経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

メーカーと協力してつくったサプライチェーンの研究拠点 亀田晃一 トライアルホールディングス

トライアルホールディングス 亀田晃一

トライアルホールディングス(以下、トライアルHD)は九州ナンバーワンの小売業で、早くからIT投資を行ってきた。最近では、福岡県内に食品メーカーなどと共に街をまるごと研究拠点化する試みを始めている。その狙いを亀田晃一社長に聞いた。(雑誌『経済界』「半導体特需に沸く九州特集」2024年1月号より)

トライアルホールディングス 亀田晃一
トライアルホールディングス 亀田晃一

居抜きで店舗網を拡大運営にはデータが不可欠

── トライアルHDの今6月期決算は、売上高が6531億円、店舗数はスーパーマーケットやディスカウントストアなど285店舗、九州では圧倒的強さを誇ります。その理由を教えてください。

亀田 トライアルは1981年にあさひ屋として設立されましたが、92年にディスカウントストア「トライアル」を開店し、本格的に小売業に進出しました。そして2000年頃から売り上げが大きく伸び始めます。当時の日本は、都市銀行や大手証券会社が破綻するなど金融恐慌の真っただ中。その影響で九州の小売業も倒産や閉店が相次ぎました。トライアルはそうした店舗に居抜きで入り、店舗数を増やしていきました。

 それまでのチェーンストアは、いかに標準化するかがテーマでした。同じような立地に同じような店をつくり同じようにオペレーションをすることで効率を上げてきた。ところが居抜きの場合、店舗は大きさも形もばらばらですから標準化できない。店舗同士も離れていて、ドミナント戦略が難しい。そこで重要になってくるのがデータです。

 創業者(永田久男氏)がエンジニア出身ということもあり、1996年頃からPOS開発を自力で始めました。それによってデータが蓄積されていくと、今まで見えなかったものが見えてくる。それまでバイヤーの勘に頼っていたものが、データに基づいたマーチャンダイジングができるようになる。これがあったからこそ、居抜きの標準化されていない店舗でもオペレーションがうまくいった。つまり、今でいうDXに取り組んでいたところに、金融危機が起き、容易に出店できるようになった。われわれの成長の原動力となりました。

短期的な利益は追わず日本社会の利益を追求

── 小売業の中ではいち早く経営にITを取り入れたトライアルHDですが、福岡県宮若市の廃校を拠点に、スマート店舗や商品開発などに取り組んでいますね。街をまるごと研究所化したと話題になりました。

亀田 われわれはこれまでずっと、サプライチェーン全体をどう最適化するか、そのためにデータをどう活用するか、どのようなデバイスを開発しなければならないか、をずっと考えてきました。ただし、1社だけでやれることは限られています。そこで食品メーカーなどにもお声がけして、宮若でサプライチェーンのエコシステム構築に取り組んでいます。

 日本でDXが進まないのはシリコンバレーがないからです。つまりDX関連の企業の集積がない。集積があれば、例えばカフェに行って外部の人間と話しているうちに新しいことが生まれるかもしれない。宮若ではそれを目指します。

── メーカーの人が福岡まで来るのは大変です。

亀田 普段はリモートです。でも月に1度か2度は集まってもらう。宮若には、福岡空港から1時間足らずで行けますから、その点でも便利です。集まる人の中にはマーケティングレベルの高い人が多い。その人たちが話し合うことでさらに高いレベルのデータマーケティングができるようになる。しかもわれわれの店舗を使って実証実験もできる。そういう環境は日本にはなかなかありません。2021年にスタートしましたが、既に決済やお薦め商品を表示することのできるカートなどを実用化しています。

── ただでさえ強いトライアルが、さらに強くなっていきますね。

亀田 このプロジェクトを始める時に言ったのは、目先の利益を追うのはやめて日本の社会的利益を一緒に追求しましょうということです。ですから成果を独占する気はありません。他社にも提供していきます。

 宮若以外でも、他社との協力を進めています。22年にはイオン九州さんなどと一緒に九州物流研究会を立ち上げました。「物流2024年問題」が目前に迫っています。このままでは日本のサプライチェーンのインフラは維持できません。そのためにわれわれとして何ができるか話し合っています。

 今後、人口減少が続くことで、物流だけでなくさまざまな課題が出てきます。その課題を解決するには独力では不可能です。ですからいろんなパートナー企業と一緒になって生産性の高いサプライチェーンを構築していく。そしてその果実を多くの人に知ってもらい、かつ提供する。そんな会社を目指します。

 

会社概要
設立   2015年9月
資本金  1億円
売上高  6,531億円(23年6月期・連結)
本社   福岡県福岡市東区
従業員数 5,993人(23年6月30日現在・グループ連結)
事業内容 小売、物流、金融・決済、リテールテックなど、各事業を中心とした企業グループの企画・管理・運営(純粋持株会社)
https://trial-holdings.inc/