経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

創業111年の歴史を支える安心堂の挑戦の精神 安心堂 横田孝之

安心堂 社長 横田孝之

時計・宝飾品・メガネ・美術絵画等を取り扱い、静岡県を中心に8店舗・海外1店舗を展開する安心堂。今年創業111年を迎える老舗だ。「振り返ると挑戦の連続だった」と語る横田社長に、飽くなき挑戦の精神について伺った。(雑誌『経済界』2023年11月号 第2特集「リブート中部経済」より)

安心堂 社長 横田孝之
安心堂 社長 横田孝之
 よこた・たかゆき

大正元年創業の老舗の真価は高い技術力と挑戦の精神

 静岡県を中心に8店舗、パリにも支店を持つ時計・宝飾・メガネ専門店の安心堂。その歴史は1912年(大正元年)から始まる。

 創業者の永田龍之介が東京・神田に時計修理専門の個人商店を開店。その後、一家で静岡市に移り住み、安心堂時計店を開店したのが、今から約100年前。横田孝之社長は当時の挑戦についてこう語る。

 「大きく2つの斬新な取り組みがありました。一つは時計の修理代金を修理後1週間請求しなかったこと。この期間はお客さまが時計を自宅に持ち帰って時計の誤差や狂いがないことを確認するために設けており、代金はその後で頂いていました。高い修理技術のある証だとして、お客さまに好評だったそうです。もう一つは本店の屋上に『とんがり帽子の時計台』を設置したこと。正午を告げる音色が町に鳴り響き、時計店の認知を高めました。創業当時からこうした大小の『挑戦』を通じて、現在までの歴史を刻んできました」

 50年、個人商店だった安心堂は株式会社に転換する。2代目の永田正雄氏の時だ。永田氏は主要事業の時計や宝飾品の販売に加え、65年には工芸所を開設し、オリジナルジュエリー「ジュリアン」の製作を開始。当時では珍しい自前のデザイン部門を持ち、他社にはない強みとして磨きをかけていった。これが後の輸入ジュエリーのプライベートブランド「ルシエール」の展開(76年)にもつながっていく。

「オメガ」販売世界一を記録。斬新な販売戦略に海外進出も

 70年元旦は静岡新聞の安心堂の一面広告から幕を開けた。

 前年の69年7月20日、アメリカの月面探査ロケット「アポロ11号」が人類で初の月面着陸に成功した。その時に船長のニール・アームストロングと操縦士のバズ・オルドリンが装着していた腕時計がオメガ「スピードマスター」だった。オメガは一躍有名な時計ブランドとなった。

 これを記念して、オメガ「月面着陸モデル」が発表され、安心堂ではその販売のために新しい広告販売戦略に打って出る。それは予約販売を受け付けるというもので、その広告手段として元旦の静岡新聞に一面広告を載せたのだ。

 「当時は明るい未来と希望に満ちあふれていました。宇宙時代の幕開けを感じさせる広告は時代の象徴となり、皆が目を見張ったそうです」

 同モデルは全世界で750個限定販売され、うち三十数個を売り上げた安心堂が販売世界一を記録した。新聞広告と店舗での販売戦略が奏功した形だ。

 この年、安心堂は宝飾専門店としてもう一つの挑戦をスタートする。米国進出を果たし、ロサンゼルス店を開設したのだ。

 ロサンゼルス店は在米日本人や現地の顧客に愛され、コロナ禍でやむなく撤退するまで、同社は海外事業のノウハウを蓄積していく。米国に店舗を持つことで、最先端のデザインや宝飾品文化に触れる機会を得た。さらには国際的な宝石の仕入れルートを獲得、国内での宝飾品の輸入・販売にも貢献した。

 この事業ノウハウを生かし、76年にはフランスに進出。パリ日航ホテル店を構えた。現在は高級宝飾店が立ち並ぶラペ通りに拠点を移し、リュー・ド・ラペ店を展開している。

 このように海外進出をいち早くスタートした安心堂。今後はパリでの販路拡大とさらなるグローバル戦略を見据えている。

安心堂の挑戦を支えるのは「真・善・美」の経営理念

 こうした安心堂の挑戦の歴史は数多くあるが、それらの根底にあるのが本物の豊かさを追求する「真・善・美」の経営理念だ。

 「挑戦といっても、全ての物事に挑戦して当たって砕けろ、というわけではありません。安心堂には『真・善・美』の3つの言葉に表現される経営理念があり、これを行動の指針として社員全員で共有しています」

 同社には「真・善・美」の全てが満たされない商品は提供しないという経営姿勢と共通認識がある。

 「私たちは一時期の流行に流されず、本当に美しい商品を最適な価格で提供することを心掛けています。店舗にご来店するお客さまだけでなく、そのご家族やご友人にもお客さまになっていただくことを目指しています。目標は深い信頼関係を築き上げること。時計・ジュエリー・メガネ・美術品を取り扱う当社では、お客さまの『欲しい』という気持ちに向き合っています。企業として常に誠実であり続けるとともに、経営理念に基づき、お客さまに魅力的な商品を届ける努力を惜しみません」

 今後については、「変化の激しい現代に対応できる持続可能な経営を進めていきます。利益を上げるだけでなく、静岡地域とお客さまの生活環境の変化を感じ取り、事業を通じて地域の課題解決を図り、地域と共に歩む企業として成長していきます」と語る横田社長。変わらずに持ち続ける経営理念の下、創業111年を経た老舗企業はこれからも挑戦し続ける。 

会社概要
創  業 1912年(設立1950年3月)
資本金 5,000万円
売上高 68億6,894万円
本  社 静岡県静岡市葵区
従業員数 170人
事業内容 ジュエリー・時計・メガネ・絵画美術品の販売
https://www.anshindo-grp.co.jp/