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インバウンドのラオックスが仕掛ける国内市場戦略 ラオックスホールディングス 飯田健作

飯田健作 ラオックス

総合免税店を主軸にインバウンドビジネスのパイオニアとして知られるラオックスは、今やリテール、海外、アセット・サービスの3つの事業を手掛ける総合サービス企業グループとなった。中でも直近はリテール事業の中核企業シャディに注力し、オムニチャネルの構築、新業態への進出など国内市場向けに新しい取り組みを始めている。文=井上 博(雑誌『経済界』2022年12月号より)

飯田健作 ラオックス
飯田健作 ラオックスホールディングス社長
在アメリカ合衆国日本国大使館、アクセンチュアを経て、ウォルマート・ジャパンホールディングス/西友、日本トイザらス、ウォルト・ディズニー・ジャパンでバイスプレジデントを歴任。2020年11月よりラオックス副社長、21年3月よりラオックス(現ラオックスホールディングス)社長に就任。

オムニチャネル強化で一人一人のギフトに応える

 2018年にラオックスのグループ企業となったシャディ。「シャディは一冊の百貨店」でおなじみのギフトカタログと、全国47都道府県にボランタリチェーン店「シャディ店」とFC店「サラダ館」を1400店展開するギフト業界の老舗である。創業97年目を迎えた今年の夏、同社は業界初となるメタバース空間にギフトの「メタバースカタログ」を開設し話題となった。

 「サマーギフトを揃えた今回の『メタバースカタログ』は、メタバース空間で視覚的に選べるギフトカタログです。カタログやECサイトよりも一覧性・隣接性・視認性に優れています。将来的にはメタバース空間にアバターを常駐させ、店舗同様に個客の話をじっくり聞くとともに、ギフトビッグデータを駆使しリコメンデーションエンジンを回します。メタバース、実店舗、EC等を連動させた形で最適なギフト選びをオムニチャネルで展開する形に発展させていきます」と、説明するのはラオックスホールディングス社長の飯田健作氏。

 他の小売業同様にギフトのEC利用者も増えているが、定番商品が多いギフトだけにEC同士は価格の安さを競い合っている。中でも業界大手である同社は商品企画や価格で常にベンチマークにされてきた。

 「シャディは『ギフトとは贈る相手の笑顔を想像しながら感謝の気持ちを込めるもの』と考え、顧客の話をじっくりと聞き、要望に合ったギフトを提案するコンサルティング営業を得意としてきました。また、全国の店舗は冠婚葬祭などのフォーマルギフトでの地域特有の〝しきたり〟にも精通し、相談やアドバイスも行ってきました。ギフト専業として長年培った知識と品揃えというポテンシャルを持つだけにデジタルマーケティングを強化すれば、価格競争に巻き込まれない独自のポジションが獲得できます。『メタバースカタログ』もそのための取り組みのひとつです」と、飯田社長。

 実は、ギフト市場はコロナ直後の落ち込みを除いて10年以上伸び続けている。冠婚葬祭出産、中元歳暮などの「フォーマルギフト」に加え、近年は誕生日や結婚記念日など近しい間柄で贈り合う「カジュアルギフト」、仕事上のちょっとしたお礼やお返しとして贈る「プチギフト」、SNSやメールで贈れる「ソーシャルギフト」など多様な形が続々と登場し、「非常にエキサイティングな市場」(飯田社長)。

 これらのギフトにも通底するのが飯田社長の言う「贈る相手の笑顔を想像しながら感謝の気持ちを込めるもの」という昔からある価値観。新型コロナの影響で会えなくなった家族や友人同士の日頃の感謝を表すコミュニケーションの一手段として新業態のギフトは急増し、同社のカタログや特設サイトからの注文も着実に増えている。

 「ギフトにおいてもまずスマホで商品を検索してからECや店頭に出向き購入するというパターンが多くなっていますが、スマホの一画面での商品表示数が限られるため〝贈りたい、贈りたくなる〟ギフトにたどり着けず機会の損失が起きています。当社はカタログと店舗、ECやSNS、メタバースカタログとお客さまとのタッチポイントをシームレスにつなげ、オムニチャネル基盤の強化によって、〝贈りたい、贈りたくなる〟ギフトを見つける機会を広範に提供していきます」

 フォーマルギフト、カジュアルギフト、プチギフト、ソーシャルギフトなど、ギフトシーンにおける贈る目的や形、相手はひとそれぞれ。シャディは一人一人の要望に応えられるよう、オムニチャネルを軸に、ギフト市場でのシェア拡大を目指す。

アジアの味と食品への感情が購買意欲を生み出す

ラオックス_亜州太陽市場外観
ラオックス_亜州太陽市場外観

 今年10月から純粋持ち株会社に移行し、子会社各社の成長を加速させていくことに注力するラオックスホールディングス。それに先行して昨年11月に「アジアの本場・本物の味を日本の食卓に届ける」をコンセプトにしたアジア食品の専門店「亜州太陽市場」を東京・吉祥寺にオープンした。ラオックスの主軸である日本製品を揃えたインバウンド向けではなく、国内向けに中国・韓国・ベトナム・タイなどアジア諸国の食品を揃えた同店は、その品揃えの多さと深さが話題となっている。

 「今年7月に世田谷区の千歳船橋に2号店、杉並区の浜田山に3号店をオープンしました。アジアの17の国と地域の食品約2千種類を取り揃え、アジアにネットワークを持つラオックスグループだからできる品揃えが当店の強みです」と、飯田社長は自信を持つ。

 アジアの食品も扱う人気の高級スーパーや食品専門店、激安スーパーが全国展開したことで、アジア食品の市場は拡大している。今回、出店した店舗周辺には人気の食品専門店やアジア食品を揃えた地場のスーパーもあり、アジア食品の激戦区に思えるが、むしろ潜在的なニーズがあると考え出店した。

 「どの地域も『仕事で赴任し住んでいた。出張や旅行で何度も行った』というアジア諸国の本場の味や食品になじみが深い方々が多く住むところです。先日も年配のご夫婦が来店され、商品を手に取っては『懐かしい!懐かしい!』と大量の商品を買われるのを見ましたが、かつて赴任した国の懐かしい本場の味や食品を久しぶりにご自宅でも楽しまれたと思います」

 アジア伝統の調味料や食品、初めて見るドリンク、SNSで話題の菓子など、同店には多彩な品揃えの数だけタッチポイントがあり、来店客それぞれの思い出や好奇心、ファン心理といった感情が購買意欲を生み出す。

 「一部の『シャディ店』と『サラダ館』では『亜州太陽市場』の商品を既に販売開始しています。シャディギフトモール(EC)内にもショップインショップの形で出店しており、店舗とECの両方で相乗効果が出ています」と、飯田社長。

 新型コロナの影響の中でDXを急速に進め、新しい事業、業態に挑戦してきたラオックスホールディングス。入国条件の緩和によりインバウンドの復活も見えてきた今、どう攻勢に出るのかも注目したい。