経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

初の女性社内取締役としてサステナビリティ経営を推進 長谷工コーポレーション 吉村直子

長谷工コーポレーション 吉村直子

今年6月、長谷工コーポレーション初の女性社内取締役兼執行役員に就任した吉村直子氏。入社以来、長谷工総合研究所で高齢者の居住環境に関する調査研究に従事してきた。今後はグループ全体のサステナビリティ推進担当として、新たな課題に挑戦していく。(雑誌『経済界』2023年12月号「企業改革の実践者たち」特集より)

長谷工コーポレーション 吉村直子
長谷工コーポレーション 
取締役兼執行役員 吉村直子 よしむら・なおこ

研究職としてのキャリアをグループ経営に生かす

 長谷工コーポレーションは2025年3月期を最終年度とする中期経営計画において、CSR経営を重点戦略の一つに掲げている。それを牽引するのが17年にCSR部として設立され、今年4月改称したサステナビリティ推進部。6月に同社初の女性社内取締役兼執行役員に就任した吉村氏のミッションは、CSR経営を新たなフェーズへと導くことだ。

 吉村氏は入社以来、集合住宅を中心としたマーケット分析や住環境に関する各種調査研究を行う長谷工総合研究所で、高齢者の居住環境や高齢者向け住宅・施設入居者の生活実態などの調査・コンサルティングに従事。長谷工本体の取締役就任の打診は、「青天の霹靂だった」と言う。

 「グループ全体のサステナビリティ推進が私に務まるのかという気持ちはありました。ただ、当社はCSR経営に真摯に取り組んでおり、ゼロからのスタートではないという点で不安はありません」と話す。

 吉村氏ならではの視点が期待されるのが、高齢者向け住宅や日常生活を支えるサービスで培った知見をグループ全体のサステナビリティ推進に生かすことだ。

 「これまで、老人ホームのように高齢者を1カ所に集めて集中的にケアサービスを提供する領域を中心に調査研究を行ってきましたが、多くの生活者は住み慣れた地域や住まいに長く暮らしたい。今後はサステナビリティの観点から『安全・安心・快適』かつ『豊かな生活』を失うことなく、今の地域や住宅にどう長く住んでもらえるかにも配慮し、人生100年時代の住まいや居住環境を掘り下げていきたい。住まいのサステナブルデザインなども提案していきます」

長谷工の存在意義についてもう一度議論を深めていく

長谷工コーポレーション 吉村直子
長谷工コーポレーション 吉村直子

 長谷工では事業軸と社会軸の観点から優先的に取り組むべき課題をマテリアリティとして特定し、事業環境や社会情勢などを考慮して適宜見直している。5月に見直したマテリアリティは「住んでいたい空間」「働いていたい場所」「大切にしたい風景」「信頼される組織風土」という4つのCSR取り組みテーマを盛り込んでいる。

 例えば環境配慮型住宅の供給をはじめとする脱炭素の取り組みなど気候変動への対応や、事業に関連する企業や組織と連携して製品・データなどの流れをどう管理するかというサプライチェーン・マネジメントは、特に重要な課題だ。

 人的資本経営に関しては、ダイバーシティ&インクルージョンの重要性が年々増している情勢に鑑み、4月に「長谷工グループ ダイバーシティ&インクルージョン推進方針」を策定。以前から女性幹部社員による社内ワーキングでの議論、経営陣に対する働き方改革の提案などの活動を行ってきた。この経緯も踏まえ、年齢・性別・国籍・身体の状況など人々の個性や違いを認め、受け入れ、生かす組織づくりを目指し、女性活躍推進に留まらない各アクションに落とし込む方針だ。

 会社で重要な役割を与えられミッションを遂行するに当たり、今や女性であることを強調する時代ではない。吉村氏も性別による格差を意識したことはほぼないと言うが、建設業界で女性かつ社内出身の取締役は珍しい。あえて女性であることを前面に打ち出し、社内外にメッセージを発信する必要性を感じている。

 「男性社員は数が多く、尊敬する上司や先輩の背中を見て成長できるかもしれませんが、数が少ない女性社員はそれも難しい。そこで私のような立場の人間が、『あなたが頑張って成長する姿をしっかり見ています』と言葉や態度で示さなければなりません。人は評価してくれる人がそばにいて、初めて大きな力を発揮できます」

 現在、長谷工コーポレーション単体の女性社員比率は15・8%、女性管理職比率は4・3%。グループ全体では同30・5%、同9・8%。「ステークホルダーは人的資本に関する情報開示にも注目しているので、当社もいずれ覚悟を示さなければなりません」と語る。

 重要テーマに対する会社の姿勢を一層強く打ち出す節目となりそうなのが、25年度からの次期経営計画だ。そこに向けて、会社の存在意義を含めた根本的な議論を深めていきたいと言う。

 「当社には『都市と人間の最適な生活環境を創造し、社会に貢献する。』という企業理念と5つの行動指針がありますが、今後は会社としてどうあるべきかというパーパスについてもしっかりと議論し、定めていきたい。その上でサステナビリティ経営を考え、個別の重要課題に取り組んでいく流れを明確に見えるようにしていきます」

 時代の変化に合わせ、長谷工グループはどのように進化し続けていくのか。その手腕に期待したい。

長谷工コーポレーション
会社概要
設  立 1946年8月(創業1937年2月)
資 本 金 575億円(2023年6月末現在)
売 上 高 7,061億6,200万円(2023年3月期)
本  社 東京都港区
従業員数 2,523人(2023年6月末現在)
事業内容 建設事業、不動産事業、エンジニアリング事業
https://www.haseko.co.jp/hc/