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直販とDXを強みに目指すは塗装業界のThe Everything Store 菅原徹 アステックペイント

アステックペイント 菅原徹

業界で唯一の直販体制で急成長する塗料メーカーのアステックペイント。取引にいち早くDXを浸透させ、業界初のFC組織も立ち上げるなど、塗装会社の業務を支援する。見据えるのはメーカーを超えた〝The Everything Store〟だ。(雑誌『経済界』「半導体特需に沸く九州特集」2024年1月号より)

アステックペイント 菅原徹
アステックペイント 菅原徹

豪州塗料の輸入販売から塗料メーカーへ

 建築塗料分野で成長著しい福岡発の塗料メーカーがある。2000年に創業し、主に住宅向け塗料を製造販売するアステックペイントだ。

 社名は菅原徹社長が商社マン時代にオーストラリアで出合った塗料「アステックペイント」に由来する。独立開業後、日本総代理店として「アステックペイント」の輸入販売からスタートした同社。10年頃から自社オリジナルの塗料開発に着手し、13年に商品化。現在は住宅向けを主流に、アパート・マンション向け、工場向けの建築塗料を全体で約40種類揃えるまでになった。中でも外壁の美しさを長く保ち汚れにくい機能を持つ超低汚染塗料の「リファイン」シリーズや、汎用性塗料を独自に品質向上させた次世代型ハイクラス塗料「REVO(レボ)」シリーズが売れ筋商品となっている。

 同社最大の特徴は、業界で唯一、卸業者を介さない直販体制を敷いている点だ。創業以来、自分たちの足で塗装会社を開拓し続け、今では全国で約3500社が同社製品を取り扱う。塗料原料の仕入れも原則、化学メーカーから直接取り寄せる。

 22年1月には手狭になった本社を福岡県糟屋郡志免町からJR博多駅に近い福岡市内の都心部に移転。23年4月には茨城県古河市の関東工場を拡張移転し、生産能力を従来の3倍にした。

ITツールやFC組織で塗装会社の業務を支援

 近年の売上高は、20年12月期が39億円、21年12月期が58億円、22年12月期が69億円。今期は90億円を見込む。推移を見ると、コロナ禍で急拡大しているのが分かる。

 理由は、塗装会社とのやり取りにおいてオンライン化を一気に進めたこと。「塗装業界はアナログの世界。業界全体に対面もかなわず取引先とのコミュニケーションが滞っていた時に、当社は他に先駆けて塗装会社にリモートツールの活用を促した。使用マニュアルを配り、1社1社セッティングをして回った。おかげでコミュニケーションも密に取れ、各社との距離が急激に縮まった。そのことが口コミで広がり、新規開拓にもつながった」(菅原社長)という。

 このほかコロナ禍において、業界初となるメディア型ECサイト「AP ONLINE」も立ち上げた。塗装職人が現場で役立てる情報やアイテムを紹介するウェブメディアと、塗料や関連資材の購入から決済までできるサイトが一緒になったもので、商品購入の利便性と有益情報を得ることができる点が塗装会社の間で好評を博している。

 ちなみに、現在、同社の売り上げの約9割はオンライン上の受注によるものといい、この点も「業界で当社だけ」だという。

 いわば、業界内で先んじてDX化が進んでいるわけだが、これらは今に始まったことではない。

 同社では既に13年頃から塗装会社に向けて工事進捗が社員間で瞬時に共有できるアプリを開発。21年2月には現場管理専用アプリ「現場ポケット」を商品化し、2万人以上に利用されている。このように従来から塗装会社に向けてITツール活用を提案し、業務負担軽減に一役も二役も買っている。

 さらに塗装会社の業務支援、営業支援につながる業界初の仕組みも構築した。09年に立ち上げた住宅塗装専門のFC組織「プロタイムズ」がそうだ。FC本部の同社は、加盟する塗装会社に対して、HP制作や営業開拓支援、人材採用・教育支援などを行う。スタート当初40店舗だった加盟店数は現在250店舗を超え、加盟社数全体の売り上げは280億円となっている。

2030年に取扱会社5千社へ

 同社は今後の成長目標として、まずは来期売上高で100億円を掲げる。また、30年時点で取扱塗装会社の数を現在の3500社から5千社へ増やしたい考え。それに伴い、建築塗料分野で業界2番手を目指すという。国内市場は現在、パイの奪い合いが続いているが、前述の成長目標は「達成できる」と自信を見せる菅原社長。というのも、「塗装会社のためにできることはまだまだある」からだという。

 同社では、塗装会社に向けて塗料販売のほかに「プロタイムズ」に見られるように業務支援、営業支援等のサービスを展開しているが、今後はそれをさらに強化する計画だ。その一環として、塗装会社の人材不足を解消するために、電話対応業務を一部、同社で請け負っている。これをきっかけにして、今後も幅広くバックオフィス業務を請け負っていく考えだ。

 これまで紹介してきたような塗料販売にとどまらないスキームを実現できたのは、「直販体制によって、塗装会社の困り事、ニーズを直接聞き、その解決方法を地道に探ってきた結果だ」という。「これからも塗装会社が求めるものは全てやっていく」と菅原社長。塗料メーカーの枠を超え、塗装業界のThe Everything Storeを目指す。 

会社概要
設立   2000年10月
資本金  7,276万5,000円
売上高  90億円(23年12月期見込)
本社   福岡県福岡市博多区
従業員数 330人
事業内容 建築用塗料の研究開発・製造・販売、住宅塗装の営業支援ネットワーク
https://astecpaints.jp/