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テレビ番組の演出手法を使った動画をマーケティングツールに 本橋亜土 スピンホイスト

スピンホイスト 本橋亜土

住友林業、国分グループ、三菱電機、サントリーなど、名だたる大企業が動画を発注する、動画マーケティングのベンチャー企業・スピンホイスト。テレビ番組の演出方法を用いた動画制作でクライアントのマーケティング施策に大きく力を添えてきた。急成長企業の理由を本橋代表が語る。(雑誌『経済界』総力特集「注目企業2024」2024年5月号より)

スピンホイスト 代表取締役 本橋亜土氏

スピンホイスト 本橋亜土
スピンホイスト 代表取締役 本橋亜土 もとはし あど

動画が営業マンの代わりに見た人の行動を呼び起こす

「行列のできる法律相談所」「しゃべくり007」(日本テレビ)「王様のブランチ」(TBS)ほか、数々の有名テレビ番組のディレクター・プロデューサーとして活躍してきた本橋代表。番組制作会社から独立創業してからもテレビ番組の制作を行っていた。

契機となったのは、縁あって請けた凸版印刷のPR動画制作依頼だ。今までテレビ番組で普通に使っていたメソッドを用いたところ、「こんな動画は初めてだ」と強く感動されたという。

テレビ業界以外でその演出力を使うことに可能性を感じ、2期目からは完全に企業向け動画の制作に舵を切る。以来、高い評価を得ながら次々と大手クライアントを獲得していった。

「テレビには『視聴者に行動を起こす』演出セオリーが確立されています。その手法をそのまま企業動画制作で使うと、ターゲットに狙った行動を起こさせる動画になるのです。テレビで『○○が痩せる!』と言うと翌日日本中から商品がなくなりますよね。その構成力をマーケティングに使うのです」

中には動画を導入後、前年同月比140%の売り上げを連続で達成した大手クライアントもあるという。コロナ禍でオンライン商談が増えた際も、スピンホイストの動画が功を奏した例が多い。

「ただコメントを撮影して映像にしただけでは、伝わる力は7割減。当社が制作する動画は、ナレーションとコメントをうまく組み合わせ、視聴者が『欲しくなる』『導入したくなる』動線を構成でつくっていくため、感情が動かされ商談相手が行動を起こします」

これまで営業マンが口頭で説明していた複雑な内容も「分かりやすく理解させる」テレビ番組の演出方法を使うことでしっかりと伝えることができ、成約率アップにつながりやすくなる。

営業ツール動画のほか、企業ブランディング動画、採用強化動画、社員のエンゲージメント向上を目的とする研修動画など、その活用事例は幅広い。

動画制作から広告運用までをワンストップで行っており、YouTube広告を中心としたSNS運用支援も専門部署が行う。

こうした動画による独自のマーケティング手法を「番組化マーケティング」と名付け、他社との差別化を図っている本橋代表。現在、依頼の8割はリピーターと紹介だ。

「動画が課題解決につながるように構成するのが『番組化マーケティング』です。企業の販売力、人材力、採用力を上げるには、見た相手の感情を動かす伝え方が何よりも重要です」

テレビ番組制作時代のネットワークを生かし、有名ナレーター・タレント・文化人などのキャスティングも得意としている。

2017年の設立以来、急成長を遂げている同社だが、本橋代表が事業を軌道に乗せるまでは苦労もあったという。

「最初はテレビ番組のスタッフがつくる動画だと言えば仕事が入るものだと思っていましたが、現実は甘くなかった。クオリティーが高いだけでは動画は売れません。お客さまの課題解決を段取り、その動線をVTR構成により視聴者に旅させる、実にマーケティングそのものです。そこを意識しアピールできるようになって、ようやく仕事が増えてきました」

コンセプト立案から関わり量産ではなく丁寧につくる

同社の動画制作の価格帯は決して安くはないが、それでも依頼が絶えないのは全ての動画に本橋代表自らが関わっていることも大きい。クライアントの元へ伺いコンセプト立案、構成、仕上りチェック・修正まで行っている。

一方、企業の担当者は「動画のターゲット」と「起こしたい行動変容」さえ伝えれば、構成から提案してもらえるので負担が少ない。それでいて社内評価が高い動画が出来上がるため、本橋代表への信頼は自然と大きくなる。

「量産体制は取りません。一般的な企業の成長戦略とは異なり、依頼が増えても、会社をむやみに大きくせず丁寧につくり続けることが、今まで支えてくれたクライアントへの誠意だと思っています」

また、同社の成功例から、企業PR業界に参入するテレビ番組制作会社も増えてきているという。そうした現在の状況を踏まえて、本橋代表が考えているのは「競合」ではなく、「協合」だ。

「大手の番組制作会社が同様のサービスを始めたのを知って、すぐに連絡を取りました。お互いの強い部分を出し合って協業しませんかと伝えたのです。向こうには組織力、こちらにはノウハウがあります。競合であっても手を取り合って『テレビ制作をベースとした企業動画カテゴリ』を盛り上げて、このマーケットを大きくしていきたいと考えています」

著書『ありふれた言葉が武器になる 伝え方の法則』(かんき出版)でも、伝えたいものをより強く伝えるための演出テクニックを解説している本橋代表。これからも演出力でクライアントや「協合」企業からの支持を集め、動画を使ったマーケティング会社としての地位を築き上げていく。 

会社概要
設立 2017年2月  
資本金 100万円  
売上高 2億3,000万円  
本社 東京都世田谷区  
従業員数 5人  
事業内容 営業ツール動画制作・動画広告運用  
https://www.spinhoist.com/