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活力と潜在力に富んだ世界に誇る関西パワーで逆境乗り越え発展を 鳥井信吾 大阪商工会議所

大阪商工会議所 鳥井信吾

昨今の外的要因により経営環境に打撃を受ける中小企業は少なくない。しかし関西地域には潜在的価値を秘めるヒドゥンチャンピオンも多く存在すると鳥井会頭は見ている。イノベーション創出機会の支援など、関西経済の発展を見据えた取り組みを伺った。(雑誌『経済界』2024年3月号「関西経済の底力特集」より)

大阪商工会議所 鳥井信吾
大阪商工会議所 鳥井信吾
とりい・しんご──1953年大阪府生まれ。甲南大学理学部卒業、南カリフォルニア大大学院修了(生命科学)。83年にサントリー入社。2014年よりサントリーホールディングス副会長。大阪青年会議所理事長、関西経済同友会代表幹事を歴任し22年3月より大阪商工会議所会頭。

海外情勢の影響で企業に明暗も幅広い伴走支援体制を確立

── 関西経済を取り巻く環境をどのようにご覧になりますか。

鳥井 海外情勢の影響はこれまでに増して大きく、関西経済の明暗を分けていると言えるでしょう。コロナ前の水準に戻ったインバウンドの関連業界は活況ですが、人手不足などによって供給が追い付かず、ビジネスチャンスを生かし切れない企業も多いようです。また関西には中国顧客との取引比率の高い企業が多く、中国経済の影響を強く受けています。 円安傾向は、海外売上高比率の高い企業やその下請け企業にとっては好材料であるものの、国内に市場を置く中小企業にとっては厳しいビジネス環境と言えるでしょう。原価高騰の状況下で価格転嫁の困難な企業が多く存在することも事実です。

 大阪商工会議所では、5つの支部に加え、大阪府中小企業活性化協議会や大阪府事業承継・引継ぎ支援センターを通じた経営支援を行っています。金融機関では網羅し切れない小規模事業者にまで伴走支援ができることは、大きな強みであると言えるでしょう。

 また発展的な取り組みとして、高い技術力を持つ町工場を中心にネットワーク体制を構築しつつあります。スタートアップ、中小・中堅企業の経営者に話を伺っていると、優れた戦略的思考をお持ちの方が多く、大いなる可能性を感じています。こうした優秀な経営者と、産学連携を得意とする大学、さらに高い技術を有する町工場を結ぶことで、イノベーションを起こすべく基盤づくりを行っています。

 特にフォーカスしているのは、従来から力を入れてきたウェルネス・医工連携の分野です。関西は、高度な医療技術を裏付ける先端医療や基礎医学といった先進的研究・技術開発が世界でもトップクラスです。アカデミックの視点と、優れた技術を有する地元企業によって、新たな医療機器の開発等を目指します。こうした医工連携は、医師や医療従事者のニーズに対し、大手企業にはない小回りを生かして直接的に貢献できると見込んでいます。

 2023年に開催したマッチングイベントでは、イノベーションの可能性に満ちたプレゼンテーションと会場に溢れる参加者たちの熱気に、大きな手応えを感じました。また大阪・関西万博の大阪ヘルスケアパビリオンへの展示出展企業選考イベントは、ユニークで新しいビジネスモデルを提示する32の出展者候補が決定しており、ウェルネス分野のさらなる進化が期待できます。

大阪から世界へ連携を広げ革新的ビジネスの拡大を

── 将来を見据えどのように関西経済の活性化を支援していますか。

鳥井 大阪商工会議所は大阪市内が所管地区ですが、さらなる発展のためには広域での取り組みも重要です。そこで大阪南部に着目し、大阪市内の難波、新今宮、阿倍野・天王寺・上本町から府内南部の南河内と泉州の地域を「グレーターミナミ」と位置付け、一帯の活性化を目指しています。大阪南部は、大阪の精神文化の発祥の地と考えています。

 エネルギッシュさや元気といった大阪の魅力の源泉は、グレーターミナミにあると言えるでしょう。フレンドリーな気質、長い歴史を物語る重要文化財、豪快なだんじり祭りには、土地の力を感じます。関西経済はこのような精神基盤に支えられ、さらなる成長発展に底力を発揮できるのではないでしょうか。

また、成長著しい東南アジア諸国との連携強化にも取り組んでいます。大阪、シンガポール、タイ、ベトナムの4つの商工会議所で、「日本アセアンビジネス促進プラットフォーム」を立ち上げました。国内の商工会議所とも連携を強めながら、大阪がハブとなってビジネスネットワークを構築していきます。

── 世界との連携の意味では、大阪・関西万博は意義のある機会では。

鳥井 万博は、世界中の人々が、世界で直面しているさまざまな社会・経済の課題を持ち寄り、共に持続可能な理想社会を構想できる場、すなわちSDGsが大きなテーマになると考えています。会場を囲む木製の巨大なリングから世界で最も美しい夕陽を眺めることができます。

 万博に合わせ、大阪市ではスーパーシティ構想が進んでいます。大阪駅前エリアのうめきた2期開発は24年に一部がまちびらきとなり、大手・中小企業にとって、イノベーションが生まれる拠点になります。イノベーションは一朝一夕で起きるものではありません。しかし地元関西のスタートアップや中小・中堅企業、大学などの異なる視点が出会う知的創造拠点がようやくできたと考えています。ポテンシャルと精神力に富む関西の人の力が理想の社会を創造していけるよう、大阪商工会議所は支援してまいります。