経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

福祉の人手不足をAIで解決 統合システムの開発に尽力  藤田英明 アニスピホールディングス

アニスピホールディングス

犬や猫と暮らせる障がい者グループホームを運営してきたアニスピホールディングス。昨年、リサイクル事業を展開するリネットジャパングループの傘下となり、新しい事業も続々とスタートしている。今後の展望を藤田英明代表に聞いた。(雑誌『経済界』総力特集「注目企業2024」2024年5月号より)

アニスピホールディングス 会長兼社長 藤田英明氏

アニスピホールディングス
アニスピホールディングス 会長兼社長 藤田英明 ふじた ひであき

医療的ケア対応型のグループホームを直営展開

保護犬・保護猫と暮らすことができる障がい者グループホーム「わおん」「にゃおん」が、全国で1600拠点を突破(2024年2月現在)したアニスピホールディングス。

「人間福祉と動物福祉の追求」を企業理念とし、社会問題を事業で解決するために、グループホームだけでなく、訪問看護、デイサービス、ペットシッターといった事業も展開している。

昨年はグループ会社であるリネットジャパンソーシャルケアの会長に藤田代表が就任。医療的ケア対応施設「リビットホーム&ナース」をスタートさせた。

「筋萎縮性側索硬化症(ALS)、筋ジストロフィー、パーキンソン病といった難病の人が入居できるグループホームをつくっていきます。難病だからといってずっと入院できるわけではないので、治療が終わって退院した後は家族の介護負担が大きい。親が高齢化し、子どもの介護を担えないケースも増えています。これまでグループホームと訪問介護を組み合わせてきたノウハウを活用して、医療的ケア対応型のグループホームを直営展開していきます」

同社はもともと中・重度の障がい者を日中の時間帯から受け入れる日中サービス支援型障がい者グループホーム「ビーハック」事業を手掛けてきた実績があり、医療的ケア対応施設の展開は、競合他社との差別化を図る狙いもあるという。

「医療的ケアが必要な障がい者は全国に約50万人いますが、看護師常駐の受け入れ可能な施設が極端に不足しています。1年に15棟、最終的には600棟の施設が目標です。既に静岡と新潟に開設しました」

モニタリングシステムと介助犬が労働負担を減らす

福祉業界での人手不足が社会問題となっている中、AIを駆使したモニタリングシステムの開発も進めている。

「例えば食事チェックでは、入居者がどれだけ食べたかをスタッフが紙に記録し、それをデータ入力するという作業が発生します。しかし精度が高いモニタリングカメラにより、『7割食べました』といった量まで分かるので、これらの情報が自動入力されるシステムができれば、スタッフの作業を大幅に省力化できます」

現在、障がい福祉サービス事業所は14万業者あるため、パッケージシステムを開発して販売することで大きな収益も見込める。既に福祉用具認定されている排泄予測デバイス&システムもあり、藤田代表は「最先端のITデバイスを統合化したシステムを今年中につくりたい」と話す。

また、介助犬の配置による省力化も可能だという。

「訓練された介助犬は、例えば冷蔵庫を開けてペットボトルの水を持ってくることもできます。スタッフに何か頼みたくても、忙しそうにしていて頼みづらいといった状況も多い中、介助犬がサポートしてくれれば人手不足の一助となり、入居者も癒やされます。自分だけでは散歩には行かない人も、犬の散歩なら行き、リハビリにもなるのです」

藤田代表は日本介助犬福祉協会の理事長を務めており、介助犬の育成にも力を入れている。

「介助犬希望者数は1万人以上いますが、実働している介助犬の数は全国でわずか58頭です。介助犬をもっと育成していける仕組みづくりが急務です」

優良なグループホームを決めるイベントも開催

2023年12月に両国国技館で開催されたイベント「福祉維新」決勝大会
2023年12月に両国国技館で開催されたイベント「福祉維新」決勝大会

昨年は「福祉維新」というイベントを両国国技館で開催し、加盟している福祉事業者がプレゼンテーションを行い、全国ナンバーワンのグループホームを決定した。

「このイベントは、障がい福祉事業者の質の向上と福祉事業者間の交流が目的で、グループホーム運営のクオリティーに得点を付けて競い合いました」

さまざまな新しい取り組みを行っている同社だが、藤田代表は個人事業でもチャレンジを続けている。

動物看護の資格を保有したスタッフによる訪問型のシッティング・介護サービスも実施しているが、動物病院の不足が問題となっている。

「動物病院の獣医が高齢化し、閉院するケースが増えています。地方のCTなどの設備がない病院では、犬猫の病気の判明が難しいといった問題もあります。そのため、最新設備を揃えた動物病院をつくりたいという思いがあります」

さらに保護犬カフェをつくる構想もあり、カフェ、トリミング、ペットホテルに障がい者のデイサービスを組み合わせた複合業態を予定しているという。

福祉業界の風雲児と呼ばれる藤田代表の試みは、24年も各方面から注目されている。 

会社概要
設立 2016年  
資本金 5,300万円  
売上高 20億円  
本社 東京都千代田区  
従業員数 376人  
事業内容 ペット共生型障がい者グループホームの運営、障がい者デイサービスの運営、精神科訪問看護ステーションの運営、ペットシッターサービス&看護サービスの展開など  
https://anispi.co.jp/