を含めて基盤が整ったため、本格展開する」と布施孝之社長。

 コロナ禍前の13年頃から構想はあり、現実には15年8月に「キリン ブルワリーオーナーズクラブ」として東京など1都3県を対象に、100人規模でサービスをスタートさせていた。17年6月、「キリン ホームタップ」として展開を開始。20年末の会員数は約2万人。これが21年3月末では3万人に膨らみ、今回の本格展開に踏み切った。

 「21年末には、会員数10万人を目指す」(布施社長)。

 ターゲットは「30代から60代まで」(山形光晴常務執行役員)と幅広い。

ビールのサブスクを発表するキリンビール。左端が布施孝之社長

 

 「工場つくりたてのビールのおいしさをいち早くお届けする」をテーマにし、①月4リットルコース(税込みで月額8250円~)と、②月8リットルコース(同1万2430円~)の2つがある。

 ①月4リットルコースでは1リットルの専用ボトルが2本ずつ、月に2回届く。②8リットルコースでは同4本ずつ2回届く。

 ボトルの中身は、「一番搾りプレミアム」のほか、毎月3~4種類の期間限定ビールを揃える。キリンのクラフトビール「スプリングバレー」ブランド、提携している米国の「ブルックリンブルワリー」ブランドなどで、会員は自由に選択できる。

 料金にレンタル料が含まれている専用サーバーは、保冷機能がありクリーミーな泡付けが簡単にできるそうだ。

人気を集めるクラフトのサブスク

 アサヒビールは、家庭用生ビールサービス「THE DRAFTERS(ドラフターズ)」を5月から開始した。初年度で会員数3万人を目指す。

 スーパードライの2リットル入りミニ樽を毎月2回、自宅に定期配送する。価格は税込みで月額7980円。「後発なので、(キリンより)安く設定した」とアサヒ担当者。

 サーバーには、通常の温度帯(4~6℃)の「スタンダードコールド・モード」と氷点下の温度帯(マイナス2~0℃)の「エクストラコールド・モード」があり、好みに合わせて選択できる。

 また、アウトドア専門誌が監修した屋外で使用できる専用キャリーケースも発売。コロナ感染リスクが比較的少ないキャンプ地など、屋外でも利用できる。

 「立ち上がりは順調」と語るのは勝木敦志・アサヒグループホールディングス社長。

 アサヒは4月、缶のフタを明けるときめ細かな泡が次々に発生する「生ジョッキ缶」(中身はスーパードライ)を発売したところ、すぐに品切れを起こしてしまい、6月に再発売した。ビール類で、瞬時にスーパーやコンビニの棚から新商品が消えてしまうのは、最近では珍しい。

 いずれも家庭向けだが、松山一雄専務は「生ジョッキ缶はビールファン全体に向けた商品。ドラフターズは〝通〟に提案した新しいサービス。新しいビール需要を喚起する」と話す。

 ビールの個性を売りにするクラフトビールでも、サブスクに取り組む会社は増えてきた。

 19年8月創業のスタートアップMOON-X(東京都目黒区)は、オンラインだけで自社ブランドのクラフトビールを販売するD2C(Direct to Consumer)を展開している。

 月4180円で毎月1ケース6缶を届けるサブスクを19年11月から始め、2カ月ほどで予定していた400ケースを完売する。この実績が評価された結果、20年2月には10億円を超える資金調達にも成功する。

 D2Cとは、メーカーが自社で企画、製造した商品を、流通を介することなくEC(電子商取引)サイトにより直接消費者に販売する仕組みだ。同社はアップルと同様に、工場を持たないいわゆるファブレス。生産はクラフトビール大手の木内酒造(茨城県那珂市)などに委ねているが、SNSを駆使してユーザーの声を素早く商品開発に反映。モノづくりとマーケティングに結びつけているのが特徴だ。

 「サブスクは忌憚ない意見をもらえ、会員と長期な関係を築ける。検証のため5月に新規受付を一旦停止したが、近く復活させる」と同社。

 サブスクには、小売店に足を運ばなくてもすむなどメリットはある。特に、コロナの時代は、感染リスクの低減にもつながる。

 それでも、新しい仕組みであり、契約の継続率をいかにアップさせるかはポイントとなる。会員とのコミュニケーションを密にし、強固な関係性の構築は必須だ。