ワールドカップカタール大会で世界に衝撃を与えた森保ジャパン。強豪ドイツ、スペインを倒し、日本サッカーの株を大いに上げた。
そしてもう一つ、株を上げたのがサイバーエージェントによるインターネットテレビ局「ABEMA」だ。過去のW杯では、NHKと民放各局がコンソーシアムを組み、大半の試合を地上波で中継していた。しかし放映権料の高騰もあり、カタール大会では日本戦や決勝戦など、一部しか地上波では放送されなくなったため、サッカーファンからは不満の声が上がっていた。
それを救ったのがABEMAで、全64試合の完全放送に踏み切ったおかげで、アルゼンチンのメッシ、フランスのエンバペ等、世界のスーパースターのプレーを堪能することができた。
このW杯完全放送は、サイバーエージェントにとって「過去最大の投資」(藤田晋社長)であり、そのため同社の今期第1四半期決算は赤字に転落した。しかしそれに見合う成果は十分にあった。ABEMAの昨年12月のWAU(1週当たり利用者数)は過去最高の3409万人を記録。これだけならW杯特需にすぎないが、W杯終了後も前年比4割増を維持している。
藤田社長は「すぐに業績に結び付くわけではない」としながらも、「ユーザーから高く評価され、広告主からも関心を持ってもらえる形になった」「ABEMAの潜在的価値は大きく向上した」と語る。
「広告事業とゲーム事業で利益を積み、メディア事業(ABEMA)に投資し、中長期の柱に育て上げる」(藤田社長)との戦略が実ろうとしている。
(雑誌『経済界』2023年5月号「注目企業2023」特集より)