ゲストは、第93代内閣総理大臣を務めた鳩山由紀夫氏の妻の鳩山幸さん。宝塚歌劇団卒業生として初のファーストレディとなりました。「夫婦円満の秘訣は、お互い無理せず感謝し合うこと」と語るいつも自然体の幸さん。東京の鳩山会館で当時の思い出を振り返りながら語り合いました。聞き手&似顔絵=佐藤有美 構成=大澤義幸 photo=市川文雄(雑誌『経済界』2024年10月号より)
鳩山 幸 元ファーストレディのプロフィール
夫婦円満の秘訣は自然体で感謝し合うこと
佐藤 幸さんとの出会いは、20年以上前に弊社で発行していたシニア向け月刊情報誌『蘇る!』での料理ページの連載でした。当時は私も編集者で、料理が得意な幸さんのご自宅に毎月伺い、おいしいお茶とお菓子を頂きながらお話を聴くのが楽しみでした。幸さんからは、割り箸を捨てずに菜箸として再利用したり、万能ねぎは細かく刻んでタッパーに入れておくと使いやすいなどと教わり、今でもそれを実践しています。
鳩山 あら、それは今もなお良い生徒だわ(笑)。懐かしいですね。当時はまだ「有美ちゃん」の風貌でしたが、今ではすっかり立派な社長になられて。
佐藤 ありがとうございます。社長に就任して約20年がたちますが、貫禄が付きました(笑)。幸さんは時代が変わっても、ナチュラルな「幸姉さん」のままですね。宝塚歌劇団のご出身ですが、本来は歌や踊りの道に進みたかったのでしょうか。
鳩山 小学生の頃になりたかったのは人前で喋るアナウンサーでしたね。宝塚に入ってからは芸事を一から覚え、周りの言うことを「はい、はい」と何でも聞いてテレビや映画に出演させてもらっていました。私はそんなに欲がないので有名になりたいとも思いませんでしたが、もっと欲があれば芸事の道をそのまま突き進んでいたかもしれません。
佐藤 確かに幸さんは「私が、私が」というタイプではないですよね。2009年にご主人の由紀夫さんが内閣総理大臣となり、ファーストレディという特殊な立場になったわけですが、幸さんの意識や行動、生活は変わりましたか。
鳩山 私自身は特別に何かを意識したとか、行動が変わったとかはありませんでした。私邸から公邸に移ることには抵抗がありましたが、私邸に住み続けると外出の度に家の周りの道路を封鎖しなければならず、ご近所迷惑になるので仕方なく。公邸は立派な建物ですが、生活するには部屋が大きすぎて、またキッチンの調理台は低くて、ビジネスのための場所のようでしたね。主人と一緒にちょっとパンでも買いに行こうと思っても、「分かりました。それではこれから車の手配をします」と1時間も待たされました(笑)。
佐藤 それは大変でしたね。でも幸さんがナチュラルなままだったからこそ、総理となった由紀夫さんにとってもご自宅が心休まる場所になったのでしょうね。近年は年を取ってから仲違いし熟年離婚する方も増えていますが、鳩山夫妻はいつでも仲睦まじくて私の憧れです。
鳩山 歳を取って仲違いしてしまうのは双方の努力が足りないからですよ。お互い無理せずに感謝し合うことが大切で、恥ずかしがり屋の日本人は感謝を言葉にしない傾向にありますが、言わなくても相手に伝わるなんてことはありません。
佐藤 黙っていて背中から学ぶという時代ではないですしね。現代は働く女性も増えており、家事との両立が大変です。その意味で、女性はパートナーからもっとありがとうと言われたい。子育てでは、「私ばかり苦労して」と思いがちですし。
鳩山 そうならないよう、男性も日頃から手伝うようにする。ただ家事に慣れてない方もいるでしょうから、洗い物などから始めるといいですね。うちでは長年、主人が洗い物をしてくれています。お互いに歩み寄って一つの家をつくるわけですから、日常のことに対しても、「ありがとう」を何度でも伝えたいものです。
佐藤 由紀夫さんも同じ考えを持つ方だったのでしょうか。
鳩山 そうですね。主人は本当に普通の人です。元科学者ですが、奇麗な手に私が惹かれて付き合いはじめ、来年はもう50年になりますよ。
「幸流」を通して子どもを育てる親の教育を
佐藤 幸さんはライフワークで料理本を出されたり、ライフコーディネーターとしても活動されています。以前から「幸流」という集まりを催されているそうですが、どんなことをされているのですか。
鳩山 年1度の開催で、もう11年目になります。私は精神世界が好きなので、人の生き方、暮らし方を皆で話し合い、学び合う場として、「幸流」を立ち上げました。毎年夏にここ鳩山会館で催していますが、今年は北海道・栗山で運営している友愛ファームで集まります。
佐藤 たまには東京から離れるのもいいですよね。北海道・北広島市にできたエスコンフィールドなど、もともと自然豊かな北海道に新しい観光スポットなどができて賑わっていますし。次が最後の質問になりますが、幸さんがこれからの人生でやりたいことは。『蘇る!』の時は、「子育て中の親の教育」に関心があるとおっしゃっていましたが。
鳩山 今もそうです。子どもは親が教育するものですが、教育を学校や塾など他人に任せっきりの親は多いものです。そこでまず親が変わらなければ子どもは育ちません。
佐藤 特に子育てに関わる時間が多い母親は、できれば子どもを産む前からそういう教育が必要ですね。
鳩山 そうですね。自分が経験していなければ、子どもにも教えられませんから。勉強、立ち居振る舞い、礼儀作法などは、母親がどういう教育を受けたかが大きく影響します。その上で子育てには夫婦仲が良い関係であることも重要です。そうした教育を「幸流」を通して続けていきたいですね。