経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

新社長・新社屋と共に歩み出した物流梱包のパイオニア―モリパックス

モリパックス社長・住田裕子


スタンプ台の組立加工に始まり、時代の変遷に沿って真空成形が事業の柱に。培ってきた技術をベースに現在は「包む、運ぶ、護る、装う」の4つのキーワードを掲げ、高品質な物流梱包を提案している。

モリパックス社長・住田裕子
モリパックス社長 住田裕子(すみだ・ゆうこ)

望まぬ形での事業承継で「走るしかない」と決意

 2021年3月に竣工したばかりの真新しい新社屋・テクノベーションセンター。建物内にある同社の製品や歴史などを紹介するショールームには、工業製品を移送するトレイや家電製品を包装する「ブリスターパック」と呼ばれるパッケージなどが展示されている。

 「『包む・運ぶ・護る・装う』に関するお客さまの課題はさまざま」と話すのは、19年にモリパックス社長に就任した住田裕子氏。同社では対象となる製品や部品の形状、使用するシチュエーションに合わせた最良の梱包を個々に提案する。一つとして同じ型はなく、同社の優れたヒアリング力や技術力をうかがい知ることができる。

 「新規案件の企画、試作、初品の検証までをこの新社屋で包括して行うことができるようになりました。新規品の設計や技術開発に今までより注力できる環境を整えたことで、量産工場への生産移行が円滑になりつつあります」と、新たなテクノベーションセンターの機能や現状について朗らかに語ってくれた。

 しかし、若き裕子氏が社長に就任した背景は沈痛なものであった。父親である住田正幸前社長の急逝だ。19年8月、ヘルニアの手術以来外出を控えていた前社長が久々に夫人と愛犬を連れて長野県へ旅行に出かけた際、急病に倒れ帰らぬ人となった。

 「亡くなる10分ほど前まで父が元気に散歩をしていた様子は、母からのメールで知っていました。父の携帯には倒れる直前に撮影していた綺麗な御嶽山の写真も残っていて……。父が倒れたと母から電話で聞いたときは、まさか……」と振り返る。

 グループ創業60周年という節目の年を迎えた矢先、前触れなく襲った出来事。前社長が一念発起し購入した広大な土地を前に、当時取締役だった裕子社長は呆然と立ち尽くし行く末を案じたという。

 「まさかこのような形で事業承継することになるとは思ってもみませんでした。悲しんでいる時間はなく、とにかく『走るしかない』という思いでした」

 前社長が最も大切にしていた言葉が「一期一会」だという。お客とのつながりを大切にし、また真剣に向き合うことで信頼を獲得。「人伝い」に取引先を増やしていった前社長の生きざまを表すような言葉だ。

 「自動車や半導体、医療、家電などさまざまな業種とつながることができているのは、父が『一期一会』の言葉を大切にしてきたからに違いありません。私が社長に就任してからは、この一期一会の精神を受け継ぎ、『ONE FAMILY』という理念に定め直しました。『家庭的』という意味合いはもちろんですが、〈仲良くけんか〉できるのもまた家族であるという考えに基づくものです。営業、設計、技術、製造それぞれ意見が食い違うことがありますが、建設的な議論を重ねられる社風を築き、会社=一つの家族という温かい組織にしたいという想いを込めています」

東海地方の主要産業を技術力で支え続ける

 愛知県の自動車製造関連メーカーや静岡県の医療機器メーカーをはじめ、あらゆる分野の産業が集積する東海地方。これらの有力メーカーと幅広く取り引きがあるのがモリパックスの強みだ。

 「技術力を絶えず高め続けることができるのは、ひとえに弊社の技術力を信じ声を掛け続けてくださるさまざまな業種のお客さまとの信頼関係を築けたことのおかげ」と話す。

 しかし、就任直後にコロナ禍という難局と対峙している裕子社長。大手自動車メーカーの生産台数減は同社にとっても大きな打撃であったことは言うに及ばない。

 「それでも昨年夏に生産が早々に再開された際には、当社も開発案件を再びスタートすることができて救われました。現在、警戒するべきは今までは自動車産業向けのトレイを生産していなかった企業の新規参入です。今日まですみ分けされていたものが、業界を越えて参入してくるケースが感染症拡大の影響で顕著になっています」

 同社は自動車業界用のトレイなどの製品を長年製造し続けてきた実績や技術力を武器に新規参入他社との差別化を図り、価格競争を回避する構えだ。

 「私たちのような規模の企業が生産力を高めるには、その土地の商習慣を熟知したパートナー企業と一緒にものづくりができる環境を整えるのが近道」と、これまで協力関係を深めてきた各地の企業との関係をより強固なものにして生産ネットワークを広げる考えだ。

 「前社長が土地を購入したことは、私たちに希望を遺してくれたのだと考えるようになりました。今の私にはこのような大きな決断はできませんから。『テクノベーションセンターから新しいものづくりを生み出す』という想いは、従業員の結束力をさらに強くし、皆が前を向いていると感じています」

 奇しくも「次世代・モリパックス」の象徴となったテクノベーションセンターと共に、新社長を旗手として新たな歩みを進めている。

会社概要
設立 1979年8月
資本金 1,000万円
売上高 28億円
所在地 愛知県名古屋市西区
従業員数 40人(グループ合計190人)
事業内容 真空成形トレイ・パッケージ製品・縫製品・各種物流梱包資材の企画・販売
https://www.moripax.co.jp/

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