経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

経営者からのニーズが高まる「オンライン秘書」の実像

在宅ワークの拡大や副業ブームに乗って、隙間時間や休日を使って稼ぐ人々が増えてきた。そんな中、新たな仕事の形として登場したのが「オンライン秘書」。その実態と経営者が利用するメリットについて、全国のクライアントを相手にオンライン秘書サービスを展開するtolopico(トロピコ)の久保田友里恵代表に話を聞いた。(取材・文=吉田浩)

久保田友里恵氏プロフィール

久保田友里恵
(くぼた・ゆりえ)1986年生まれ、静岡県出身。大学卒業後内定切りに遭った後、ベンチャー企業の社長の右腕として10年間勤務。経営者の近くで多岐にわたる業務を手掛けた経験を活かしオンライン秘書として独立。現在は自身のオンラインサロンでメンバーを育成し、オンライン秘書を企業に派遣する事業を展開している

多岐にわたるオンライン秘書の業務

 「自分の右腕は欲しいが正社員として秘書を雇う余裕がない」。久保田氏が現在メインの顧客としているのは、そうした悩みを抱える会社の社長たちだ。自身が運営するオンラインサロンのメンバーから個人、あるいは複数人でチームを編成して秘書をオンラインで派遣し、経営者をサポートする事業を展開している。

 秘書の一般的なイメージとしては、社長のスケジュール管理や資料の整理、出張の手配といった業務が思い浮かぶ。年配の読者なら、いわゆる「カバン持ち」として、いつも社長にくっ付いて行動する姿を想像するかもしれない。

 だが、久保田氏が派遣する秘書たちは、電話やメール対応、データ入力、顧客管理、請求書や見積もり書作成などの経理業務、さらには営業資料作成やリサーチなど多岐にわたる仕事をすべてオンラインでこなす。サロンメンバーにはさまざまな得意分野を持った人材がそろっており、これまでの「秘書」の概念に当てはまることなく、幅広い業務を手掛けている。

 「新型コロナ禍で業務範囲は広がりましたね。多くの仕事がオンラインでできてしまう上に自宅で起業する人が増えたのも影響しています。これらの人々は一人で業務を回すのが難しいため、オンライン秘書が外注業者の管理やチームディレクション、さらにプロジェクトマネージャーのような仕事を担当するケースもあります。もはや何でも屋になりつつあります(笑)」と、久保田氏は説明する。

 一方、オンライン秘書として働きたいという需要も増加している。主婦層が多いが、副業目的で入会した会社員や学生、さらに働く場所にとらわれないというメリットを活かして海外からの参加もあるという。久保田氏のオンラインサロンには現在140人程度のメンバーが在籍し、クライアントからは業務の一部だけスポットで受注するケースもあれば、幅広い業務を丸投げに近い形で任されることもある。

 「経営者のタイプやニーズに応じて、メンバーの中から臨機応変にチームを組めるのが他にはない強みです」と久保田氏は語る。

オンライン秘書
場所にとらわれず働けるオンライン秘書の仕事は増えている(写真はイメージ)

副業の延長でオンライン秘書として起業

 久保田氏がオンライン秘書サービスを本格的に立ち上げたのは2019年8月。予想していたわけでは当然ないが、その直後に訪れたコロナ禍に伴ってニーズはますます増加しているとのことだ。

 もともとベンチャー企業で社長直属のポジションに就いていたが、3年ほど前から副業で知り合いの経営者のサポート業務もリモートワークで行っていた。そうした働き方はまだ一般的ではなかったが、経営者からの需要は確実に存在していたという。

 本業の関係で周囲にベンチャーの社長が多かったことから、久保田氏もいつかは起業しようと考えていた。しかし、頼まれたことをこなすのは得意でも、新たなアイデアを出したりゼロから何か新しいものを生み出したりするのは苦手だった。「ならば他人の支援をサービスに起業しよう」と視点を変えたことで生まれたのが現在の事業だ。

 秘書人材の教育、育成はオンラインサロン内で自ら行っている。メンバーは会社員時代から取り組んでいたTwitterやnoteなどからメルマガ登録希望者を募るなどして、募集開始から3カ月で100名を超える会員が集まった。事務作業を得意とするメンバーが多いが、全くの未経験者もいるため、久保田氏自身がマンツーマンで教育することもある。得意なスキルやそのレベルはバラバラでも、「自分が目立つより他人のサポートがしたい人、細かい気遣いができる人は秘書に向いている」(久保田氏)という。

 現在は、クライアント対応は久保田氏が担当し、受注した仕事をサロンメンバーに振り分けていく形をとる。クライアント対応と自らのオンラインサロン運営を同時並行で行うのは限界があるため、久保田氏自身も秘書をつけて業務の一部を任せている。面白いことに、人気があって忙しい秘書が、さらに自分の秘書をつけるケースもあるという。前述した通り業務の幅が広がっているため、「秘書の秘書」のような仕事も今後は増えていくのかもしれない。

ニーズに合わせて仕事量を調整できるオンライン秘書のメリット

久保田友里恵

 クライアントからは月額数十万円の継続依頼もあれば、スポットで1万円程度の発注まで様々。忙しさに合わせて発注量を調整できるため、小規模事業者にとっては使い勝手が良いサービスだ。

 「経営者ではなくても、手が足りないから月額1万円程度で個人的に利用したいというクライアントさんもいます」と久保田氏は言う。「自分にしかできない業務に集中でき、業績が向上した」「業務が効率化しよりクリエイティブな仕事ができるようになった」と、今のところ顧客からの評判は上々だ。

 現在の主な収入源は、クライアントからの報酬とオンラインサロン会費の2つで、25社程度と契約を結んでいる。今後の目標は受注件数の増加と、人材の供給源であるオンラインサロンの規模拡大、そして企業と秘書のマッチングを自動化できるプラットフォームの構築だという。

 もともと人と人とをつなげるのが得意だったという久保田氏。当初は起業に向いていないと自覚しつつも、ビジネスの種はどこに転がっているかわからない。企業のオペレーションや個人の働き方の形は、ますます変わろうとしている。