経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

海事産業向けプラットフォーム「Aisea」でDX支援ーアイディア

アイディア 社長 下川部知洋(しもかわべ・ともひろ)

アイディアは海事産業向けプラットフォーム「Aisea(アイシア)」を開発・運用する。船舶のデジタル化をはじめ、各種システムを実装できる環境を提供し、DX(デジタル・トランスフォーメーション)を後押しする。

アイディア 社長 下川部知洋(しもかわべ・ともひろ)
アイディア 社長 下川部知洋(しもかわべ・ともひろ)

海事産業、関係省庁から注目を集めたシステム

アイディアの始まりは、下川部知洋社長のIT業界での経歴と家業に関わりがある。下川部社長はIT業界に身を置いていた2010年、クラウドコンピューティング専門の事業戦略・企画開発のブリスコラを立ち上げた。

一方、創業82年の歴史を持ち、港湾事業を手掛ける家業の協立海上運輸(北海道釧路市)が業務のシステム化に取り組んでいた。そうした中、ブリスコラがクラウドを活用したシステム化に携わっていった。

構築したシステムは、「マリコン(マリンコントラクター)」と呼ばれる、ゼネコンの中でも海洋土木に特化した大手建設会社を含め、業界から注目されるようになった。また、「スマートフォンを活用した船舶事故防止分科会」を設置し海上の安全対策に取り組む国土交通省からも関心を持たれ、アドバイスや協力を求められたこともあった。下川部社長は次のように話す。

「海事産業はもちろん、関係省庁からもこうしたシステムが求められていることを知り、事業化を考えるようになりました。ベンチャーキャピタル(VC)から資金調達を受けアイディア設立に至りました」

陸上側と船舶側で情報共有業務効率と安全性を向上

アイディアは18年から1年半を掛け「Aisea」を開発し19年7月に提供を開始した。

「海事産業ではシステム化が遅れていましたが、人手不足や働き方改革などを背景に、業務効率化のためにシステム化は避けて通れない状況にありました」

例えば、船舶の動静把握を電話や無線で行うことは陸上側の業務負荷が高い。そこで「Aisea」は、船舶の業務をデジタル化するシステムを開発し、業務効率化を図った。

船員が手書き・FAXで共有していた動静連絡は、船舶のタブレットから送信することでペーパーレス化を実現でき、陸上側の情報共有の手間や土日出勤などを削減する業務効率化が可能になる。

実際、「Aisea」を導入した海運事業者の丸三海運(大阪市大正区)は、デジタル動静連絡の導入により業務効率化を進め、社員の休日出勤をなくすなど成果を上げている。

「Aisea」は基本機能として、リアルタイムの動静把握(船舶の位置、船首方位、速力などを地図上に表示)、航跡記録の自動保存、船舶書類のクラウド一括管理、船員管理、衝突予防機能などを搭載。必要に応じて付加できる、デジタル動静連絡、動静連動カメラ、気象海象データ連携などのアドオン機能を用意している。

また、大型船舶が搭載する高価な航海計器を小型船舶が導入するのは難しい。そこで、航海計器のデータや機能をスマートフォンやタブレットのアプリに集約し、小型船舶でも安全航行に必要な船舶の動静状況を把握できるようにし、衝突の危険を知らせるアラーム、無線機能などの機能を搭載した。

海事産業に特化した従来システムにない強み

20年には、VCからさらに資金調達したほか、東京海上日動火災保険と資本業務提携した。海事産業DXのプラットフォーマーとしての認知度も高まり、他社との協業も増えていった。

例えば、三菱造船と新日本海フェリーが共同で行う大型カーフェリーの無人運航船の実証実験では、アイディアが陸上監視システム開発を担い、セキュアなデータプラットフォームを開発した。

また、一般財団法人日本気象協会との協業では、同協会の気象海象情報・最適航路を「Aisea」に取り込み、リアルタイム船舶動静情報と重畳表示した情報を陸上管理者に提供し、船陸間の円滑なコミュニケーションを実現することで安全航行を可能にした。

さらに、船舶用レーダーを製造・販売する東京計器との協業では、東京計器が開発した船舶同士の衝突防止技術「DAC」の最新版を「Aisea」に搭載した。

「協業が増えているのも、海事産業向けのITに特化したプラットフォームとして評価されているからです。プラットフォームのさらなる機能向上に力を注いでいきます」

業界からの評価を示すように、今期の売上高は前期の3倍に拡大する見込みだ。今後は海外展開に乗り出す。大手海運会社への導入を図るほか、提携する東京海上日動火災保険の海外ネットワークを生かし顧客を開拓していくとしている。

また、「Aisea」の活用機会の拡大として洋上風力事業の支援や、自律航行への研究開発といった未来の海事産業の発展に向けた活動も進めている。 

操船支援や陸上とのコミュニケーションに「Aisea」が使われている船内の様子
操船支援や陸上とのコミュニケーションに「Aisea」が使われている船内の様子
会社概要
設立 2017年11月
資本金 3億1,502万円
本社 東京都渋谷区
事業内容 海事産業プラットフォーム 「Aisea」の開発・運用
https://aidea.biz