経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

スタートアップは北海道の将来を支える成長のドライバー積極的な支援に取り組む 北洋銀行 頭取 安田光春

北洋銀行 頭取 安田光春

北海道経済は資源価格の高騰やインバウンドの激減などに直面、厳しい状況にある。地域金融機関として資金面を中心に地元経済の発展に貢献してきた北洋銀行は、スタートアップの支援にも積極的に乗り出している。現状の課題や今後の課題を聞いた。(雑誌『経済界』「新時代を切り拓く北海道特集」2023年2月号より)

北洋銀行 頭取 安田光春
北洋銀行 頭取 安田光春
やすだ・みつはる──1959年北海道生まれ。83年慶應義塾大学商学部卒業。北洋相互銀行(現・北洋銀行)入行。宮の沢支店長、人事部調査役(石屋製菓出向)、執行役員融資第一部長、取締役経営企画部長、常務取締役などを経て2018年から現職。

グループ会社との連携でコンサルティング業務を強化

── 北海道経済の状況はどのように受け止めておられますか。

安田 日本経済は新型コロナウイルス感染拡大の長期化による経済活動の停滞、円安、ウクライナ情勢等による資材・資源価格の高騰、そして物価の上昇等、先行きの見通せない厳しい状況にあります。交通、物流、暖房等でエネルギー消費が高い北海道にとっては、国内の他の地域に比べて、特に資源高の影響は大きいと言えます。

 業界別では、道内経済を牽引してきた観光関連産業への影響が甚大です。政府は新型コロナウイルスの水際対策を大幅に緩和するとともに、全国旅行支援をスタートさせましたが、外国人観光客の復活にはまだ時間を要することから、厳しい状況は続くものと認識しています。

── 厳しい経営環境の中で強化している取り組みはありますか。

安田 多様化しているお客さまニーズに応えるため、グループ会社との連携強化を図っています。法人のコンサルティング業務全般を担っている子会社の北海道共創パートナーズ(HKP)は、銀行からの出向者をはじめ、専門スキルを持った職員の育成を図るなど連携を強化しており、コンサルティング件数は着実に増加しています。同様に北洋証券でも、銀行からの営業職出向者を拡充するなど連携を強化しています。

── SDGsへの取り組みは。

安田 2021年度は、法人のお客さまのSDGsや脱炭素への取り組み支援を目的とした「ほくようサステナブルローン」や発行金額の一部を小学生向けのSDGs教育教材製作に充当する「SDGs(教育)私募債」の取り扱いを開始しました。22年度は、SDGs経営の実践をサポートする「SDGsコンサルティング」の取り扱い開始や成年年齢引き下げを踏まえた金融教育の促進などに取り組んでいます。

スタートアップを支える人材の確保も急務

── スタートアップへの支援についてどのようにお考えですか。

安田 政府は今後5年でスタートアップの数を10倍にするという目標を掲げていますが、北海道においてもスタートアップは成長のドライバーであり、積極的に支援していくべきと考えています。

 当行は既に「北洋SDGs推進ファンド」でスタートアップへの資金支援を実施しています。未開拓の新分野を切り開き、雇用とイノベーションを社会にもたらすスタートアップは、SDGsにも合致します。

 日本で起業家が育ちにくい環境として、資金調達時に個人保証を求められる点がありますが、近年では金融業界全体として、個人保証に依存しない対応に変化しています。当行も資金支援に当たっては事業性の理解を深め、担保、保証に依存しない取り組みに注力しています。

 またスタートアップの成長を支える専門人材の不足が今日的な課題となっています。労働市場の流動性が低い中、専門性に優れた人材は、なかなかスタートアップに移動しません。特に北海道は首都圏の人材にとって賃金水準等が魅力的とは思われません。道内で生まれた技術、アイデアを事業化し、その経営をサポートする人材の確保が大きな課題です。

── 北海道にUターンして働きたい人は多いのではないですか。

安田 Uターンのニーズ自体は高く、その中に潜在的な高度人材はたくさんいると思います。こうした状況を踏まえ、HKPでは首都圏から道内企業へのUターン、Iターン希望者の情報を集約する体制を構築し、足下では月に70件程度、道内で再就職したいハイクラス人材の情報を得ています。実際に、道内における宇宙ビジネスなどのスタートアップに対し、出資等による資金支援に加え、首都圏からのハイクラス人材の派遣を実施しています。

 政府がいくらスタートアップの数を増やすという目標を掲げても、起業に関心を持つ人が急に増えることはありません。重要なのは起業予備軍を増やすための長期的な視点を持った取り組みで、金融機関はこうした課題解決に貢献できると考えています。

── 新しく始めたプロジェクトなどはありますか。

安田 例えば当行は、22年度に「ほくよう金融教室プロジェクト」を立ち上げ、初年度に金融教育対象者を1万人とする目標を立て、年度末には、達成する見通しです。現状、資産形成や金融トラブルに関する講義が中心ですが、一部の大学では「地域におけるスタートアップ企業立ち上げのプロセス」をシラバスに盛り込み、想定の3倍以上の学生が履修することになりました。われわれが考える以上に、学生にとって起業は興味が高い分野かもしれません。

 何もしなければ、北海道のマーケットは縮小していきます。当行はスタートアップに限らず、道内における産業振興支援、個社別の本業支援、事業再構築支援等を使命と捉え、お客さまとともに、北海道のサステナビリティの実現に向けた取り組みに邁進してまいります。