経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

農業や林業、観光業の未来を創る札幌を特色あるIT産業の拠点に―クリプトン・フューチャー・メディア

クリプトン・フューチャー・メディア代表取締役・伊藤博之
クリプトン・フューチャー・メディア代表取締役 伊藤博之(いとう・ひろゆき)

 音声合成ソフト「初音ミク」の生みの親として知られている、クリプトン・フューチャー・メディアの伊藤博之代表。北海道発のイノベーションを実現するコンベンション「NoMaps」の実行委員長でもある伊藤代表に、北海道経済の未来について聞いた。

コロナ禍の巣ごもり需要で配信ビジネスが絶好調

 新型コロナウイルスの感染拡大により観光業や飲食業が大きな打撃を受けている北海道。クリプトン・フューチャー・メディアも、カフェの経営や音楽イベントの企画・開催を行っており、事業の見直しをせざるを得ない状況になった。

 「札幌市内で運営していたカフェは閉店を決定。イベントやフェス、ツアーは中止や延期を余儀なくされました」と伊藤博之代表は言う。一方で、巣ごもり需要により配信ビジネスは絶好調だ。

 「弊社はコンピュータで作曲・配信ができる音楽ソフトを販売していますが、こちらの売り上げはアップしています。さらに、YouTubeやSpotifyなどでの音楽配信ストリーミングサービスも絶好調です。もともとトレンドであった事業ですが、巣ごもり需要によってさらに右肩上がりとなりました」

 音楽制作ソフトは、ユーチューバーに憧れる中高生から昔からの愛好家である50~60歳代まで、幅広い年代が購入しているという。

 2007年に発売した音声合成ソフト「初音ミク」が大ヒットした同社。今や世界中にファンを持っているが、拠点が北海道であることに驚かれることも多い。

 「もともと札幌はIT企業が多く〝サッポロバレー〟とも呼ばれ、高い情報技術を生み出してきました。日本は東京にメディア産業が集中していますが、音楽配信の場合、マーケットは東京ではなく世界という時代になり、東京に会社を構えなくても支障はありません。音楽ソフトを使えば楽器を演奏できなくても作曲ができますし、アーティストは世界のどこにいてもYouTubeやTikTokで配信ができます。当社が提供する音楽サービスを使っていただければ、地方にいてもアーティスト活動ができるのです」

北海道独自の産業とテクノロジーの掛け合わせ

 伊藤代表は音楽とコンピュータが趣味で、効果音などのサウンド素材を輸入販売する「音の商社」として同社を創業。その前は北海道大学に勤務という経歴を持つ。

 「工学部の職員として、AIの開発と進化を身近に見てきました。研究者は北海道中にいますし、北海道の人たちから素晴らしい技術が生まれる可能性を感じていました。広大な土地で移動に時間がかかる北海道ゆえに、物流よりも情報技術が発展してきたのです」

 特色のあるスタートアップも多く、イノベーションが生まれやすい土壌でもあるという。

 「農業とテクノロジーを掛け合わせたアグリテックの分野では、田畑に自動走行システムを搭載したトラクターを無人で走らせるといった技術も進んでいます。また酪農では、牛にセンサーを付けて、状態をAIで解析することで健康管理がしやすくなるシステムをはじめ、ITと酪農を掛け合わせて病気の早期発見や見回り業務の軽減に役立てる研究が続いています。北海道ならではの産業、課題の解決に向けてITが有効活用されることにより、これからも特色のある技術が生まれていくでしょう」

札幌でのコンベンション「NoMaps」が大成功

 伊藤代表は、音楽の分野にとどまらずクリエイティブな発想とテクノロジーで、北海道の産業から未来を創るコンベンション「NoMaps(ノーマップス)」を16年から開催している。自らが実行委員長となり、自治体、民間企業、大学が運営に関わって、ビジネスカンファレンス、音楽、映画などのコンテンツを楽しむことができる。

 「『NoMaps』は、集った人々はもちろん、北海道で暮らす人々のクリエイティビティを高め、地図にまだ描かれていない、新たな領域を切り拓くことを目的としています。もともと北海道は開拓地です。これからは未来社会の開拓地として、最新のテクノロジーを使った実験を行うのにふさわしい場所ではないかと考えています。例えば、北海道では鉄道の赤字路線も少なくないですが、観光地でのライドシェアなど交通面でのリノベートを北海道から行っていく、といった事業も検討されるようになりました」

 20年の「NoMaps」は、コロナ禍でオンラインでの開催となったが、アクセスしやすくなった分、例年よりも多くの人が参加し大成功を収めている。

 「われわれが北海道から発信することで、他の地方でも独自の産業を生かしたイノベーションが生み出されるきっかけになると良いですね」と語る伊藤代表の今後の活躍に、北海道から変わっていく日本の未来が期待されている。

会社概要
設立 1995年7月
資本金 2,000万円
所在地 北海道札幌市
従業員数 122人
事業内容 音楽制作ソフトウエアの開発・配信、モバイルコンテンツ企画・開発・運営、音楽配信プラットホームほかWEBシステムの開発・運営、キャラクターに関する国内外ライセンス事業、地域を応援するローカルプロジェクトの企画・運営
https://www.crypton.co.jp/