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中部経済活性化のためにはスタートアップ育成が重要 日本銀行 中島健至

日本銀行名古屋支店 中島健至

中部経済を引っ張る自動車業界は、国内外の需要は旺盛だが、部品供給面の制約や原材料費高騰の難題に直面している。また感染症の再拡大は、個人消費の回復にも影を落としている。中部経済の現状について、中島健至・日本銀行名古屋支店長に聞いた。(雑誌『経済界』2022年11月号より)

日本銀行名古屋支店 中島健至
日本銀行名古屋支店長 中島健至
なかじま・たけし――1965年京都府生まれ。89年京都大学経済学部卒業後、日本銀行入行。2013年福島支店長を経て、政策委員会室審議役、総務人事局審議役、政策委員会室長を務め、22年5月より名古屋支店長。

── 日銀が発表した7月の「金融経済動向」で、東海3県(愛知、岐阜、三重)の景気について「持ち直しの動きが一服している」と判断した要因は何ですか。

中島 一番大きな背景は、企業の生産活動が全体として足踏み状態にあることです。7月の日銀支店長会議報告でも、個人消費がサービス業を中心に良くなっている点は他地域と同様でしたが、当地は、主力である自動車が計画通りの生産水準をなかなか実現できない状況にあることが、経済の下押し要因となっていました。世界的な半導体不足や5月までの上海ロックダウンに伴う部品供給の制約が大きく影響しています。自動車の需要自体は国内外とも強いので、部品・部材の供給が改善していけば、当地経済も全体として盛り上がっていくとみています。また、個人消費は、感染者数が再び拡大傾向にある中、宴席や旅行のキャンセルも出てきており、先行きを心配しています。

── 円安の影響はどうですか。

中島 当地は輸出産業が多いので、収益的に何らかのプラスになっている企業も少なくないとは思いますが、そうした企業の協力会社や取引先の中には、原材料費の高騰に苦労されている企業も少なくないという現実があり、地域経済全体で見ると、景況を大変厳しいと感じている方が多いと思っています。

── 金融機関の貸し出しが7月は増えています。要因は何でしょうか。

中島 一つには、カーボンニュートラル対応の設備投資や研究開発投資、それにDX対応や物流効率化への対応など、新たな資金需要が出てきている点が挙げられます。また、住宅ローンも伸びています。企業が元気で、そこで働いている方々の住宅需要も強いので、多くの金融機関が住宅ローンに力を入れているようです。

── 創業支援や起業家育成についてはどのような状況ですか。

中島 当地では、地元の経済団体などが、積極的にいろいろなタイプの創業支援や起業家育成の事業を手掛けておられます。また、名古屋市の鶴舞に大規模なスタートアップ支援拠点が整備されつつあります。国もそうですが、県や自治体も起業家支援の施策に取り組んでおられますので、大学等との連携で新たなシーズ(種)がこの先どんどん芽吹いていってほしいと思います。当地はモノづくりの技術が集積しており、大学や研究機関も多いので、将来的に大きな成果が出てくることを期待しています。スタートアップの育成は、地域経済を盛り上げる意味でも重要なことだと思います。