経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

世界的サッカー選手に選ばれた人工芝カンパニーが世界を狙う

戸村光の「進撃のベンチャー徹底分析」(第3回)『経済界』2021年8月号より加筆・転載)

シリコンバレーで起業し、ベンチャー企業や投資家に関する豊富な情報を武器に活躍するハックジャパンCEOの戸村光氏。本連載では、 独自の視点から 同氏が注目する企業を毎回取り上げ、その事業戦略や資金調達の手法などを解説する。

人工芝に含まれる黒ゴムチップの弊害

 みなさんは人工芝の上を走った経験はあるだろうか。

 実は、人工芝に使われる黒ゴムチップには、発癌性有害物質が含まれており、人体への悪影響や環境汚染を懸念する論文が発表されている。黒ゴムチップが微粉塵となることで誤飲や眼球への混入の恐れがあるため、これまでは地面と目線が近い子どもやペットが使用する広場には人工芝が敷けない状況だった。

 この問題を解決するために乗り出したのが、世界初の冷却人工芝「COOOL TURF」を開発した濱口光一郎・COOOL社長だ。既にダイワハウス工業やセキスイハイムなどで施行実績があり、サッカーグラウンド、保育園、有名商業施設の屋上といった場所に採用されている。

 さらに、世界的に有名なプロサッカー選手のアンドレス・イニエスタ氏が、COOOL TURFを導入した人工芝のサッカーコートを、自身のリハビリ用や子どもへのクリスマスプレゼントとして選んだことも話題となった。

COOOL TURF
濱口光一郎・COOOL社長(左)とアンドレス・イニエスタ選手

自然素材100%の充填剤で摩擦熱の低下に成功

 「世界中の天然芝がCOOOL TURFに変わることを狙っている」と濱口氏は語る。

 開発のきっかけは、濱口氏のお子さんが人工芝のグラウンドで足裏にやけどを負ったことだった。人工芝でのプレーは、やけどを負うリスクと隣り合わせだという。実際に、人肌と人工芝との摩擦熱が70℃以上の高温になることもあり、子どもやスポーツ選手がやけどを負う事例が多数報告されている。通常のスパイクでは靴底が摩擦熱に耐えられないことを考慮して、耐熱性の高い接着剤を使用した人工芝用スパイクも販売されているのが現状だ。

 COOOL TURFの場合、従来の人工芝より約20℃も摩擦熱の温度低下に成功したことで、高温やけどのリスク軽減が期待できる。その秘密が、自然素材100%の充填剤「寒土」だ。この開発に成功したことで、人工芝に黒ゴムチップやコンクリートを一切使用することなく、天然芝に近い効果が発揮できるようになった。

 身体への衝撃も緩和されるうえ、夏場でも高温になりにくいコートにすることができる。COOOL TURFを市町村のグラウンドなどに敷けば、Jリーグのジュニア選手の試合ができるほどの環境に生まれ変わるという。

 さらに、災害時には屋外の広場が避難場所として使えるため、体育館で段ボールを隔てた密集空間ではなく、プライバシーが確保された屋外のテント村が実現できるとのことだ。「人工芝の石灰石(砂)には殺菌性があるため、病院の検査会場に使えるほどの衛生環境が整う」と、濱口氏は語る。

COOOL TURF
COOOL TURFを使うことで安全な芝環境を低コストで実現できる

再利用を可能にしてユーザーの負担を減らす

 有害物である黒ゴムチップは、処分代が非常に高額だ。従来の人工芝サッカコートは約1500万円の処分代が掛かってしまう。

 そこで、継続的に良質な芝環境を保つためにみずほ銀行と協力してスタートさせたのが、COOOL TURFのリース制度だ。

 その仕組みは、最初の6年間はみずほ銀行にリース代を支払い、7年目以降はCOOL TURFに支払う金額の一部を、新しい人工芝への張り替えに回せるというもの。寒土を継ぎ足して再利用することによって、人工芝のみを新しく入れ替えれば済むため、張り替え代を抑えることが可能になる。中期のリース契約にすることで購入者へのフォローがしやすくなり、契約更新時に顧客が他社へ流れるのを防ぐ。

 また、一般の人でも低コストで良質な芝環境を保てるよう、メーカーとメンテナンス機械の共同開発も行うなど、ユーザー満足度の向上に努めている。

SDGsに即したテーマを掲げ企業価値を高める

 人が集まり、交流できる場所には、ビジネスの機会が生まれやすい。例えば、地域の土地にCOOOL TURFの人工芝を敷くことで、スポーツ選手が集まるグラウンドやレジャー施設の誕生が期待できる。バーベキュー場をつくったり、子どものスポーツ教室を開いたりといったことも可能になるだろう。

 COOOL TURFが掲げるテーマは「水と共に生きる」。水が人工芝の寒土を通って地球に浸透し、川や海に流れて雨となるサイクルを繰り返す。そして、人が活躍できる場所を作り出し、その土地環境を保ちながら後世に継承していくというイメージだ。

 地球と人間の間に好循環を生むサービスを目指す姿勢は、国連が定めた世界共通の目標「SDGs」にも当てはまるものと言える。今やSDGsは、中学校や高校などの教育現場でも取り上げられるテーマであり、経済的価値では測れない「精神的報酬」(やりがい、貢献性)を重視する現在の若者の志向にマッチしやすい。

 地域への貢献や世界に広がるプロジェクトに参加できることは働き手の誇りとなり、それらに携わる企業は、特に若者に魅力的に映る。こうした点からも、COOOL TURFのブランド価値は、高まっていくのではないだろうか。

 「100年後も誇れる仕事をしたい。大人の誇れる仕事姿を子どもたちに見せていきたい」と、濱口氏は語る。

戸村光

戸村 光(とむら・ひかる)――1994年生まれ。大阪府出身。高校卒業後の2013年に渡米し、14年スタートアップ企業とインターンシップ希望の留学生をつなぐ「シリバレシップ」というサービスを開始し、hackjpn(ハックジャパン)を起業。その後、未上場企業の資金調達、M&A、投資家の評価といった情報を会員向けに提供する「datavase.io」をリリース。一般向けには公開されていない企業や投資家に関する豊富なデータを保有し、独自の分析に活用している。